幕間の物語149.賢者は面会を求めた
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この世界に転移させられた内の一人、黒川明はエンジェリア帝国に元々所属していたが、その国を出て冒険者として活動をしていた。
黒い髪に黒い瞳という容姿や以前有った騒動の事もあり、この世界の者たちには『勇者』という事がばれてしまうのだが、下手に色を変える事はせずに上手く利用していた。
中性的な顔立ちは冒険を続けていても相変わらずだ。
ローブを羽織って杖を持っている姿から分かる通り、後衛職として活動しているため、筋肉もほとんどついていない。
髪が男にしては長い事もあって女と間違われることもしばしばあった。
そんな彼は、エンジェリア帝国の南にある魔国ドタウィッチの魔法学園に興味があったが、エンジェリア帝国での一件から「自由でありたい」と強く望み、ニホン連合国まで南下を続けた。
ニホン連合国の中にあるいくつかの国を回るうちに、ランクを上げ、半年も経たずにB級冒険者になっていた。今では『賢者』という二つ名がついていた。
彼と一緒に行動している二人は、二つ名がついていなかったが有名なBランク冒険者だ。
一人は茶木姫花。茶色の髪をポニーテールにしている少女だ。
光の神から与えられし【聖女】の加護を存分に使って冒険者としてだけではなく治癒師としても活躍していた。
それが原因で何回かニホン連合の王侯貴族から言い寄られていたが「私以外にも娶ろうと考える人は無理だから」と突っぱねていた。今の所無理矢理手籠めにされた事はないが、何度か危ない時があったので明と行動を共にするようになっていた。
もう一人は金田陽太。金色の髪は動きやすいようにバッサリと切られていて、頬に傷跡ができていた。
姫花の力を使えばきれいに消えるが「傷跡があった方が歴戦の冒険者みたいでかっこいいだろ?」と言って治療を拒否している。
女好きは相変わらずだが、この半年でいろいろ経験し、連れ歩く事は無くなっていた。財布の中身もどれだけ依頼を達成してもほとんど残らないので、前世からの付き合いのある二人と行動を共にしている。
そんな彼らだが、ニホン連合で活動をしていたが、シズトが都市国家トネリコで世界樹の世話を始めたと聞いて西へ西へと突き進んでいた。
「あきら~、本当に行くのか~? わざわざ行かなくても誰かに頼んで届ければいいだろ」
「手元に届く前に止められる可能性があるじゃないですか」
「歓迎されないんじゃない? 別に、姫花たちは言われるがままやっただけだけどさー、一度やり合ってるわけだしー」
「まあ、歓迎されるとは思ってませんよ。ただ、静人には、エンジェリアから逃れる時に助力してもらいましたからね。そのお礼をできていませんでしたし、丁度良い機会じゃないですか。旧知の仲の友人の祝い事に贈り物を渡すだけだったら『帝国から脱出する時に協力した見返りを渡したんだろう』なんてエンジェリアが文句言う事もないでしょうし」
馬車に揺られながら移動している彼らが向かう先は都市国家トネリコ。
世界樹トネリコの異変に対処するためにシズトが訪れていると情報を得た彼らは、エンジェリア帝国を避けてファマリアに向かうよりはこっちの方が良いだろうという事でトネリコへと向かっていた。
道中、冒険者として活動をしつつニホン連合のハニートラップを避け、王侯貴族からの接触も「急いでいるので」と最低限にとどめ、先を急ぐ。
「間に合うといいんですけど……」
馬車に揺られながら探知魔法で周囲の警戒をしていた明が遠くを見ながらぽつりと呟いた。
都市国家トネリコの領土に入ると訪問者を出迎えるのは巨大な木だ。
少し前までは葉が全て落ちてしまっていたが、現在は青々とした葉が生い茂っていた。
「どうやらこの街では僕たちとシズトの事は伝わってないようですね。であれば、いつも通り陽太は宿を手配してください。僕はこの国の代表に話をしに行きますので」
「姫花もいくー」
「………面倒事はごめんなんですが」
「姫花一人にした方が面倒な事になるんじゃない? ニホン連合からやってきてる人たちも多いみたいだし~」
街にはニホン連合から来たであろう黒っぽい髪の者たちがちらほらといる。
彼らは明たちの事を知っているのだろう。様子を窺っている者たちが多かった。
商売をしながら明たちの様子を見ているものはまだいい。問題は明たちと同じ冒険者だろう。なんとか明たちと接点を持ってゆくゆくは仲間になろうと考えているのか、ニホン連合で冒険者をしていた時から接触してくる事が多かった。
陽太が近づいてきた女に手を出して揉め事が起きたり、姫花が男に襲われそうになったりした時の事を思いだした明は、眉間に皺を寄せてしばらく考え、ため息を吐いた。
「黙っていてくださいね」
「分かってるわよ」
「じゃ、俺は宿をさっさと見つけてのんびりヤってるわ」
「程々にしておいてくださいよ。次何か問題起こしても助けませんからね」
「わーってるよ」
信用ならない返事だ、と明は思いつつも何も言わずに見送った。
国の代表などの王侯貴族との対談の場に陽太がいると相手につけ入る隙を用意してしまう事になる。まだ街でトラブルを起こしてもらった方が幾分かマシだった。
陽太と別れた明と姫花は、街の中心部に進み、大きな屋敷を訪れた。
対応したのは声の大きなエルフの女性だった。
「トネリコの番人のリリアーヌだ! 勇者殿がわざわざお越しとは、何用だ?」
「アキラと申します。現世界樹の使徒様の古い知り合いです。使徒様の祝い事のために馳せ参じました」
「祝い事? ああ、婚約の事か!」
「いえ、そちらではなく……というか、婚約したのか。まあ、それはシズトの勝手か」
思考が別の方向に向かい、ぶつぶつと小さな声で明が呟いていると、リリアーヌは眉間に皺を寄せた。元々目つきが悪かったが、眉間に皺を寄せた事でさらに悪くなった。
「婚約ではないとしたらなんだ? はっきりと言え!」
「失礼しました。使徒様の誕生日がもうすぐですので、祝いの品をお持ちしました。また、以前、助けていただいた事もありましたので、そのお礼もかねて直接お会いしたく存じます」
「………」
リリアーヌがきょとんとした表情で明を見ていた。
返事がない事に明と姫花は揃って首を傾げたが、すぐに二人揃って耳をふさぐ事になる。
「た、誕生日だと~~~~!!!」
彼女の驚きの声は、屋敷の外にまで聞こえたという。
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