243.事なかれ主義者は処分しておきたかった
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青い空、白い雲。眼前に広がるのは泳いでいる魚をじっくり観察できるくらい透明度の高い海と、ぽつぽつとある島々に行き交う帆船。
水着選びをしてから一週間ぐらい経って、やっと遊泳できる場所がある所にクーを乗せた馬車が到着したので遊びに来た。
今はジュリウスと一緒に、数名の近衛兵に囲まれながら砂浜で場所取り兼女性陣の着替え待ち中。
ジュリウスは僕とお揃いのハーフパンツタイプの紺色の水着を履いていた。
細い印象のあるジュリウスだが、鍛え上げられて引き締まった体で筋肉が美しい。芸術品とかでありそうな感じ。
それに引き換え僕の体は……筋トレ頑張ろうかな。
「どうされましたか?」
「いや、ちょっと腹筋だけでも鍛えて割った方が良いかなって」
「ありのままのシズト様でよろしいかと」
「そうやってすぐに甘やかすからこんな体型が出来上がるんだよ!」
「太っているわけではないので問題ないのでは?」
「脂肪燃焼腹巻のおかげで何とかキープできてるだけなんだよ……」
エミリーとジューンさんの作るご飯が美味しいのと量が多いのでついつい食べ過ぎちゃうけど、自分の努力でキープしてるわけじゃないんすよ……。
魔道具化したビーチパラソルの下で、膝を抱えて座っていると、クーが近くに現れた。
どうやら着替え終わってすぐ転移してきたらしい。
先程、着替えるためにラオさんに襟首を掴まれて運ばれていったけど、僕と離れ離れになってしまったクーはご立腹のようだ。
僕を視界に捉えると、その場から消えてすぐ隣に転移してきた。
四つん這いの彼女は、無言でゴスゴスと頭突きをしてくる。
空のように薄い青色の髪が肌に触れる度にくすぐったい。
「クー、かわいい水着だね」
「……あーしは別に、気に入ってないしー」
ドーラさんと同じく布面積がほとんどない水着を着ようとした彼女を、この世界でスクール水着として認知されている水着に着替えさせてくれたラオさんに感謝だ。
紺色のワンピース型の水着でスカートもついている。幼い体型のクーが着ているととても似合っているように思う。
胸の部分は白い布が縫い付けられていて名前が刺繍されていた。
……スクール水着ってこんなのだったっけ。ちょっとこれを普及させた勇者に尋ねたい。
素材の関係でその物を作る事を断念したのだろうか。分からん。
「お兄ちゃん、あーしのお世話、忘れちゃだめだよ?」
「分かってるけど、流石に水着の女の子を背負うのはちょっと……」
最近元気な息子が何かやらかしてしまいそうですのでぇ。
ムスッとしたクーに謝りつつ、一緒に砂で山を作って遊んでしばらく経った頃、周囲の海水浴客たちがざわめく。
山の斜面をぺたぺたと叩きながら補強しつつ、男たちの視線を追ってみると、女性の集団がこちらに近づいてきていた。
先頭を突き進むのはレヴィさんだ。
お風呂場の様な水着ではなく、以前見せてくれた黒い水着だ。腰に巻かれている布が風でたなびいている。僕と視線が合うと、走ってこちらに向かってきた。胸が揺れる揺れる。ツインドリルも揺れまくっている。
その後を追うセシリアさんの胸も揺れていた。男たちの視線が集中しているのが分かる。
二人に置いていかれる形になったけど、ラオさんとルウさんはジューンさんと一緒にのんびり歩いていた。歩いているだけでも上下に揺れているのはびっくりだよ。
ドーラさんは三人の胸と自分の胸を比較したのかな。ぺたぺたと胸を触りながら歩いていた。
「クー、ホムラとユキ知らない?」
「知らなーい。それよりお兄ちゃん、早くトンネル開通しようよ!」
「ちょっと待って。しっかり固めないと崩れそう」
「シズト~。何をしているのですわ?」
「砂遊びをしていらっしゃるようですね」
「私もするのですわ!」
「お手伝い致します」
「ちょっとレヴィさん! 適当に掘らないで!」
「多分大丈夫なのですわー」
「失敗しそうな気配がプンプンするんだけど!!」
「きっと大丈夫なのですわ~」
レヴィさんがせっせと穴を掘っていくので、僕も山を固める作業を止めて、慎重に穴を掘っていく。
黙々と取り組んでいると、ラオさんたちもやってきた。
「……なんでみんな僕の後ろに立つのかな」
「そうしねぇとお前、目のやり場に困るだろ?」
「お姉ちゃんたちの配慮よ?」
「お二人がそうしろっておっしゃいましたのでぇ」
「……私は隣でも問題ない。ビキニじゃない。悩殺できない」
「十分可愛いと思うんだけどなぁ」
ドーラさんはやっぱりあの水着が良かったようだ。
僕のすぐ隣にしゃがんで、僕の手元をじっと見ているドーラさんに視線を向けると、ちゃんとあの水着ではなく、フリルがいっぱいついている可愛らしい水着を着ている。
あの水着はほんとにポロリが怖いし、心配だからやめて欲しいんだよなぁ。
「……気を使わなくていい。お風呂場で着る」
「…………レヴィさん?」
レヴィさんを見ると、穴を掘っていた手を休めて、レヴィさんが僕を見た。
きょとんとした様子で、小首を傾げる。ツインドリルがそれに合わせて動いた。
「なんですわ?」
「お風呂場の事、ドーラさんに言ったの?」
「ドーラだけじゃなくて、皆に言ったのですわー」
「レヴィさん? どうしてそんな事をするの?」
「だって、私だけ抜け駆けするのはダメですわー。皆平等にお世話をするのですわー」
「この一週間、皆ちゃんと湯浴み着を着てたのになんで今更……」
「翌日にはレヴィちゃんから聞いてましけどぉ、シズトくんに伝えるタイミングがなかったのでぇ、いつも通りにしてましたぁ」
「明日の当番私。着る。ちゃんと伝えた。問題ない」
「問題しかない気がするんですけど!?」
そうは言っても、やっぱり断り切れないのは自分自身で分かっている。煩悩が憎い……。
煩悩を退散させるつもりで、山の斜面を掘っていると、無事に開通した。
クーのちっちゃな手と、レヴィさんの柔らかな手と触れ合った。
三人で喜びを分かち合っていた時に気付いた。
ジュリウスがいつの間にか近衛兵たちと一緒に少し離れたところで警備をしている事に。
そして、女性の集団に囲まれる僕を妬ましそうに見る男たちの視線に。
……ちょっと大人しくしとかないと。
そう思っていたら、ホムラとユキが遅れてやってきた。周囲の人たちの視線を集めながら。
「何で二人ともそんな水着なの!?」
「前世のベッドの下にモゴモゴゴ!」
「言わせるかぁ!!」
慌ててホムラの口をふさぐ。
どうしてそれ知ってるの? ねぇ、どうして知ってるの!?
っていうか、前世の僕の部屋、どうなってるかすごい心配になってきた!
最後までお読みいただきありがとうございます。




