265.事なかれ主義者はせっせと書く
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ラオさんとルウさんだけではなく、ドーラさんやセシリアさん、ホムラとユキとも婚約する事になった。
ドーラさん以外の三人は特に何も言わなかったし、ラオさんたちのように過度にくっついてくる事はなかったんだけど、ドーラさんはただ一言「いいの?」と聞いてきた。
ドーラさんが嫌じゃなければ、と僕が言うと、ドーラさんは何事か考えている様子で足元に視線を向けていたが、僕の方を見て「私は問題ない」と言ったので、ドーラさんとも婚約した。
そんな感じで慌ただしかった昨日だったけど、今日も目を覚ますと一波乱あった。
「おはようございます、マスター」
「……おはよう、ホムラ。ちょっと近いから離れてもらっていいかな?」
昨日のお世話係であるホムラが、僕にくっつくように添い寝をしていたのだ。彼女が着ているのは透けているワンピース型のセクシーな寝間着だった。
ホムラの長くて艶やかな黒髪が大事な所を隠してくれているけど、白くてきれいな肌が目に毒だ。
そっと視線を逸らして、ホムラに自室で着替えてくるように言うと、ホムラは素直に部屋から出て行った。
……もう少し落ち着いてから立ち上がろう。
婚約をして変わった事の中で一番の問題はさっきの添い寝だ。
その日のお世話係と一緒に布団に入る事になったのだ。僕の自制心が試される……。
何とか昨日は何事もなく寝る事になった……というか普通に魔力を使い切って気絶するように眠ったんだけど、朝の対策も考えないとな。
下半身が落ち着くまで思考に耽っていたけど、ある程度治まったので立ち上がり、衣装棚の中から服を取り出して着替える。
今日は特に予定がなかったのでラフな服装で問題ないだろう。
……ああ、でもトネリコに行く場合はそれっぽい恰好しとく必要があるのか。
「……まあ、特に何も言われてないし、明日以降でいいや」
到着した、とは連絡が入ったが「今すぐ来てくれ」とは言われていないので、まあ放っておいても大丈夫だろう……たぶん。
一応後でジュリウスに確認しよう。
脱いだ寝間着を畳んでベッドの上に置くタイミングで、パーテーションの向こう側から声が聞こえてきた。
「ご主人様、もうお目覚めかしら?」
「うん、起きてるよ」
パーテーションの向こう側から姿を現したのは、体をすっぽりと覆い隠すローブを身に纏った、いつもの魔法使い然としたユキだ。
白い髪に褐色の肌の彼女は、黄色の瞳で僕を捉えると足早に近づいて来る。
「朝のお手伝いを、と思ったのだけれど特に必要なさそうね、ご主人様」
ベッドや僕の体に視線を向けたユキが残念そうに言う。
下半身に視線が行った事に何か言ったら藪蛇になりそうなので黙っておく。
「それじゃあ、朝食に行きましょうか、ご主人様。それとも、先にお風呂で体の汚れを落とすのかしら?」
「汚れ? 魔道具のおかげで寝汗とかかかないから必要ないかなぁ」
「…………そう、わかったわ、ご主人様。それじゃあ、皆が待っているから食堂に行きましょう」
何か気になる間があったけど、特に何も言わずにゆっくりとした動作で廊下へと向かうユキ。
僕はその後を追い、ユキとお喋りをしながら一階の食堂へと向かうのだった。
朝食を食べ終え、世界樹のお世話も済ませた後は二階の書斎で筆を執る。
レヴィさんに一週間待っていただけるように手紙を書いてもらったけど、結局心配していた同居人たちとの婚約はサクッと片付いてしまった。
だから、ランチェッタ女王陛下さえよければ手紙のやり取りから始めようかなと思って、元貴族令嬢だったモニカ監修のもと手紙を書いている。
僕が使っている机の近くでは、小さな机を並べてアンジェラが僕に向けてのお手紙をせっせと書いていた。
彼女のピンク色の髪や瞳を見るといつも、ファンタジーな世界にいるんだな、と実感する。
文字を一通り覚えたアンジェラが「久しぶりにお手紙を書きたい」と申し出てきたので今に至るんだけど、アンジェラと一緒についてきた翼人族の奴隷のパメラは暇そうに床の上でバタバタしている。
先程までピーピー騒がしかったので「ちょっと静かにしてて」とお願いしたら今度は翼をはばたかせている。
「そんなに暇ならパメラも手紙書く?」
「そんな事より外で遊びたいデス!」
「あ、そう。じゃあ手紙を書き終わるまで大人しくしてて。バサバサ羽の音がうるさいし」
柔らかくていい感じの触り心地のパメラの黒い羽なんだけど、はばたかれると結構音が気になるし紙が風に吹かれてちょっと……いや、だいぶ鬱陶しい。
「しょうがないなぁ。アンジェラはもうかきおわったからあそんであげる」
「やったデス! 今日は何して遊ぶデスか?」
「んー……とりあえず、シズトさまがおてがみかきおわるまでボウリングしよ」
「え~、アンジェラとだと決着がつかないからつまらないデース」
もうほぼほぼストライク取っちゃうもんね、二人とも。
「わざと一番後ろの両端の二本だけレーンに並べて、それを倒す勝負してみたらいいんじゃない?」
「そんな事できるんデスか?」
「なんかいい感じにやるとできるらしいよ?」
やり方よく知らないけど。……外だからできないかな?
そう思って別のピンを残すように言おうと思ったけど、既にパメラはアンジェラを抱えて窓から飛び立った後だった。
……まあ、いいか。
僕は気を取り直してモニカと一緒にせっせと手紙を書いては手直しをしてを繰り返した。
最後までお読みいただきありがとうございます。




