306.事なかれ主義者は静かに食べていたかった
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プロス様の教会でランチェッタ様と椅子や柱などの装飾の鑑賞した後は、お昼ご飯を食べるために一度屋敷に戻る。
ジューンさんたちには事前に伝えておいたので、特に問題は起きない……はずだった。
扉を開けて中に入ると、普段使っている机はなくて、大きな円卓が置かれていた。
それを囲むように申し訳なさそうな表情のレヴィさんと、そのご家族が揃って座っていらっしゃった。
エミリーは結構緊張している様子だけど、ジューンさんはテキパキと給仕をしている。
「どうしてリヴァイさんたちがいらっしゃるんですかね」
「どうしても何も、娘と一緒に食事をとるためだが?」
「補足するとしたら、新しくできた息子と婚約をするかもしれない方を一目見て見たかったのもあるわね。問題なかったかしら」
「ええ、問題ありませんよ。非公式の対談、という事でよかったかしら?」
「お互い、その方が都合が良いだろう?」
リヴァイさんがそう問いかけると、ランチェッタ様は苦笑しただけで何も答えなかった。
ただ、僕がボケッとしていると、ギュッと手を握ってきて「どこに座ればよろしいのかしら?」と聞いてきたので慌てて座ろうとしたんだけど……この場合って僕たちどこに座ればいいんだ?
首を傾げて考えている僕に気付いたジューンさんに案内された場所に座る。
レヴィさんとランチェッタ様に挟まれた状態で座る事になった。
…………沈黙がきつい。
円卓の向かい側の席に着いているパール様がその薄い赤い色の目を鋭くさせてランチェッタ様を見ていた。
ランチェッタ様は眼鏡を取る事はせず、その視線をしっかりと受け止めている。
パールさんの隣では、その夫であるリヴァイさんがのんびりと食事をしていて、反対側ではガントさんが悟りを開いたような顔でじっと大人しくしていた。
リヴァイさんをじっと見ると、こくりと一つ頷かれたので、僕も黙って食事をしよう、と思ったけどランチェッタ様に止められた。
「……シズト殿、一応ご紹介してもらえないかしら?」
「え? あー、分かった。えっと……まず正面の金色の髪に青い目の男性がこの国の国王であるリヴァイ・フォン・ドラゴニア様」
「様はいらんぞ」
「とまあ、こんな感じですごく親しく接してくれる人です」
「それはレヴィとお前が婚約したからだな」
あれ、そうだったっけ。婚約する前からなんか色々親しい感じだった気がするけど気のせいだったかな。
割とどうでもいい事だから覚えてるわけもなかったので特に否定もしない。肯定もしないけど。
「で、その隣に座っていらっしゃる赤毛の女性がパール・フォン・ドラゴニア様」
「私もこの場では様は要らないわ」
「あ、はい。……よくよく考えたらパールさんの事詳しく知らないです」
ボウリングしたらなぜか球を転がすのではなく普通に投げる事くらいだろうか。
他に何かあったかな、と考えてみたけれど特に浮かばなかった。
「レヴィさんの隣に座っているのがこの国の次期国王のガント・フォン・ドラゴニア様」
「様は要らんぞ。あと、王になりたかったらいつでも交代する」
「けっこーですー。髪の色とか目の色が気になるなら変装の魔道具お渡ししますー」
ガントさんは母親似なのだろう。
薄い赤い色の髪を短く刈り上げて、髪と同色の瞳はまっすぐに僕を見ている。
代々ドラゴニアの主は金色の髪に青色の瞳だったらしいから、彼の見た目で次期国王と認めない人も一定数いるんだとか。
貴族社会は大変だな、と思いつつも紹介が終わったので食事を始める。
食事をしている間、ランチェッタ様とリヴァイさん、パールさんが世間話みたいな感覚で自国の特産品について話をしていた。転移陣が繋がった事によって直接交易ができるという事からそういう話が出たようだ。
ただ、問題はガレオールからこちらに来る転移先だろうか。
周囲にはドライアドたちが常にいるようになっているし、木の根元には真っ白な毛玉が寝ている。
交易用の転移陣の設置も検討したいという話も出たけど、非公式の場で話し合える事と言えばそう多くないという事で、明日以降改めてどこかで時間を取り、対談する事になったらしい。僕には関係がなさそうなのでせっせと魔物の肉のステーキをナイフで切り分けていた。
ただ、なぜかその後はドラゴニアでの僕の話になった。本人がいる前ではやめて欲しいなぁ。
レヴィさんが嬉々として話をしていて、それを温かい目でご両親が見守っていた。ランチェッタ様は先程の国同士の話し合いよりも真剣にその話を聞いてふんふんと頷いている。
…………事実と異なる事が多々あったので、その都度訂正しておいた。
唐突のガレオールの女王とドラゴニアの国王とのお昼ご飯は無事……と言えるかどうかわからないけど終わったので、屋敷を後にして世界樹ファマリーから見て西の方へと足を向ける。
プロス様の教会と突然の僕の思い出話で時間をそこそこ使ってしまったし、今日は教会を見るだけにしよう、という事でエント様の教会に案内する事になった。
ジュリウスに先導され、ランチェッタ様と手を繋ぎ歩いていると周りの視線が集まるが、特に話しかけてくる事はない。
奴隷の首輪を着けた子たちと目が合うと、その子たちがキャーキャーと騒ぐくらいだろうか。
町の西側は外からのお客様たちが泊まる事ができる宿屋や冒険者ギルドが近い事もあって冒険者も多い。
飲食店では昼間だというのに酒を飲んで騒いでいる冒険者たちの姿もあった。その中にどこか見覚えのあるドワーフがいた気がするけど、後で娘さんにチクるべきだろうか。
悩んでいる間も歩みを止める事なく進み、教会が見えてきた。
ランチェッタ様が不思議そうに首を傾げる。
「……他の二柱と比べると普通ね」
「まあ、見た目は普通だよね」
いろいろ魔改造しているけど。
教会の扉の前に立つと、魔動ドアが作動して勝手に開く。
教会の中では町の子どもたちが魔道具に魔力を流して、映し出されるいろいろなエント様をじっと眺めていた。
とりあえず僕の用事を先に済ませようと思い、この教会の神父を任せているホムンクルスのアッシュに一声かけてから神像に触れて【加工】した。
像を元の場所に戻して振り向くと、子どもたちに混じってランチェッタ様が魔道具に魔力を流していてとても興味深そうに眺めている。
ディアーヌさんは神様に何やらお祈りをしているようで、手を合わせていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
体調の良い時に書き直すかもしれません。ご承知おきください。




