249.事なかれ主義者は仕事を任せる事にした
いいね&ブクマ登録ありがとうございます。
育児に疲れたお父さん……いや、お母さん? 分からん。とにかく、育児に疲れた親の様な感じの雰囲気を漂わせているフェンリルのために、それぞれの事情を確認する事にした。
僕はとりあえずドライアドたちの話を聴く。
奴隷の子たちに話を聴きに行くと委縮してしっかり答えてくれないかも、と思ってジューンさんにお願いした。
ジューンさんは前まで子どものお世話をしていたらしいし。
とりあえず「ちょっとそこのドライアドちゃんきて」と少し先の畑でスヤスヤとお昼寝していたドライアドに声を掛けたら、その子だけじゃなくて周囲にいたドライアドたちが起き上がってこっちに集まってきた。
わらわらと集まってきて、囲まれてしまった。
「にんげんさん、なんかよう?」
「あるばいと~?」
「わたしたちにもできるよ!」
「ごほうびください!」
「れもーん!」
「きゅーり、おいしいよ!」
「とまといいいろ~」
「なすやいたらおいしいよ」
……フェンリルが収拾がつかないって言った理由が分かった気がする。
足に纏わりついてご褒美やアルバイトを強請ってくる子たちもいれば、僕の体をよじ登って口の中に収穫物を入れようとしてくる子たちもいる。
僕がどうしたものかと固まっていると、レヴィさんがパンパンッと手を叩いた。
すると一斉に静かになってレヴィさんの方を見るドライアドたち。
「今からシズトが質問をするのですわ。答える時は手を挙げて、当てられたら答えるのですわ。わかったのですわ?」
「はーい」
元気に手を挙げるドライアドたち。どうでもいいけど、僕の体に纏わりつきながら手を挙げるために、髪の毛を僕の体に絡みつかせるのやめてもらってよろしいですかね。
「それじゃあシズト、お願いするのですわ」
「……レヴィさんが聞いた方が早くない?」
「………そうですわね?」
という事で、ドライアドたちのお話を聞くのはレヴィさんになった。
いつも一緒に畑の手入れをしているからか、レヴィさんはドライアドたちの扱いも慣れたものでテキパキと確認していく。
「かってにくさぬくの!」
「いしとってくの!」
「みずあげちゃうの。あげなくてもいいの!」
「おしごと! とられる!」
「おいだすのー」
「いろんなところからはいってくるのー!」
「あっちおいだしても、こんどはむこうからはいってくるの」
「むこうをおいだしても、べつのところからはいってくるんだよー」
「だいたい分かったのですわ」
首飾りにしていた魔道具『加護無しの指輪』を指に嵌めたレヴィさんはドライアドたちを解散させて、ドライアドから解放された僕の方を見るレヴィさん。
「どうやら奴隷の子たちが善意で手伝おうとしているみたいですけれど、ドライアドたちにとっては侵入者だから追い払ってるみたいですわ。問題は草抜きや石取りじゃなくて、水やりですわね。魔動散水機で自動化している所が多いのですわ。やりすぎてしまうとちょっと問題が出てくるかもしれないのですわ」
「まあ、奴隷の子たちは小さな子ばかりだから、そういうところ分からないんじゃない?」
「そうみたいですぅ」
町の子どもたちに話を聞きに行ってもらっていたジューンさんが戻ってきて話に加わった。
困った様に眉を下げ、片頬に手を当ててため息をつく。
「小さな子に限った話ではないんですけどぉ、奴隷の子たちはみんなシズトちゃんにいっぱいよくして貰ってるからぁ、たくさんお手伝いをしたいみたいですぅ」
「でもなぁ、ちっちゃい子たちって十歳にもなっていない子たちでしょ? 児童労働はちょっとなぁ。高校生くらいだったらバイトをしてる子もいたからまだ分からなくもないけど、中学生以下は勉強と遊ぶ事が仕事だと思うし……」
郷に入っては郷に従え、とも言うしいい加減そこら辺の価値観をこちらに合わせた方が良いのかもしれないけど、やっぱり小さな子たちが働いているのはちょっと見ていて思う所がある。
僕が腕を組んで首をひねっていると、レヴィさんが真剣な表情で僕の方を見て、口を開いた。
「直接聞いたわけじゃないから確かではないですけれど、不安だと思うのですわ」
「不安って何が? まだ何か用意した方が良い? お小遣いは年齢で一律に決めてたけど、成績順とかにした方が良いかな」
「それも勉学に励ませるという目的ならば、いい案かもしれないですわね。ただ、そういう事じゃなくて、扱いが良すぎて不安なのですわ。シズトに捨てられたらまた今まで通りの普通の奴隷としての生活が待っているのですわ。一度いい生活を味わうと、その落差で辛さが増すと思うのですわ。私もシズトとお別れした後の事を考えると……仕事をもっとしたい、役に立ちたいと思う気持ちも分かるのですわ。だって、仕事を任されている間や、役に立っている間は捨てられる可能性が少ないですわ」
「そうですねぇ、シズトちゃん、優しいからぁ分かりますぅ。それに、優しくされたらぁ、お返しをしたいって思っちゃいますよねぇ。ちっちゃい子たちはぁ、任せてもらえる仕事が少ないじゃないですかぁ。だから自分でできる事を探してぇ、ドライアドちゃんたちの真似っ子をしてぇ、シズトちゃんのお役に立ちたいんだと思いますよぉ」
「……そっか」
視線を落としてどうしたものか考えていると、僕の頬をレヴィさんがそっと撫で、顎付近まで手が行くとクイッと前を向くように顔を上げさせられた。
真正面にレヴィさんが立っていて、優しく微笑んでいる。
「もちろん、シズトが奴隷たちを優しく大切に扱う事は悪い事ではないのですわ。ただ、奴隷たちを安心させるためや、将来に役立つ知識や技術を身に着けさせるために、仕事を与えるのも奴隷の主人としての仕事だと思うのですわ。例えそれが、子どもだったとしても」
「……そうだね。ドライアドたちに子どもたちにお世話の仕方や植物について教えるようにお願いしてみようかな」
「良いと思いますぅ」
「ドライアドたちも、しっかりと話せば受け入れると思うのですわ~」
「子どもたちと協力して畑仕事ができたら追加報酬あげる、って言えばやってくれるかな?」
「そうかもしれませんねぇ」
そうと決まればドライアドたちを集めよう、と思っていたけど、ドライアドたちは話を聞いていたのか、いつの間にか集まってきていて、キラキラとした瞳で僕を見上げていた。
……フェンリルもなんかお座りしてこっちを見ているんだけど、どうしよう。
最後までお読みいただきありがとうございます。




