253.事なかれ主義者は上陸した
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「うわぁ……ほんとに誰もいないんだね」
とても綺麗な白い砂浜と透明度が高い海なのに、視界には誰も映らない。
魔道具化したボートを使って僕たちだけで上陸した島は無人島だった。
ランチェッタ女王陛下が気を利かせて建ててくれたのか、島の奥の方に建物があるらしいけど、浜辺との境界線のように並んでいる木々が邪魔で見えない。
「シズト様、一先ず拠点に移動しますか?」
「うん、そうだね。転移陣さっさと設置したい」
この島に設置する転移陣の行き先は二つ。
ファマリーの根元とルズウィックに建てられたお店だ。
今日は貰った島がどんな感じなのか見に来ただけなので、皆遊ぶための格好じゃないし、砂のお城などは別の日に作ろう。
「バーナンドさんたちは……ちゃんと帰ったみたいだね」
「ん、とんぼ返り」
バーナンドさんたちには申し訳ないけどルズウィックに帰ってもらった。
この島には港がないし、沖の方に停泊させておくといくら安全な海域とはいえ魔物に襲われる可能性が高いと言われたから。
どんどん小さくなっていく僕の船エンター号。
ファマ様の名前を借りて世界樹の名前を付けたし、今度はエント様の名前を少し変えて付けたんだけど、プロス様どうしようかなぁ。
……まあ、今考えても仕方ないか。
「シズトちゃん、海で遊びたいんですかぁ?」
「え? いや、まあ遊びたいけど……それより先にやることあるし」
「そうですわ! 早く建物を見に行くのですわー」
遠くからレヴィさんの声が聞こえてそちらを向くと、先に行ってしまったレヴィさんの近くにはセシリアさんとドーラさんがいた。……ドーラさんさっきまで近くで船を見送っていた気がするんだけど?
「ほら、お前も考え込んでないで、さっさと行くぞ」
「お姉ちゃんがおんぶしてあげようか?」
「自分で歩くんで大丈夫だって!」
近くで僕の様子を見守っていたラオさんと、おんぶがしたいのかそわそわしていたルウさんに促されてレヴィさんたちの方へと向かう。
ジュリウスは少し離れてついて来ている。
海水浴場で遊んだ時はもっと近くにいたけど、危険がないって事なのかな。
そんな事を考えながら、島の中心へと向かった。
島の中心地ではポツンと大きな建物が一軒建っていた。
ファマリーの根元にある屋敷は縦にも横にも大きいけど、目の前の建物は横にだけ大きくて高さはそこまでなかった。周囲の木々の方が高い。
「シズト~。どこに転移陣を設置するのですわ?」
「んー、とりあえず玄関前のここらへんにしようかなって。後でやっておくから、レヴィさんたちは建物の中の確認してきてくれる?」
「わかったのですわー」
レヴィさんがセシリアさんとドーラさんを連れて建物の中に消える。
僕は僕にしかできない事をやろう。
後をついて来るのはジューンさんとラオさんとルウさんの三人だ。
ジュリウスは屋根の上で周辺を警戒するらしい。建物の上に行ってしまった。
「何をするんですかぁ?」
「んー……なんか魔道具化した方がよさそうな物ってないかなって思ってそれを探そうかなと」
「なるほどぉ。……どんな物を探せば良いんですかぁ?」
「どんな物って……生活しててこれ不便だなぁ、とか困るなぁって思う物?」
「なるほどぉ。……生活してみないと分からないですねぇ」
「まあ、そうなんだけどね」
この建物や島を管理してくれる人たちは現地の人を雇うか、ファマリアの子たちに任せるか検討中だ。
どちらにせよ、奴隷たちに任せる事になるのであれば、少しでも仕事が楽になった方が良いだろう。
「とりあえず室内は快適な温度になるようにエアコンみたいなのを作ればいいかな。あとは埃吸い吸い箱も量産しとかないと。潮風の影響って何があるか分かんないけど……洗濯物とか大変そうだし乾燥機とかあると便利そうかな。あとはある程度自給自足できるように水が湧く魔道具を設置して、ここら一帯を畑にしとけば仕事には困らないかな?」
「ガレオールで奴隷を新しく買って使うつもりなら、魔石で動くようにしといた方が良いかもしれねぇな。冒険者の様な戦いを生業にしているような奴じゃなけりゃ、魔力量なんてたかが知れてるし」
「そうね。シズトくんは加護持ちだから実感が湧き辛いだろうけど、加護を持っていない人は日常生活で魔力を使う事なんてほとんどないのよね。だから魔力の量が増える事もほとんどないし」
「エルフの子たちはぁ、皆精霊魔法を使うのでぇ、普通の人でも魔力量は多いですねぇ。でもぉ、やっぱり戦う人の方が魔力たくさんありますねぇ」
なるほど。じゃあ全部魔石を使うタイプにしとこう。魔石の補充はアイテムバッグを使う必要があるから、どうしても少量の魔力は使っちゃうけど。
とりあえず、最近働く機会のなかった魔道具『全自動草刈り機』を庭に放つ。ロボット掃除機のような見た目の物が草が生え放題の建物の周囲に散っていく。
最初の方はドライアドたちにも協力してもらった方が良いかなぁ、これ。
広大な手つかずの土地を見て、そんな事を思うのだった。
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