幕間の物語11.全身鎧は訳アリ冒険者と協力する事にした
ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランにある『猫の目の宿』である夜、甲高い音が鳴り響いた。
窓から室内に押し入ろうとした賊が、魔道具を壊したから起こった事だった。
同じ階で寝泊まりしていた金髪の少女ドーラも、その音を聞いた瞬間に飛び起き、轟音と共に宿全体が揺れたのを感じながら自動探知地図を広げた。
魔力を流して確認したが、魔力の反応は増えていない。ちょっと室内のレイアウトが変わり、シズトとラオの部屋の壁の一部がなくなった事と、おそらくラオがシズトのすぐそばにいる事くらいだった。
鎧を身にまとう時間も惜しい。
ドーラは大きな盾を持ち、シズトの部屋へと急いだ。
室内に入ると、床まで伸びた黒い髪が特徴的なホムラと、赤い髪と大きな体躯が特徴的なラオがいた。
ラオの足元には黒髪の少年、シズトが身動き一つせず、眠っている。
辺りを警戒してしばらく待ったが、結果としては室内に賊はいなかった。
甲高く不快な音はこの宿の代表であるライルが来ても鳴りやまず、ホムラがアイテムバッグに突っ込んでやっと音がなくなった。
「よくこんなうっさい状況で寝てられんな」
ラオが呆れた様子で足元で寝ている少年の寝顔を見る。
足でつんつん突いているが、起きる気配がなかった。
魔道具の力を改めて実感しつつ、ライル以外のその場にいた女性たちがシズトの部屋に残った。
ラオが入った瞬間に、外には誰もおらず、ドーラが自動探知地図を見た段階では魔力反応がまったくなかった。
ここから導かれる結論と言えば、相手も魔道具を使っている事だった。
ひとまずその夜は交代で襲撃を警戒する事になった。
ホムラは2人のいう事は聞かず、ずっと起きていたが。
翌朝、ライルに怒られしょんぼりしながら新しく魔道具を作り出してラオが作ってしまった大穴を修復しているシズトを置いて、ドーラは自室に戻った。
自室にやってきていた使い魔からの伝言は不可解なものだった。
『襲撃があったと思うが、もう解決した。引き続き、転移者の護衛を続けろ』
報告をする前にすでに解決しているという状況に疑問を感じつつも、ドーラは「護衛を続ける」とだけ返して荷物をまとめて外に出る。
シズトの部屋へと戻ると、すでに穴は塞がっていた。
「これからどこで寝泊まりすればいいんだよぅ」
しょんぼりしながら荷物をまとめて外に出たシズトにドーラが声をかける。
「ついてきて」
手を取って先導をするドーラ。
向かう先は、昔彼女の母親が使っていた屋敷。
領主が代替わりをしてから管理する者もいなくなったその屋敷は荒れ果てていたが、仮住まいをするなら問題なかった。
特に屋敷に思い入れのなかったドーラは、シズトが気に入ればここに住んでもいいし、気に入らなければ別の場所を探せば良いと考えていた。
「ここに住めばいい」
「勝手に住んでいいの?」
「問題ない。今日から私の家」
まあ、多少問題はあるが、後から報告すれば問題はなくなるので、ドーラはそう答えた。
兼ねてより「もっと交流を増やせ」と言われていた彼女にとって、一つ屋根の下に暮らせば文句は言われないだろう、なんていう打算もあった。
「いや、でも悪いよ。冒険者ギルドにまた宿紹介してもらえばいいし」
「今回の事は報告が行ってるだろうし、騒動が起きてもいい高級宿なんてねぇぞ」
猫の目の宿の近くには他にも宿があった。
そこから噂が広がってしまうのは避けられない。
断られる可能性が高い状況だった。
それに、シズトにとっては悪い話ではないとドーラは考えていた。
「魔道具実験し放題」
「確かにこの辺りはバカみたいに儲けてる商人とか、貴族の別邸とかが立ち並んでる場所だからな。それぞれの建物が物理的に離れてるから、ある程度は大丈夫だろうな。変な奴が入ってきたら切り捨てれば入ってきたやつが悪い、ってなるし」
「魔道具売り放題」
「あー、近くに露天商のスペースあったな。ホムラも楽になるんじゃねぇの」
上流階級が集まって住んでいる地区なので、上流階級向けの魔道具は高く売れるだろう。
それこそ、腹巻を売るだけで大金が入ってくるのだ。
シズトは悩んでいたが、結局住むことにしたようだ。
ただ、そのためには掃除が必要だと判断し、全員で大掃除をすることになった。
「にしても、これほんとに悪用されねぇようにしねぇとやべぇよな」
と、ラオがぐっすりホムラの腕の中で寝ているシズトを見ながらため息をついた。
ホムラはシズトの頭に安眠カバーをしている枕を押し当てながらシズトを持ち上げ、大きなベッドの中央に移動させている。
頭が安眠カバーについている間は熟睡している状態のようだ。
それこそ、悪用の仕方はドーラもいくらでも思いついていた。
しばしの沈黙が続き、ホムラはシズトのすぐ隣で寝顔を見ていた。ドーラとラオもベッドに腰かけながら彼の寝顔を見ている。
「……この屋敷がお前の物ってことは、そういう事って考えていいんだよな?」
「………」
「まあ、アタシとしては領主がバックについていてくれるんだったら護衛が楽でいいけどな」
ギルド側が先に囲い込んでいたわけだが、領主とシズトの取り合いをし始めたらそれこそ彼はどこかへ行ってしまうと分かっていたので、ここは協力した方がいいんじゃないか?
そんな意図をラオから感じたのは、彼女も考えていたからだろう。
窓の外からこちらをじっと見ていた使い魔を室内に招き入れ、伝言を託す。
「これからは冒険者ギルドと協力して護衛を行っていくことにした。話し合いはそちらで済ませればいい」
そのくらいはやるべきだ、と面倒事を使い魔の主に押し付けて、ドーラはベッドにもぐりこんだ。ラオも同じベッドに横になる。4人が横になってもまだ多少の余裕がある大きなベッドに川の字になって寝る。
護衛と言いつつも、この屋敷のある地区に賊が入るような事は滅多な事では起きないと分かっていた2人はしばらくすると、寝息を立てていた。
皆が寝静まった中、ホムラだけがずっとシズトの寝顔を見ていた。
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