311.事なかれ主義者は普段通りを心掛けた
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明から誕生日祝いを貰った二日後の朝。
僕は目が覚めるとラオさんが僕に抱き着くように寝ていた。
彼女は魅惑的な下着を着ていてとても目のやり場に困る。
……昨日の夜の記憶は魔力切れのせいで途切れているけど、しっかりとある。まだ手を出していないはずだ。
とりあえずこの大変危険な拘束状態から何とかして抜け出さないと、と思って少し身じろぎすると、ラオさんのまぶたが震えた。
赤い瞳が僕をじっと見て…………再び目を瞑る。
「起きたなら離してもらえませんかね」
「もう少しくらい問題ねぇだろ」
「問題が起きそうだから離してほしいんですー」
問題というか、息子がという方が正しいんだけど。
ラオさんは「仕方ねぇなぁ」といった感じで離してくれたけど、ここ、僕のベッドだから。
ラオさんが間借りしてる状態のはずなのに、なんで僕が我がまま言った感じになっているんだろう。
首を傾げて考えるけど分かるわけもない。
「ルウがもう外で待ってるから、着替えるんだったらさっさと着替えろよ」
言われなくとも、ガウンを羽織ったラオさんがパーテーションの向こう側に消えたら着替えるつもりです。
昨日はお風呂に入っている間にラオさんにプロポーズをしたと思うんだけど……ラオさんが平常運転過ぎて本当にしたのか謎だ。
ただ、平常運転じゃない人もいる訳で、「ああ、皆に結婚を申し込んだんだな」と実感する。
ラオさんと入れ替わるように入ってきたルウさんは、ラオさんと顔立ちが似ているが、若干たれ目で優しい顔つきをしている。長い髪を後ろで一つに結んでいて、駆け寄ってくる際にそれが彼女の後ろで暴れていた。
白いタンクトップは大きな胸の膨らみを隠す事なく、首元が結構空いているため谷間がよく見える。黒のホットパンツは彼女の魅力的な太腿をさらに強調していた。
ルウさんは駆け寄ってきた勢いのまま抱き着いて来て、ベッドの上に押し倒された。
「ルウさんルウさん、着替えたいから出てって?」
「あら? 結婚するからお姉ちゃんが手伝ってもいいと思うんだけど……」
「まだ結婚してないでしょ。結婚したとしてもやだよ、恥ずかしい」
簡単な服だったら、自分で着替える事はできるし。
ルウさんの柔らかな二つの膨らみのせいで問題が起きそうなのでさっさと離れてもらい、パーテーションの向こう側に行ってもらう。部屋の外に出てもらうのは諦めた。
昨日、お風呂場でラオさんにプロポーズした後、ラオさんに「他の奴らにはもう言ったんだよな?」と聞かれて「まだ誰にもしてないよ?」と言ったら盛大にため息を吐かれ「順番が違うだろ……」と呆れられた。
本当は今日起きてからでもいいかな、と思ったけど「さっさと行ってこい」と言われてラオさんの言う順番に従ってプロポーズして回った。
緊張しすぎてよく覚えてないけど……もうしばらくはプロポーズしたくない。
ラフな格好に着替え終わると、パーテーションの向こう側に待っていたルウさんと合流して、食堂へと向かう。
食堂には皆揃っていた。ラオさんもしっかり着替えていて、ルウさんと同じく白のタンクトップにホットパンツという格好だ。今日は冒険者として活動はしないみたい。魔力マシマシ飴を舐めていた。
給仕をしていた狐人族のエミリーと視線が合うと、彼女の柔らかな白い尻尾がぼふっと逆立った。視線が彷徨い、再び目が合うとだらしなく笑ってからそそくさと自分の仕事に戻る。
僕が座る椅子を引いてくれた人族の少女モニカはいつも通りだ。日本人の血を色濃く受け継いだ彼女の黒い目と目が合うと、軽く微笑んできたのもいつも通り……ではないな。
食卓を囲むメンバーで普段通りなのは、ホムンクルスのホムラとユキぐらいかな。ホムラは無表情で、ユキはニコニコしながら僕をじっと見てくる。
……あ、ハーフエルフのノエルもいつも通り魔道具を弄ってた。彼女らしいと言えば彼女らしいな。
ジッと見ていると、僕の視線に気づいたノエルが顔を上げて「なんすか?」と聞いてきたので首を振る。
僕の前に料理が並んだので食事前の挨拶を唱和し、食べ始める。
いつも通りラオさんとルウさんは僕がパンにレモンのマーマレードを塗っている間に食べ終わっていた。
「早食い競争に出たら優勝しそう」
「いや、無理じゃねぇか?」
「上には上がいるもの」
ラオさんたちより食べるの早かったらそれはもはや噛まずに飲むとかそんなレベルなんじゃないかな。
体に悪そうだし、二人はせめて今の食べるスピードのままでいて欲しい。
「シズトは今日、何をするのですわ?」
もしゃもしゃと取れたて新鮮生野菜のサラダを食べていたレヴィさんが聞いてきた。今日も誰かと会うのか、空のような青さのドレスを着ている。露出が少ないというのに、彼女のとても大きな胸が存在を主張している。
「今日はトネリコのお世話をした後は特に決めてないよ」
レヴィさんの顔よりも下に視線が向かわないように意識するけど、どうしてもチラチラ見てしまうのは仕方ないと思う。
レヴィさんは僕の視線について特に気にした様子もなく「私はちょっとお父様たちとお話があるから出かけるのですわ」と言うと、食事を再開した。
レヴィさんにも昨日プロポーズをしたんだけど、昨日のハイテンションぶりが嘘のように今日はとても落ち着いている。その方がこっちも落ち着くからそれでいいんだけどさ。
「私もぉ、トネリコでお仕事があるのでぇ、ついて行ってもいいですかぁ?」
「うん、いいよ。……着替えた方が良い?」
「シズトちゃんはそのままで大丈夫ですぅ、今日はぁ、シズトちゃんがいらっしゃらなくてもぉ、大丈夫らしいですぅ」
のんびりと食事をしていたエルフのジューンさんは、トネリコに行くからか真っ白なワンピースを着ていた。スカートの裾からどんどん上に蔦が伸びているような金色の刺繍がされたエルフたちの正装だ。ただ、彼女は普通のエルフよりも発育が良すぎるので、胸元が苦しそうだ。
「ラオさんたちはどうするの?」
「特に予定はねぇな」
「シズトくんさえよければ、お出かけしない? 一緒にお祭りを見て回りたいなぁ、って」
んー、それはとても魅力的な提案だったんだけど、僕の誕生日を知ってから町の子たちがやる気を出しているみたいだし、今出て行って大丈夫かちょっと不安なんだよなぁ。
壁際に控えていたジュリウスに視線を向けると、彼は「問題ありません」と、僕の聞きたい事を理解した上で端的に答えた。
であれば、お昼はラオさんたちと一緒にお出かけかなぁ。
色々食べてみたい物があるし、ラオさんたちが食べる物をちょっと分けてもらおっと。
ただ、朝ご飯を残すのはエミリーが悲しそうな顔をするのが分かっていたのでいつも通り食べた。
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