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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

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幕間の物語152.元訳アリ冒険者はしばらく潜っていた

高評価&いいね&ブクマ登録ありがとうございます。

 ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地に聳え立つ世界樹ファマリーの近くには、親子のように寄り添うように建てられた二つの屋敷があった。

 大きな屋敷には、不毛の大地の所有者であるシズトと、彼と婚約している者たちが住んでいる。小さな屋敷には婚約はしていないが、シズトの身の回りの世話をしたり、屋敷の管理をしたりしている者たちが住んでいた。

 どちらの屋敷にも浴室はあるが、大きな屋敷の方が広く、お風呂の種類も豊富だ。シズトが入浴している時間でなければ、小さい屋敷で暮らしている面々も利用しても良い事になっていた。

 日が暮れて一日が終わる頃には頻繁に人の出入りがあるその浴室だが、今は誰もいない。

 それもそのはず、この屋敷の主であるシズトが入浴する時間だからだ。

 脱衣所では、シズトが入る前の最終確認として、メイド服を着た黒髪の少女モニカが異常がないか隅々まで確認している。

 一通り確認し終えた彼女が出て行った数分後、黒髪の少年シズトと赤髪の大柄な女性ラオが脱衣所に入ってきた。

 脱衣所に入ってきた二人に会話は特になかった。

 ラオは元々お喋りではないという事もあったが、シズトの様子が少し変だったからラオが気を利かせて何も言わずに近くにいるだけだ。

 シズトはラオが近くにいるというのに、服を脱ぎ始める。


「先に脱ぐのか?」

「……え?」

「いや、いつもアタシが先に着替えて浴室に行ってるだろ? そうしなくていいのか?」

「あ、そっか。じゃあそうして」

「わーったよ」


 シズトから死角となる場所まで移動して、ラオはタンクトップとホットパンツを脱いだ。

 下着をさっさと脱ぐと、持ってきていたアイテムバッグの中から水着を取り出す。


「………今日はこっちにしておくか」


 いくつかラオ用の水着がアイテムバッグの中に入っていたが、彼女が取り出したのは普通の赤いビキニだった。

 布面積の少ない物もあったが、シズトの様子を見て選んだようだ。


「先行ってるぞ」


 そう言うと、ラオは浴室へと向かった。

 浴室には誰もおらず、打たせ湯から流れ出る水が落ちる音だけが聞こえる。

 ラオは入り口付近から動かず、魔力を探ってシズトの様子を窺う。

 考え事をしているのか、普段よりも時間がかかっている。

 ラオが腕を組むと胸が寄せて上げられ谷間が強調されたが、生憎それを見る者は誰もいなかった。


「……聞いてみた方が良い、か? いや、言うまで待った方が良い……よな」


 ラオが迷っている間にシズトは服を脱ぎ終わり、浴室へと入ってきた。

 どこかラオの顔色を窺っている様子だ。


「お待たせ」

「そんなに待ってねぇよ。ほら、さっさと洗うぞ」


 その事に気付いてはいたが、敢えてラオは普段通りに振舞う。

 洗い場の前に風呂椅子を置き、そこにシズトを座らせた。

 シズトの体は、冒険者の男たちと比べると細く、傷跡は一つもない。争いと無縁な世界にいたんだという事がよく分かる。

 ラオは繊細な物を触るように慎重に髪の毛を洗う。黒い髪がみるみる泡まみれになっていく。

 そろそろシャワーで流そうか、と身を乗り出してシャワーヘッドを取ろうとしたところで、シズトが口を開いた。


「ねぇ、ラオさん」

「あんだよ」

「もうすぐ誕生日なんだけどさ」

「知ってるよ」


 シャワーからお湯を出し、勢いを調節しながら自分の空いた手に当てて温度を確かめているラオの返答に、シズトは「だよね」と呟く。


「それで十八歳になるんだけど、僕たちの世界だと十八歳になるとできる事が色々増えるんだよね。お酒は飲めないけど、大人の仲間入り、みたいな」

「ふーん」

「その中の一つに結婚について法律で決められてる事があってさ。僕たちの世界じゃ、十八歳になる迄結婚はできないんだよね」

「……それで?」

「それで……十八歳になるわけだし、ラオさんと会って一年くらい経つし……」


 ラオが鏡に映るシズトを見ると、目線があっちこっち移動していた。

 言葉が途切れ、しばらく「えーっと……」といったような意味もない言葉が彼の口から出る。

 ラオはシズトの頭に視線を移し、泡を流すタイミングを見計らっていた。

 意味もない言葉もシズトの口から出なくなり、視線が下に向いている間にラオはお湯で彼の頭についた泡を流し終えた。

 今度は彼の背中を流すために石鹸を魔道具を使って泡立てて、彼の背中に塗りたくる。

 そうして背中と両腕を泡まみれにした後、洗い流してもシズトが口を開く事はなかった。

 いつもであれば、後は自分で洗うから離れるようにと言われるのだが、何も言われない。

 ラオがジッと鏡越しにシズトの顔を見ていると、何事か決心したのか、しっかりと見返してきた。

 体の向きを変えて、向かい合うように座るシズトが口を開く。


「ラオさん、僕と結婚してくれますか?」

「ああ」

「……返事軽くない?」

「そうか? アタシはそのつもりだったからこんなもんじゃね? あとは体洗うだけだが……全部洗った方が良いか?」

「自分でやるので結構です!」


 くるっとまた背中を見せるシズトを鏡越しに見るラオは、口元を片方だけ挙げてニヤッと笑った。


「結婚するんだろ? だったらいいんじゃねぇか?」

「十八歳になってから! 体洗うからお風呂入ってて!」

「へいへい」


 ラオが背中を向けて水風呂へと向かう。水風呂に肩まで浸かった状態でシズトの様子を窺うと、体を洗っている最中でラオの方を気にしている様子はなかった。

 ラオは胸に手を当てて、ふうっと小さく息を吐く。

 シズトが水風呂に入りに来るまでに、頬の火照りを冷まさないと、と彼女は頭まで浸かった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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