幕間の物語154.国王たちは気が早い
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世界樹ファマリーの周囲にはファマリアという町が広がっている。
世界樹を中心に拡張し続けているこの町の南区には、迎賓館があった。
王族が訪れても問題ないようにと豪勢に作られたその建物の一室に、ドラゴニア王国の国王であるリヴァイ・フォン・ドラゴニアがいた。
外側にカールしている金色の髪を弄りながら、窓から見える世界樹を眺めていた。
彼の青い瞳は若干潤んでいて、目元が赤くなっているが、彼に寄り添うようにくっついて一緒に世界樹を眺めていた彼の妻パール・フォン・ドラゴニアは特に何も言わない。
きつい印象を与える顔立ちに似合わない優し気な笑みを浮かべ、ただ静かに立っていた。
「リヴァイ、探したぞ!」
そんな二人の雰囲気をぶち壊すかのように扉を開けて入ってきたのは赤ら顔のラグナ・フォン・ドランだ。
彼の片手には、ドラン公爵領でも有名なワインの瓶が握られていた。
「騒々しいな。何だいったい」
「何だって……祝杯を上げに来たに決まっているだろう! お前の娘と、俺の血縁者がシズト殿と結婚したそうではないか! 今宵飲まずして、いつ飲むというんだ!」
「まだプロポーズを受けただけだ」
「勇者相手だったら、実質結婚も同義だそんなもん」
「シズト殿は勇者ではないだろうが」
「似たようなものだろう?」
ラグナが室内に置かれていた長机の上にワインのボトルを置くと、彼の後からついて来ていた侍女が人数分のワイングラスを置いた。
ラグナは一人掛けの椅子に浅く腰掛けると、ワインのボトルを開けてそれぞれに注ぐ。
真っ赤なワインが注がれたそのグラスの一つを手に取ると、グイっと飲み干してもう一杯注ぎ足すラグナ。
そんな彼を呆れた様子で見ていたパールだったが、夫のリヴァイがラグナの正面に座ったのでその隣に腰かけた。
リヴァイは注がれたグラスを手に取ると、ゆっくりと回す。
「シズト殿と婚約したのに、嬉しくないのか?」
「嬉しいさ。嬉しすぎて先程まで泣いておったわ」
「あえて触れないようにしておいてやったのに、わざわざ自分から言うのか」
「バレているものを隠すのはあほらしいじゃないか」
リヴァイはグイッと注がれたワインを飲み干すと、自分でワインを注ぐ。
「ドラコ侯爵の息子との婚約が破棄されてしまった時には、レヴィアの持つ加護が加護なだけに『やはり無理があったか』と諦めたが……結果的には良かったのかもしれんな。シズト殿がいなければレヴィアは一生一人で過ごす事になっていただろう。例えエンジェリカ帝国にいた勇者たちがレヴィアと出会っていても、加護が加護だから良好な関係を築けたかは分からん」
「他にもっといい王女がニホン連合にはたくさんいるでしょうからね」
リヴァイの太ももに手を添えていたパールが相槌を打つと、リヴァイもゆっくりと頷いた。
「レヴィアには加護で苦労を掛けたからな。人並みに幸せになって欲しいと思っていたが……叶わない夢だと諦めていた。シズト殿がドラゴニアに現れ、魔道具によって加護のコントロールができるようになっただけでも満足していたが、魔道具によってレヴィアは誰が見ても魅力的な女性に代わり、元気よく外を駆け回るようになるとは想定外だ」
「私も、娘の内の一人がドレスを脱ぎ捨てて農作業をするとは思いもしなかったわ」
「俺は推定Sランク以上の魔物にいう事を聞かせているのに驚いたな。駐屯させている兵から報告書が来た時は疑ったぞ。敵意がないと分かるから交渉ができたと言っていたが、俺に同じ力があったとしてもやろうとは思わんな」
「あれはシズト殿が植えた世界樹のおかげだろうから、娘の手柄ではないだろう」
「あら、それは分からないわよ。シズト殿は殆どフェンリルに干渉しないそうだし、レヴィアが交渉してなかったら今の協力関係はなかったかもしれないわ。そうなっていたら、もしかしたら冒険者ギルドが本腰を入れて駆除に乗り出していたかもしれないし、上手く駆除されていたとしても商人や他国への抑止力がなくなったファマリアは、大変な事になっていたかもしれないわ」
「まあ、そう捉える事もできるがな」
頬が上気しているパールがまくし立てるようにリヴァイに物申すと、彼は苦笑を浮かべるしかなかった。
ラグナは駐屯兵からの報告で当初想定していた世界樹関係のトラブルがないのはフェンリルのおかげもあるだろうと考えていたため、黙って頷いている。
ただ、領土が隣接している神聖エンジェリア帝国が攻めてこないのは、世界樹騒動をきっかけに周辺諸国からの反感を買ってしまい動けない事や、ドラゴニアとの全面衝突は避けたいと考えているからだとは考えていた。ただ、それを言うと自分に矛先が向きそうなので口には出さなかった。
「何はともあれ、お前の娘と俺の血縁者が結婚間近という事に変わりはないだろう。そうなると、いろいろと準備せねばならんだろう?」
「そうだな。式は挙げる予定はないとレヴィアは言っていたから、それは置いといたとしても、何も問題がなければ子どもはできるだろう」
「今のうちに腕のいい産婆や治癒魔法使いを多数見繕っておく必要があるわね。同時に身籠る可能性もあるのだから」
「可能であれば聖女の加護持ちも呼び寄せておきたいな。そちらはもしかしたら解決するかもとレヴィアが言っていたが……」
「他国から呼び寄せる必要があるのならば俺よりお前の方が良いだろうから任せる。俺はそうだな……万が一に備えて領都レベルの兵を配置した方が良い、か?」
「それをするならシズト殿に一言伝えておいた方が無難だろうなぁ」
「駐屯兵ではレヴィアの周囲を警備するのは難しいでしょう。近衛兵を増員してはどうかしら?」
「それもシズト殿に一声かけた方が良い気もするが……」
「レヴィアが農作業の手伝いを欲しているからとか何かしら理由をつければ問題ないわ」
「いや、それはそれでどうなんだ……?」
そうは言いつつも、近衛兵増員に関してはリヴァイも肯定的だった。
その後も、どうやってシズトの周りを固めるかや、子どもが生まれた後どうするか等、話し合いは朝方まで続いていたという。
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