310.事なかれ主義者は特に思いつかない
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夕食の時間まではのんびりと魔道具を作ろうと思っていたけど、レヴィさんの拡散能力がすごくて町が大騒ぎになっているようだ。
窓の外の景色をボケーッと眺めていた時に、畑に手伝いに来ていた子たちがどこかに行ってしまった。どうやら僕の誕生日と知って、より一層祭りを盛り上げるために駆り出されたようだ。
屋敷の子たちも、ほとんどが大なり小なりどこかそわそわしている。
廊下ですれ違ったモニカは、普段は表情を動かす事なく頭を下げるだけだけど、今日は僕と目が合った瞬間に口元が綻んだ。
エミリーは先程から飲み物や間食を頻繁に持ってきている。僕を太らせる気だろうか。全部美味しいからぺろりと頂いちゃうんだけど……そろそろお腹の容量的に厳しいかもしれない。
レヴィさんはドレスを着たままリヴァイさんの所へと向かってしまった。僕の誕生日の事を伝えるようだ。
ランチェッタ様にもついでに伝えてくれるらしいけど、まだお付き合いもしていないのに必要だろうか……ああ、仲良くなるためのきっかけづくりにはなるのか。
全体的に浮足立っている屋敷の中では落ち着かないので、いつもと全く様子が変わらない場所にお邪魔している。
ハーフエルフで魔道具師として働いてくれているノエルの部屋だ。
いつも外の景色に興味はないからとカーテンを閉め切って魔道具の明かりを頼りに作業しているので、外の喧騒は見なくて済むし、この部屋では外部向けの商品を作っているので人の出入りは最小限に抑えられている。逃げ込むにはうってつけの場所という事だ。
「はいはい、分かったっすよ。別に出て行けなんて言わないから、独り言の体でボクに言わなくてもいいっすよ」
「有難き幸せ」
「ボクは誕生日なんて興味はないっすから。……あー、でもシズト様がそうとは限らないっすね。祝ってほしいとかあるんすか?」
机で行っている魔石への付与の作業を止める事無く、ノエルが聞いてきた。
祝ってほしいか欲しくないか、でいうと難しい。
「町を挙げて大々的にやられるのはちょっと反応に困るかなぁ……。身内でならまあ、あり……かも?」
「そうなんすね。身内って言うと、屋敷の子たちっすか?」
「まあ、そうなるかなぁ。友達から祝われた事ってあんまりないけど、家族なら欲しい物を買ってもらうとかはあったし。まあ、最近はお金をもらって自分で買いに行ってたけど」
婚約者は果たして家族に入るのかは分からないけど、同居している人たちは家族みたいなものだと思ってるから、祝われたら嬉しい、と思う。
教室で女子たちが誕生日を祝うためにサプライズで何か準備しているのはやられた時に困りそうだな、と思う事はあったけど。教室にいる全員に協力してもらって歌を歌うって、やらされてる感がある男子たちを見て祝われた人は何も思わなかったのかなぁ。
僕は目を着けられたら嫌だからちゃんと全力で盛り上げたけど……正直めんどかった。町の人たちにもそういう人がいたら申し訳ない気もするから町の子たちは無しかな、やっぱり。
「欲しい物ってどんなの買ってもらってたんすか?」
「ゲームかな」
「ゲーム」
ノエルの手がピタッと止まった。
けど、すぐにまた作業に戻った。
「そう、ゲーム」
「ゲームっすか……他にどんな物貰ってたんすか?」
「えー、他? なんかあったかなぁ」
「何でもいいっすよ。欲しかった物とか」
「パソコンは欲しかったけど高かったし」
「ぱそこんってなんすか」
きょとんとした表情でノエルが僕の方を見てきた。
作業の手が止まってるけど大丈夫なんだろうか。
「んー、なんて言えばいいんだろ、あれ。世界と繋がって、いろんな事を調べたり、ゲームをしたりできる物?」
「…………他はどんな物が欲しかったっすか?」
「他って言われてもねぇ」
「じゃあ、今なら何が欲しいっすか?」
「今? 今かぁ……ん~、何だろうねぇ」
しばらく考えてみたけれど、特にこれといった物は思いつかなかった。
そもそも、今だったら欲しい物は大体お金で手に入るし。
ニホン連合の方からお米も味噌も手に入る。味噌があるなら醤油だってきっとあるだろう。食事の時には見てないけど、調理場に行ったら出てきそうだ。
娯楽は正直少ないな、とは思う。町で行われているのは賭け事とかだし。記憶を頼りに自分で作った物で遊ばれている時はあるけどそのくらいだ。
最近の楽しみは美味しい食事と甘いデザートくらいかな。後は日がな一日のんびりしているし……欲しい物ってあるか?
「もっとしっかり考えるっすよ」
「魔道具作りながらでもいい?」
「そんな事はいつでもできるじゃないっすか。いいから考えるっす」
……ノエルってそういう人だったっけ?
ジッとノエルを見てみるけど、彼女はせっせと廉価版の魔道具を作っていた。
……やっぱり彼女も僕の誕生日が近いからちょっと影響を受けているのかもしれない。
まあ、欲しい物を聞かれる程度だったら別にいいか。
そう思って欲しい物を考え続け、思いつかなかったのでノエルや、ノエルの弟子の人族の少年エイロンと女ドワーフのエルヴィスに欲しい物を聞きながら夕食の時間まで過ごした。
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