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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

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幕間の物語144.元訳アリ冒険者たちは訪れた

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 大海原を風を気にせず船が行く。

 帆を張らずに進んでいくその船は、エンター号という魔道具化された船だった。

 立派な髭と帽子を被り、肌がこんがり焼けた海の男キャプテン・バーナンドが鼻歌交じりに舵輪を操作している。

 周囲の乗組員は周囲の警戒をしている者もいれば、甲板の掃除をしている者もいる。また、魔法陣の中でカードゲームに興じている者たちもいたが、彼らも魔力供給という立派な仕事に励んでいた。

 幾度も魔物の襲撃があったため、甲板の上は血で汚れていたが、怪我をした者は誰一人いなかった。

 それもそのはず、この船にはBランク以上の冒険者が複数人乗り込んでいた。

 一人は『鉄拳』の異名を持つ赤髪の女性ラオだ。シズトの専属護衛として働く事にしてからは、ほとんど冒険者としての活動をしていなかったが、時折日帰りでこなせる依頼をしていたため、ランクは落ちていない。

 魔物由来の黒い光沢を放つ鎧を身に着けている彼女は、人族にしてはとても大きい。

 引き締まった肢体にとても大きな胸部は周囲の海の男たちの視線を集めていたが、彼女はその事を気にした様子もなく、短い赤い髪を風で靡かせながらその赤い瞳で船の行き先を見据えていた。

 しばらくそうしていると、船室から彼女と容姿が似ている女性が出てきた。

 ラオの妹であるルウだ。彼女もまた、Bランク冒険者だったが、長い間呪いの影響で活動をしていなかったため、ランクが落ちていた。ただ、彼女の命の恩人であるシズトのために少しでもランクを上げておこうと、努力してCランクまで戻す事ができていた。

 後ろで結われた長い赤髪を靡かせながらラオの方へと歩いて行く。

 その度に彼女の武器であり防具でもあるごつい靴がゴンゴンと音を立てる。

 姉であるラオと同じ素材を用いて作られた防具は、ラオとは異なり最低限の部分しか守っていない。動きやすさを重視しているからだ。


「ラオちゃん、外にいると日焼けしちゃうわよ?」

「別に構わねぇよ。それに、船室にいるよりましだ。船酔いでつぶれているボビーと一緒にいるとこっちまで気分が悪くなるだろ」

「まあ、そうかもしれないけど……ベラちゃんの介抱のおかげでだいぶ元気を取り戻してきたみたいよ?」

「それはそれで五月蠅そうだな」

「ベラちゃんも『ずっと船酔いだったら良かったのに』なんて言いながら介抱してたわ」

「まあ、何だかんだ言って嫌いじゃねぇんだろ」

「そうねー。ボビーくんがもう少し余計な事を言わなければとっくの昔にくっついてたかもしれないんだけど」


 ルウはラオの横に並んで一緒に船の行く先を眺め始めた。

 視線の先には水平線の先まで何もない。

 青い海と空、そして白い雲が点々とあるだけだ。

 魔物の襲撃は時折あるものの、平和だった。

 護衛としてギルドからたくさんの魚人が派遣されたのも大きいだろう。

 ダンジョンがある島まで、特に問題もなく進んだ。

 島に上陸したのはラオとルウを含めて四人だけ。後の乗組員と魚人の冒険者たちは交代で休みを取りながらエンター号の護衛をする事になった。

 魔道具化されたボートから一番最初に降りたのは、まだ顔色が悪い大柄な男ボビーだ。

 ラオとルウよりもさらに大きな彼は、鎧を身に纏い、背中には大きな盾を背負っていた。

 彼はまだ万全な状態ではなさそうだが、振り返って後から下りてきた者たち大きな声で話しかけた。


「魔動船ってのはすごいな! あっという間についちまった」

「そうね。シズト様の加護頼りという所がネックな所だけれど、冒険者ギルドでも欲しいわ。何とかならない?」


 ラオとルウに向けて問いかけたのは、ファマリアにある冒険者ギルドのギルドマスターであるイザベラという冒険者だった。

 とんがり帽子を被り、ローブを羽織って、片手で持てる短めの杖を持っている彼女の両手の指には指輪が嵌められていた。

 シズトから冒険者ギルドにダンジョンの調査が依頼された際に、丁度いたボビーとイザベラが、ファマリアにいる冒険者の中で一番ランクが高かった事と、ラオとルウの元パーティーメンバーだった事もあり、今回の調査に同行する事になった。ファマリアの冒険者ギルドの留守居役はクルスが勤めている。

 問いかけられたラオとルウはお互いに顔を見合わせてから、肩をすくめた。


「そういう事は私たちに言われてもどうしようもないわ」

「ホムラに言え」

「まあそうなるわよね……冒険者ギルドも、魔法陣を描ける子を育てるべきかしら。子どもたちが遊んでいた独楽……だったかしら? あれも魔動船に積まれているスクリューとかいうのと同じような効果なのでしょう?」

「らしいな。ただ、加護持ちが作った方が効果は高いみてぇだけどな。無駄話はここまでにして、とりあえず島の安全確認をするか」

「そうね。ボビーは本調子じゃないみたいだから、この近辺で拠点を確保するわ。あの岩の壁のようなところを越えた先でいいかしら?」

「いいんじゃねぇか? ダンジョンから魔物が溢れてる気配もなさそうだし」

「むしろ警戒するべきは海からの侵入ね」

「そこら辺は何とでもなるわよ。ほら、ボビー、吐いてないでさっさと行くわよ」

「おう!」


 イザベラを後を追うように、ボビーが若干フラフラしつつもその後を追う。

 ボビーの後ろ姿をラオとルウが見ながら呟く。


「……今さっきまで吐いていたのに大きな声で返事できるのはすごいわよね」

「無駄に元気なだけだろ。それより、設営道具をさっさと出して安全確認するぞ」

「分かったわ」


 地面から隆起した岩を乗り越えて壁の内側に入るとフェンリルが暴れた爪痕が残っていた。

 魔物の死体は地面の中に埋めたが、切り刻まれた木々や草花は放置していったらしい。

 イザベラが魔法で周囲から物をどかしたスペースに、アイテムバッグから次々と野営に必要な物を出していく。

 それを見ながらイザベラは「やっぱり冒険者ギルドに引き入れとけばよかったわ」とぼやいたが、いろいろやらかす黒髪の少年の事を思い浮かべ、ラオは手に余るだろうな、と思うのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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