245.事なかれ主義者は引っ張られてみたい
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スイカを食べた後はビーチバレーだ。
二人一組のチームだけど、僕は見ていて安心できるドーラさんと一緒のチームにしてもらった。
ジュリウスに審判をしてもらって、ネットを挟んだ向こう側の人を見ると、ホムラとユキだった。二人とも何やら不満そうだ。一緒のチームになりたかったらしい。
だけど同じチームだとどこにいるかしっかり把握する必要があるのに、ホムラたちが着てる水着のせいでそれが難しいから仕方ないじゃん。
敵だったらどこにいるのか分からなくても何とかなるから別に……いや、そうでもないか? そうでもないな。
うーん、と首を傾げているとドーラさんがボールを持ってすぐ近くに立っていた。
眠たそうな印象を受けるけど、どうやらやる気満々のようだ。
「シズト、サーブ」
「あ、ごめんドーラさん」
ルールなどは事前に伝えていたし、全員遊び方は理解しているみたい。
ホムラとユキをチラッと見ると、二人とも前傾姿勢でこちらを見ていた。
サッと視線をボールに戻して、サーブを打つ。
ジャンプサーブとかどれだけ練習しても風が強いから無理だから、小さくトスを上げて、腕を下から上へ振りぬく。
フワッと上がったボールはネットの向こう側に飛んでいき、ホムラがそれをレシーブした。
ネット近くにいたユキのところにしっかりと飛んでいったそのボールを、ユキが高く高く打ち上げた。
「……高すぎない?」
「シズト、警戒」
ドーラさんの視線を追うと、高く打ち上げられたボールを見上げていたホムラが助走をし、高く跳び上がった。
上を見上げると、ホムラがボールを打つ瞬間だった。
だけど、ボールがこちらのコートに落ちる事はなく、上空で破裂音が響いた。
「スライムが素材だから、簡単に壊れるよって言ったじゃん」
「……魔力強化すれば大丈夫なはずよね、ご主人様?」
「それされたら困るから、魔力が込められたら割れるようにちょっと細工しました!」
だってそうしないとまた超次元スポーツになるのが分かってたもん!
これで僕と皆は対等になったはずだ。
そして、僕には授業で習ったバレー知識がある!
これで勝てる!
……なんて、思っていたのは数分間だけでした。
どこに打ってもホムラとユキが拾うから勝てない。身体強化は普通に使えるからそれを止める手立てを考えておくべきだった。
僕たちのチームの中で、ドーラさんしか身体強化を使えないため、彼女一人がコート全体を守る事になる。
……セッターとして頑張るぞ!
何回かチームを変えて遊んだけど、トスをあげるかサーブをするだけでそんなに活躍できなかった。
でも皆と遊んでいるうちに、水着姿の皆に少しだけ慣れる事もできたからよし。
バレーボールを終えた後は、海に入って事前に作っておいた筒型の水鉄砲で遊んだり、泳いだりしている。
泳ぎ方を知らない人にはスライムの素材を使って作った浮き輪を渡した。
レヴィさんとセシリアさんが仲良くぷかぷかと浮いている。二人がどこかに流されてしまわないように、ルウさんが近くで二人を見ていた。
僕もスライム素材の浮き輪の使い心地を知りたかったので、浮き輪でのんびりと海を漂っている。
僕が流されてしまわないように、ラオさんは僕の浮き輪についている紐を持って立っている。
周囲には僕たち以外に、レヴィさんたちの水着を見るために近寄ってきている男たちが多い。
「んー、実験しても大丈夫かな?」
「……何するつもりだったんだ?」
「ちょっとジューロさんたちが作った魔動
スクリューで推進力を得られるか試そうかなって」
「自分でするつもりじゃねぇだろうな?」
「ノエルもいないし、そのつもりだけど……」
「危ねぇから自分でするなって言ってんだろ」
「え~。ちゃんとおもちゃの模型で検証はしてるんだよ? それでもダメ?」
「ダメだな」
「ノエル、最近忙しそうだし、なかなかお願いし辛いんだよ~」
「だったらアタシがしてやんよ」
「あ、ラオちゃん、ずるいわ! 私もお手伝いするわよ?」
「私もしてみたいのですわ~」
「レヴィア様はダメです」
「ちょっとだけならいいと思うのですわ!」
「レヴィア様に何かあったら困ります」
まあ、そうだよね。僕もレヴィさんに実験をお願いする事は無いかな。
っていうか、ノエル以外はそこまで魔道具に造詣は深くないから、あんまり頼んでも……ああ、でも別に実験をして使ってみた感想を聞くだけなら問題ないか。
冒険者の意見を取り入れたらより実用的な冒険者用の魔道具ができそうだし。
「じゃあ、とりあえずラオさん『魔動スクリュー』のテストしてみてよ」
「今はお前が流されないように見張る必要があるから無理だな」
「ほんのちょっと流されただけじゃ何ともないよ?」
「ダメだ。沖にいる魔物が潮の流れを操作してお前を攫うかもしれねぇから」
何それ怖っ。
海中では魚人たちが警備をしてくれているらしいけど、時々魔物の被害があるらしい。
その事を知っている地元民は海には近づかないんだとか。
浮き輪でぷかぷか浮かんだり、水鉄砲で遊んだりしてもう満足したから、一度実験のために砂浜に戻る。
レヴィさんは「もう少し遊びたいのですわ!」と言っていたけど、ボートが無事に動けばボートでも遊べる事を伝えたら納得してくれた。
僕たちが移動すると周囲にいた男たちもぞろぞろとついて来るけど、皆は気にしていないようだ。
僕が気にし過ぎなのだろうか。
何とも言えない気持ちになりながら、ラオさんに浮き輪の紐を引っ張られて移動し、場所取りをしていたビーチパラソルの所に向かう。
海に浮かんでいる時からちょっと気になっていたけど、なんだか人だかりができている。
近衛兵が人を掻き分けると、ビーチパラソルの下ではクーとホムラとユキがお留守番をしていた。
その周囲には砂から頭だけ出した男たちがたくさんいた。
「………この人たち何してるの??」
「こうして頭だけ出して砂に埋まる事により、大地の力を吸収できるそうです、マスター」
「あー、ドライアドたちみたいな感じ?」
「きっとそんな感じよ、ご主人様」
なるほど?
なんか目をギュッと瞑ってじっとしてるけど、気持ちいいのかな。
「そんな事よりも、どうかされましたか、マスター?」
「ちょっとジューロさんに改良してもらったスクリューの実験をしようかなって」
「そう。じゃあ、材料準備するわ、ご主人様」
まあ、準備と言っても、アイテムバッグの中からボートの素材の木材とボートの模型、それから鍛冶師のドフリックさんと魔道具作りをしているジューロさんが共同で作った『魔動スクリュー』を出すだけなんだけど。
模型を参考に、【加工】でボートを作り上げる。
ボートの後ろに、魔動スクリューを設置すると、「今回は私がするわ!」と立候補してくれたルウさんがボートを持ち上げて海へと向かう。
「ここら辺でいいかしら?」
「うん、いいよー。ドフリックさんが作った模型を参考に何回もボート作る練習したから、多分沈まないと思うんだけど……」
ルウさんが手を離すと、ボートは沈まずにちゃんと浮いた。
もし沈んだとしても即席で何かしら付与してしまえばいいか、と思っていたけど、不要だったようだ。
ルウさんが乗り込んでも問題なく浮いている。
「それじゃあ、魔力を流すわ!」
「最初はちょっとずつでお願い」
「分かったわ!」
ニコニコしていたルウさんだったけど、『魔動スクリュー』を触る時にはすごく真剣な表情になった。
彼女は言われた通り少しずつ魔力を流しているようだ。
波に揺られていただけだったボートが、徐々に前に進み始める。
歩くよりも遅い速度だったけど、ゆっくりゆっくり波をかき分けて進んでいく。
ただ、籠める魔力を増やしても、それ以上の速度は出ないようだった。
危険性は少ないけど、まだまだ改良の余地がありそうだ。
「シズトが付与したらどうなるのですわ?」
「……普通のボートができそう」
という事で、ボートで遊ぶために【付与】で魔法陣を上書きしてから遊ぶ事にした。
そんなに大きくないから乗れる人数が限られる。
少しでも大人数で遊ぶためにはどうすればいいかな、と考えて水上スキーとパラセーリングが思いついたんだけど、パラセーリングも水上スキーもここでは危ないからとラオさんの許可が下りなかった。
いつかやってみたいなぁ。
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今後ものんびり書き続けるつもりなので、楽しんで頂けると幸いです。




