264.事なかれ主義者は逃げられない
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のんびり日向ぼっこタイムはラオさんの爆弾発言によって終わりを迎え、自室に引き摺ら……自分の意志で戻った。今はラオさんとルウさんの二人に挟まれながらベッドに座っている。
興奮した様子で先程の婚約の件の事を聞こうとするルウさんと、素知らぬ顔で魔力マシマシ飴を舐めているラオさん。
どうしようか……。
「まさか寝ぼけてラオさんに言ってるなんて……」
「あんだよ、そんなに凹む事か?」
「ちゃんとした感じで言いたかったんですー」
「……それはわりぃとは思うけどよ、待ってたら何だかんだなかった事になるんじゃねぇかと思ってな」
「流石にランチェッタ女王陛下の事もあるからなかった事にはしようとは思わないよ」
ランチェッタ女王陛下の催促があるまではとりあえず保留でもいいかな、なんて思ってたけどさ。
ムスッとしているとラオさんが柔らかな手でポンポンと僕の頭を軽く叩いた。
ワッシャワッシャとゆっくりと撫でられていると、すぐに自分から行動しなかったのが良くなかったな、と考えを改める。
「……その、ラオさんとルウさんは……二人いっぺんにされて大丈夫なの?」
「アタシは問題ねぇよ。自分から言った事だしな」
「えっと、そういう事よね? わ、私も問題ないわよ?」
ちょっと意外。ルウさんってそういうの拘りそうだって勝手に思ってた。
アタフタとした様子のルウさんを見ていると、悩んでいた自分がちょっと馬鹿らしく思えてくる。同居している人たちは基本的に僕の気持ちが変わるのを待ってくれている人たちなんだから、こちらから申し出ても断られる事なんてないって分かってるのに。
「…………」
「……まだかよ?」
「まだなんて言おうか考えてる最中だったの! ……えっと、こういう時は婚約してください、であってる? それとも結婚してください?」
「さぁな。婚約なんて一般家庭じゃ縁がねぇわ」
「そうね、商人の娘さんとか、高ランク冒険者のお子さんなんかは親同士が決めた婚約者がいる事はあるけれど、本人同士で話すのってどうするのかしら?」
三人仲良く首を傾げて考えたけど、結局すぐには答えが出る訳もなく……。
じゃあ他の人に聞いて言い方を考えてから、という方向にもっていきたかったけど、ラオさんとルウさんにホールドされて逃げる事も出来ず……。
「……結婚を前提に、お付き合い……してください……?」
「ああ、よろしくな」
「軽っ!?」
ポンポンと僕の頭を叩くラオさんの方をじっと見ると、そっぽを向いていたけれど、耳まで赤く染まっていた。
一種の照れ隠しみたいな感じですかね。
そんな事を考えながらラオさんを見ていたら、反対側にいたルウさんがギュッと抱き着いてきた。
レヴィさんほどじゃないけど、十分大きな胸の感触がする。
「とっても嬉しい! 私的にはむしろもう結婚しちゃってもいいわ!」
「……結婚かぁ」
普通に日本で生きていたらあと数年は先の事だと思っていたからまだ実感が湧かない。
ただこの世界の人たちは死が身近な事だからか、結婚するのも子どもを産むのも早い。
女性冒険者は子どもを産むのは蓄えがある程度できる二十代以降になる事が多いらしいけど、晩婚化が騒がれている日本と比べると普通に早いんだよなぁ。
それに加えて加護の事もあるから一夫多妻やその逆も割とあるらしい。
「結婚じゃなくて婚約ってのは理由でもあんのかよ」
「んー……レヴィさんの前の婚約者との事もあって、単純にそのまますぐ結婚、ってのはお互いにとってどうなんだろうって思ってさ。今はもうレヴィさんもあんまり気にしている様子もないけど、それでも……ねぇ?」
罪悪感というか、そういう感じの気持ちの状態で結婚してもお互いしんどいだけだし。
「それになにより、前の世界で考えたら未成年なのに結婚ってどうなんだろうって思って……あと二年間は様子見ようかなって」
「二年もシズトくんと結婚できないの? それまで何もなしなの? あんな事やこんな事も?」
あんな事やこんな事ってどんな事っすかね……。
そっとルウさんから視線を外しても、ギュッと首に手を回されて引っ付かれてるので意識せずにはいられない。
ラオさんに助けを求めるように視線を向けるけど、ラオさんはじっと僕を見下ろしているだけで何もしてくれない。
「……ラオさん?」
「あんだよ」
「そろそろいつもみたいにルウさんをベリッて剥がしてくれないかなぁ。僕の力じゃ勝てないし」
「………そうだなぁ」
「ラオさん??」
天井を見て何事か考えているラオさんをもう一度呼ぶと、そっとラオさんの左手が僕の腰に回る。
「ラオさん???」
「………婚約したんだったら、別に引っ付こうが問題ねぇんじゃねぇか?」
「そうね、何も問題ないわ! むしろ引っ付かない方がおかしいわよね! チューもエッチな事もしても問題ないわよね!」
「ちゅ、チューはともかく……そういう事は結婚してからがいいんじゃないかなぁ……こっちには避妊具とかなさそうだし。できちゃった婚は女性側の親御さんがブチギレそう」
ただ不思議なのはレヴィさんの両親は孫はまだかと言ってくるんだよね。
むしろできちゃった婚を狙っているようにも思えるんだけど、婚前交渉って貴族社会的にどうなのさ。
「それは……一緒に暮らしてる時点で今更だろ」
「やっぱりそうなんだね……」
ハアッとため息をついて肩を落としていると、ラオさんとルウさんがポンポンと僕の体を叩いて慰めてくれた。
ただ、離れるつもりはないらしく、ごはんの時間になるまでそのままずっとくっつかれ続けるのだった。
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