292.事なかれ主義者はウィンドウショッピングをした
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ドレスを着たレヴィさんは王都の方でちょっとやる事があるらしい。武装したドーラさんとメイド服姿のままのセシリアさんを連れて出かけてしまった。
ノエルは相変わらずご飯を食べ終わったら部屋に引き籠り、魔道具を作りつつ後進の育成を頑張っているようだ。
ホムラは面会希望者の相手をしに行き、ユキはドランにある魔道具店『サイレンス』の店番をしに行った。
残された僕は、トネリコのお世話をサクッと終わらせてジューンさんと一緒に町へ向かう。
ジューンさんは麦わら帽子を被り、真っ白なワンピースを着ていた。腰が紐のような物でギュッと絞られているので、エルフらしからぬ胸がより強調されていた。
白くて綺麗な手で僕の手を握りしめ、並んで一緒に歩く。
屋敷から出るとドライアドたちと一緒に小さな子どもたちが働いている。
気にしないように仕事を続けて欲しい事は以前伝えたけど、気になるものは気になるよね、分かる。
チラチラと視線を向けられている事に気付きながらもその事は指摘せず、視線を浴びながら畑と畑の間の道を進む。
そうしていると、わらわらとドライアドたちが集まってきた。いつも以上に集まってきているのはなぜだろう?
不思議に思いつつも、進行方向を塞がれてしまったので退いてもらおうと口を開いたら、小さなドライアドたちが先に話し始めた。
「人間さん! 今日の朝、何食べたの!」
「私たちの食べたの?」
「たくさん~?」
「いつも通り食べたよ」
「レモン!」
「も、ちゃんとパンに塗って食べました」
足元にしがみ付いてきていたレモンちゃんの頭を撫でる。
小さなドライアドたちは僕の答えを聞くと、不思議そうに首を傾げ、僕から少し離れて何やら話している。
その様子を見ていたジューンさんがそっと僕の耳元に口を寄せてきた。
「どうやらぁ、トネリコの子たちから物を貰った事を気にしているみたいですぅ」
「トネリコの子って、向こうの?」
「そうみたいですねぇ。ここの子たちの方が先に渡しているのに、どうして向こうのを先に食べていたのか気にしているみたいですぅ」
どうしてもなにも、すぐに腐りそうだったし。
ただ、ドライアドたちにはそれは通じないだろう。
自分たちで採取した果物や野菜はもりもり自分で食べてるし。
あの小さい体のどこにそんなスペースがあるのか不思議なくらい食べるのは知っている。
どう説明したものか、と考えていると、ドライアドたちの密談は終わった様で、一人が代表して目の前にやってきた。
「人間さん、あっちの子たちと私たちのどっちが美味しかった」
「もちろん、ここでもらったお野菜とか美味しかったよ?」
嘘ではない。
世界樹が関係しているのかそれともドライアドたちの魔法の影響か、めちゃくちゃ美味しいし。
それを聞いてジーッと僕の目を見ていた無数の瞳が、僕から逸らされた。
どうやら許されたらしい。
……でも、許してくれたのなら足元に纏わりついて歩くの邪魔するの、止めて欲しいなぁ。
いつも以上にたくさんの収穫物を渡されるので、それをアイテムバッグに入れながら町へと向かった。
ドライアドたちは基本的に畑と町の境界線から超える事はないので、町に入ってしまえばこっちのものだ。
纏わりついていた子たちも、町に足を踏み入れると、髪の毛の拘束がなくなり、とことこと畑に戻っていった。何かしらのこだわりがあるのかもしれない。
畑の方を見るとドライアドたちがジーッとこちらを見ている。
「帰ってきたらまた捕まりそうだなぁ」
「そうですねぇ。レヴィちゃんが帰ってくるまで、町で時間を潰しましょうかぁ?」
「そうだね、そうしよう」
レヴィさんは農作業を通して、青バラちゃんと同じくらい小さいドライアドたちの扱いが上手い。
僕もジューンさんも駄目だったけど、レヴィさんならあるいはいい感じに宥めてくれるかもしれない、なんて淡い希望を持ちながらその場を離れた。
町の子たちが寝泊まりしている建物が密集している所を歩いているけど、周りの子たちはチラチラと見てくるだけで何もしてこない。以前、僕を見かけても気にしないで、と伝えておいたからそのおかげだろう。
町の子たち向けに路上で商売をしていた商人たちも、僕の髪の色と手を繋いで歩いているジューンさんを見ると何やら獲物を狙う捕食者のような鋭い眼差しになったけど、じっと見てくるだけで何もしてこない。
下手な事をすれば通行人たちに紛れている僕の護衛が黙っていない事を知っているからだろう。
時々何やら周囲が騒がしくなるけど、そちらを見た時には既に静かになっていて、ジュリウスが僕に向けて頭を下げているだけだ。……深く考えないようにしよう。
きょろきょろと町の中を見て回っていると、商業ギルドが管理しているマーケットに辿り着いた。
そこでは町の子たち向けにいろんな物を持ち込んで売る行商人たちがいるんだけど、以前見た時とは異なり料理に必要な道具が並んでいた。それを真剣な表情で見比べている子たちがたくさんいる。
「料理大会に向けて練習している子たちに売ろうと考えたんでしょうねぇ」
「ふーん。僕が作っちゃえば早いんだけど、それだとお金が消費できないもんね。町の子たちにはどんどん使ってもらわないと」
「それにぃ、シズトちゃんが作った物だとぉ、恐れ多くて使えないって子が出てくるかもしれませんねぇ」
「それはないんじゃないかなぁ。量産品になるだろうし」
屋敷とかだとそういう事はなかったし。
僕がそう言うと、ジューンさんは微笑んでいるだけで何も言わなかった。
……気軽に生活用品を作って渡さないようにしようかな。
そんな事を思いつつも、のんびりとジューンさんと手を繋いで露天商を見て回った。
最後までお読みいただきありがとうございます。




