305.事なかれ主義者はしばらく一緒に鑑賞した
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景色が後ろへとゆっくり流れていく。
ランチェッタ様が魔動トロッコに興味を示されたので、一緒に乗車中だ。
一緒の車両に乗るのはどうなんだろう? と思ったけど、ディアーヌさんに何か耳打ちされてハッとした様子のランチェッタ様が「他の方々に迷惑だから一緒に乗りましょう」と言ったのでそういう事になった。確かに後ろの車両の子たちはすし詰め状態だ。
僕が最初に乗り込んで座った後に、ランチェッタ様が僕の足と足の間に体を入れてきて、背もたれにする感じで僕にもたれている。
彼女の灰色の髪からはとてもいい香りがする。
僕の両手はランチェッタ様に捕まって、後ろから抱きしめるような体制になっていた。柔らかく温かな感触が伝わってくる。
ディアーヌさんが小走りで魔動トロッコを追いかけていて大変そうだけど、とてもいい笑顔だった。
最初は耳を真っ赤に染めて縮こまっていたランチェッタ様は、今では特に気にした様子もなく町並みを見ている。
「ここは職人たちの区画なのね。騒音が全然聞こえてこないのだけれど、作業をする時間帯を守らせているのかしら?」
「いや、遮音結界っていう魔道具をちょっと改良して、外に音が漏れない魔道具を作ったから時間を気にせずに作業してるはずだよ」
「それはシズト殿が?」
「うん、作った。町が広がれば広がるほど作業をするための環境を整える必要があるから今後も時間のある時に作っていくつもりだけど……できれば廉価版でもいいから作って欲しい物の一つだね」
結界を張る魔法陣の文様自体はある程度推測はできているとノエルがいつだったか言っていたけど、それから何も言われてないし、進展がないんだろう。寝る前の日課である魔力消費のついでに、浮遊台車やこういう結界を作っていこう。
「そう、残念ね。シズト殿以外が作る事ができたら頼もうと思っていたけれど、仕方ないわ」
しょんぼりと肩を落としたランチェッタ様だったけれど、すぐに気持ちを切り替えたようだ。周囲の景色をまた見始めた。何一つ見落とさないようにと視線を向けている。
町を行き交う子どもたちが咥えている魔力マシマシ飴について話したり、そのついでにレヴィさんと僕愛用の脂肪燃焼腹巻について話をしていると、目的地が見えてきた。
「あそこがプロス様の教会だよ。あんな見た目だから分かりやすいよね」
「……金色の建物を作るなんて、やっぱりシズト殿も異世界からいらした方なのね」
「別に僕が全部作ったわけじゃないんだけど……他の勇者とかもああいうの建ててるの?」
「勇者が建てた黄金の建物もニホン連合にはあるらしいわ。ただ、どちらかというと勇者様たちがいた世界には金色の建物が古の都にあるという話の方が有名ね。また、はるか昔には黄金の国と呼ばれていた事もあるのよね」
「金閣寺の事かな。あれ、確か金箔を貼ってるだけだった気がするけど……」
黄金の国はどうだったかな。そういう説があるっていう話だったような気がするけど……。
首をひねって考えている間に、トロッコが停車して先頭車両でトロッコに魔力を流していた少女が「加工神教会前~」と繰り返しアナウンスしていた。
ランチェッタ様がアナウンスしている少女が使っている魔道具『拡声器』に興味を示していたけどとりあえず降りるのが先だ。
トロッコに並走していたディアーヌさんに手伝ってもらって、ランチェッタ様が降りた後、僕もトロッコから降りた。
そして、ランチェッタ様の手を引いてプロス様の教会へと足を運ぶ。
太陽の光に照らされてアダマンタイトが金色に輝いていて、正直眩しい。
「……これが全部アダマンタイトなのよね」
「全部っていうか、表面だけね。細かい装飾とか僕には無理だから、ドワーフが建てた教会に薄く伸ばしたアダマンタイトをメッキ加工みたいな感じでくっつけただけだよ」
「だけって……ドワーフですら加工できないと言われているアダマンタイトを自在に操っている自覚が足りないようね」
呆れた様子のランチェッタ様が僕を見てくるけど、加護のおかげだからかすごい事をしているっていう実感があんまり持てないんだよね。結局は与えられただけの力な訳だし。
アダマンタイトでメッキ加工された扉は常に開けられていて、気軽にプロス様の教会の中に足を踏み入れる事ができる。
室内はメッキ加工すると目が疲れるので流石に普通だ。
いや、ドワーフたちが自らが培った技術を惜しげもなく使って建てられた教会だから柱とか壁の装飾はすごいんだけどさ。外側のインパクトが強すぎるんだよね。
ただ、ランチェッタ様は内側の物にも興味が多少湧いているようだ。
置いてある置物や壁や柱の装飾をじっくりと見ては売ったらいくらになりそうとか呟いていた。が、桁が桁だったので聞かなかった事にして奥へと進む。
今日は神様の像を作り直す事を目的でやってきたので、この教会の管理を任されているドワーフたちに断りを入れてからササッと成長した姿に作り直した。
神像を元の場所に戻して振り返ると、ランチェッタ様は信者が座る用の椅子の装飾をじっくりと眺めていて、その後ろでディアーヌさんが額に手を当てていた。
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