261.事なかれ主義者も真っ赤になった
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レヴィさんが背中をさすってくれて、何とか落ち着いてからランチェッタ女王陛下の方を見ると、彼女はハンカチで顔を拭いていた。
「……ごめんなさい」
「いえ、いいわ。わたくしが不用意な発言をしたからですもの」
「まあ……」
でもドレスが汚れているし……と思っていたら褐色メイドさんが背丈くらいの大きさの杖を持ってやってきて、魔法を唱えるとランチェッタ女王陛下のドレスの汚れが消えてなくなった。
「これで問題ないでしょう? それで、先程の話に戻すのだけれど、わたくしが結婚したら多少は便宜を図ってくれるのかしら? そこら辺、どうなのかしら?」
「そうですわね。実際、お父様もお母様もその恩恵を得ているから否定できないのですわ」
「その内作ってくれればいいって言われても流石に義父母予定の方々を待たせて余計なわだかまりを作るわけにはいかないじゃん?それに、大した量じゃなかったし、ちゃんとお金は払ってくれてるらしいし」
「あとは私たち婚約者だけではなく、同居している仲間たちにも気軽に物を与えているのですわ」
今までの行動が自分の首を絞める結果になっている気がする。
心当たりしかなくて何も言い返せないっす。
「であれば、結婚すれば便宜は図ってもらえるのかしら?」
「かもしれないのですわ」
「でもそういう結婚ってどうなんでしょう……」
財産目的みたいな感じでちょっと……。あ、財産もたくさん持ってたわ。
「あら、シズト殿にもメリットはあるのよ?」
「メリット?」
「ええ。わたくしと結婚すれば、少なくともガレオールの貴族たちは手出ししなくなるわ。それに、今後は王女との婚姻を対価として用意されてもわたくしという前例を提示すれば断る事ができるわ。例えわたくしと同じ立場である女王が相手でも押し切られる事はないわね。歳がいくつも離れた女王との婚姻を強制されるよりは多少歳が近い私の方がまだいいんじゃないかしら?」
「そうですわね。それにドラゴニア以外のパイプもできるのは大きいですわね。他の大陸との商業も行われているガレオールであるなら猶更」
「レヴィさんはどっちの味方なの!?」
「私はシズトの味方なのですわ~」
「ほんとっすか!? むしろランチェッタ女王陛下の後押ししてない!?」
「そんな事ないのですわー。ただ、やっぱり私はあくまで王女ですわ。今後も、一国一城の主となる事はないのですわ。だから、他国の国王との交渉ではちょっと立場が下になってしまうのですわ。ランチェッタ女王陛下であれば対等な立場からの話し合いを開始できるなぁ、とは思うのですわ」
「そう……他国の王族との交渉はスケジュールに空きを作ってわたくしが対応してもいいわ。それに、他の助力も惜しみなくすると誓いましょう。一度、考えてもらえると嬉しいわ」
ランチェッタ女王陛下が立ち上がる。
レヴィさんも立ち上がったので僕も慌てて立ち上がった。
褐色のメイドさんが扉を開け、レヴィさんが外に出て行くのでその後をついて行く。
護衛のジュリウスさんたちと合流し、そのまま王城の外へと向かった。
王城の外までランチェッタ女王陛下もついてきて、レヴィさんが何やら話をしている。
馬車が停まり、送りの準備が整うと、ランチェッタ女王陛下が改めて僕の前に立った。
胸にばかり意識が言っていたけど、やっぱり背が低めだった。
見下ろして大丈夫なんだろうか、と不安になってレヴィさんをチラッと見たけど、レヴィさんはニコニコして何も言わない。
ランチェッタ女王陛下の方に視線を戻すと、彼女は眉間に皺をよせ、目を細めて僕を見ていた。けれどそれも一瞬で、ふっと口元が綻ぶ。
「シズト殿」
「は、はい?」
「先程の話の件、真剣に考えていただけると嬉しいのですわ。それと――」
別れの挨拶だと思うんだけど、軽くハグをされる。
主張の激しい柔らかな膨らみを意識の外に無理矢理追い出そうと無心になっていると、精一杯背伸びをしているランチェッタ女王陛下が僕だけに聞こえるほどの小さな声で囁く。
「下心はもちろんあるけれど、わたくしのタイプだわ。王侯貴族であれば当然の事だけど……それも踏まえて、考えてくれると嬉しいわ」
スッと離れるランチェッタ女王陛下の頬が紅潮している。
硬直している僕をレヴィさんが馬車に詰め込んで、馬車が走り出す。
レヴィさんをチラッと見ると、頬を膨らませてそっぽを向いていた。
「……ねぇ、レヴィさん。さっきのって……」
「……嘘偽りはなかったのですわ。そもそも、勇者の昔話を幼き頃から聞かされて育つ事が多い王侯貴族に生まれた私たちは、シズトの様な見た目に惹かれるのは当然なのですわ」
……なるほど。
財産とか魔道具目当てと、見た目が目当て……どっちがましなんだろう?
いや、でも僕も少なくとも見た目で良い悪いと思った事は何度もあるし人の事は言えないか。
それにしても……どうしたものかな。
これ以上増やさないようにしようって思ってたんだけどなぁ。
「それは不可能に近い事だと思うのですわぁ」
「まあ、そうだよね……」
僕が深くため息をつくと、ポンポンッと僕の左の太ももをレヴィさんが優しく叩く。
とりあえず帰ったらラオさんたちの事も踏まえて考えなきゃなぁ……。
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