313.事なかれ主義者は普通のやり方を忘れた
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料理大会に出店していた多くの店の料理を平らげても、ラオさんとルウさんは二人とも元気だった。
冒険者は食べる事ができる時に食べておかないと、いざという時に力を出せないかららしいけど……普通に食べ過ぎだと思う。
これが冒険者のスタンダードだとしたら、僕は一流の冒険者にはなれないだろうな。なりたいとも思わないから別にいいんだろうけど。
そんな事を思いながら浮遊台車で運ばれ、ファマリーの根元に広がる畑に戻ってきた。
ドライアドたちが運ばれている僕に気付いた。
新しい遊びだと思ったのか、わらわらと集まってきて一緒に台車に乗ってくる。
「お腹は止めて」
順番に仲良く乗れば僕の上に乗らなくても大丈夫でしょ。
魔力マシマシ飴を食後のデザート代わりに舐めていたラオさんが僕のお腹の上に乗ろうとしていたドライアドたちを持ち上げて地面に下ろしてくれた。
「お前、そんなんで夕食食べれんのか?」
「んーどうだろう……ちょっと怪しいし、運動しようかな」
屋敷の周囲にはある程度遊ぶためのスペースを設けられている。
そこでは、パメラとアンジェラに加えて、エルフの幼女リーヴィアが遊んでいた。
翼人のパメラは黒い翼を使って低空飛行している。小柄な彼女だが二人よりも大きいのでお姉さん的な感じに見えるけど、実際に一番お姉さんっぽいのは人族のアンジェラだ。
ピンク色の髪の彼女は遠目からでもよく分かる。飛んでいるパメラをすごい速さで走って追いかけていた。ラオさんとかに仕込まれた身体強化をフルで活用しているのだろう。
トネリコの一部のエルフが差し出してきたリーヴィアは、ちょっと疲れたのか、パメラに抱かれて運ばれていた。ぐったりしているけど仲よく遊んでいるようで何よりだ。
最近はよく笑い、パメラと一緒に悪戯をしては怒られているらしい。悪戯の殆どがリーヴィア発案らしいから元々いたずらっ子だったのかもしれない。
僕に気が付いたパメラが、こちらに向かって飛んできた。
「あ、シズト様デース! 一緒に遊ぶデスよ!」
パメラは結婚を申し込んでもいつも通りだ。
リーヴィアを抱えているので飛びついてくる事はなかったのは幸いだ。今飛びついてきたら絶対お腹の中の物が口から出る。
抱えられているリーヴィアは長い金色の髪をツインテールにしていた。ただ、彼女自身が疲れていてだらっとしているので、心なしかツインテールも元気なく垂れているように見える。
「リーヴィア、大丈夫?」
「……シズト様!? 大丈夫、問題ない! ちょっとアンタ、下ろしなさい!」
「大丈夫デスか? さっきフラフラしてたデス」
「あたしが下ろしてって言ってるんだから下ろせばいいの!」
小さな声でやり取りしているつもりのようだけど普通に聞こえてるよ。
……リーヴィアって、こんな子だったかな。自然体で関わる事ができるようになってきていると捉えれば全然いい事だと思うしいいんだけどね。だから僕の視線に気づいてハッとして慌てて黙らなくてもいいよ。
大人しくなったリーヴィアにちょっかいをかけていたパメラを止めて、一緒に遊ぶ事にした。
激しい運動は避けるとしたら鬼ごっこ系は全部だめだ。
ゆっくりとした運動でもすごく疲れるものって何だろう。
「ボウリングでもするデスか?」
「まあ、1ゲームですごく疲れはしないけど普通にありだよね」
パメラたちには勝てる気しないけど。
……そうだ、ラオさんたちはやってる所をほとんど見た事がないし、初心者なら勝てるかも。
「ラオさんたちもやろうよ、ボウリング」
「アタシは見てるだけでいい」
「私も、シズトくんの楽しそうな様子を見ていたいから見てるだけで十分よ」
二人は考える素振りもなく断ってきた。
でも、護衛はジュリウスがしている事や、ラオさんたちとも一緒に遊びたいとパメラと一緒にお願いをしていたら、二人とも諦めたのか一緒に遊んでくれる事になった。
「どうなっても知らんからな」
「お姉ちゃんだけど、勝負事に手加減はしないの。ごめんね」
なんかやる前から二人に謝られた。
不思議に思いつつもボウリングのレーンを放置してある場所に移動する。
ボールもレーンもピンもたくさん遊ばれ、風雨にさらされているが魔道具化しているため魔力を流せば新品同然に直る。
順番は熟練者からという事になり、アンジェラ、パメラ、リーヴィア、僕、ラオさん、ルウさんの順番になった。
「あ、魔法禁止だからね」
「わーってるよ」
「アンジェラからデース! 早く投げてパメラの番にするデスよ!」
「そんなせかさないの!」
パメラに「早く早く!」と急かされたアンジェラだが、当たり前のようにストライクを取った。
その後に続くパメラを全部ピンを倒した。
「まあ、二人は別格だから」
アンジェラとパメラは当たり前のようにストライクを取ってくる。
次はリーヴィアの番だ。ちょっと休んでいたら体力が回復したらしい。子どもの体力って底なしだもんね。
少し前に職人に依頼して作ってもらったらしい子ども用のボールを綺麗なフォームで投げた。
コースはとても良かったが、端っこの一つだけが残ってしまった。
「身体強化ありだったらストライク取れるんだけど……難しい」
「気持ち切り替えて投げるデスよ!」
「アンタに言われなくても分かってるわよ! あっ……」
リーヴィアと目が合うと、彼女はしまった! といった感じで口を押え、レーンの端っこにある溝に沿って転がって戻ってきたボールを拾うと、二投目を転がした。……なんかめっちゃ回転かかってない?
レーンを転がって進んでいたボールはある地点から急に曲がって、端っこのピンをしっかりと弾き飛ばした。
「リーヴィアちゃんすごい!」
「アンジェラほどじゃないわ」
「パメラはストライク取ったからもっとすごいデス」
「うっさいわね」
「つぎはシズトさまのばんだよ」
アンジェラがニコニコしながらボールを渡してくれた。
お礼を言ってからそれを受け取り、しっかりと狙って一投目を投げた……んだけど、回転が甘かったのか、投げる場所が悪かったのか、右端の方のピンが残ってしまった。
ボールが転がって戻ってくるのを待っている間に、レーンに残ってしまっていた倒れたピンから足のような物が生えてレーンの外に出て行く。
二投目はしっかりと狙ったんだけど、一本だけ残ったピンに当たる事はなく、溝に落ちた。
「ドンマイデース」
「みぎのほう、むずかしいもんね」
「良い回転だったわ」
ちびっ子たちに慰められる。
くそぅ、前世のボールだったらちゃんとできてたのに! と悔しがっている間にラオさんが投げていた。
段違いのスピードで転がっていったボールは、先頭のピンの少し右側に当たり、すべてのピンがドミノ倒しのように倒れた。
「………」
「あんだよ」
「実は隠れて練習してたでしょ」
「んな事しねぇよ。見てりゃできるだろ?」
ストライクを取ったというのに、当たり前のような雰囲気で戻ってきたラオさんをジトッと見ている間にルウさんも一投目を投げ終えていた。
ラオさんほどではないけど、僕たちよりも速く転がっていったボールはしっかりとすべてのピンを倒していた。
「ほらな」
「………」
「お姉ちゃんがコツを教えてあげようか?」
「けっこーです……」
僕だってスピンかけなかったらたぶんストライク取れるし!
そう思って夕食までボウリングをし続けたけど、どう投げても少し回転がかかっちゃってストライクは取れなかった。
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