幕間の物語115.元引きこもり王女は結局悩む
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ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地には、世界樹ファマリーを中心に広がり続けている町ファマリアがある。
町には世界樹ファマリーを起点に、同心円状に広がり続けている緑が少しずつ増えており、町の中の通りのそこら辺に生えている名もよく分からない雑草に小さな子たちが欠かさず水やりをしている姿も最近見られるようになってきた。
そんな町の所有者であるシズトが住んでいる屋敷は、ファマリーとファマリアの間の畑が広がっている場所に建っていて、その近くには屋敷と比べると少し小さな建物が寄り添うようにある。
町に建てられたどの建物よりも大きなその屋敷は三階建てで、シズト専属の奴隷の中で希望した者たちが住める場所だった。
町に住む下っ端の奴隷たちは「いつかあの屋敷で働きたい」と思いながら働いている子たちがほとんどだった。
そんな憧れの屋敷の三階の角部屋で、一人の少女がうんうん唸りながら悩んでいた。
縦巻きロールの金色の髪の毛は、彼女が首を傾げる度に、その動きに合わせて揺れ動く。
朝からずっと悩んでいる少女の名はレヴィア・フォン・ドラゴニア。この国の第一王女である。
シズトの作った魔道具によって劇的に痩せた彼女は、以前の丸々と太った面影はどこにもなく、継続的に続けられている適度な運動と、寝ている時に使われている『脂肪燃焼』シリーズの魔道具によって、一部分を除いて引き締まった体をしていた。
その様子を見守っているのは彼女のたった一人の専属メイドであるセシリアだ。普段着ているメイド服ではなく、髪や目と同色の薄い青色のビキニを着ていた。
程よく引き締まった手足はスラッと細長く、ふっくらと膨らんだ形の良い胸は寄せられて谷間が強調されている。大きく柔らかそうなお尻は見る人が見れば安産型だというだろう。
「レヴィア様、いい加減お決めになって着替えないと、シズト様がいらっしゃいますよ」
「分かっているのですわ! 分かっているのですけれど……決心がつかないのですわ……」
レヴィアの声は段々と小さくなっていき、肩も下がっていく。
そのまましゃがみ込んで床に字を書き始めそうなレヴィアの背中を、セシリアは心配そうに見ていた。
服を着ている今は見えないが、レヴィアの背中に残ってしまった文様の事は、セシリアも知っていた。
「気にしている様子は全くないじゃないですか」
「分かっているのですわ、シズトが気にしない事は。でも、私は気にするのですわ。それに……周りの人たちも」
レヴィアが呪われ、尚且つその文様が今現在も一部分だけ残ってしまっている事は秘匿されている。
だが、文様自体は過去の呪いの信奉者たちの出来事と一緒に世間に伝わっていた。
それを見られてしまった場合、呪われた身だという事は隠しきれないだろう。
「それは……シズト様に何かしらの魔道具を作って頂くのはいかがでしょうか? それこそ結界内の物は見えないようにしてしまう物とか……」
「そうですわね……。それでも、私は背中が出ている水着は抵抗があるのですわ。万が一、魔道具が何かの影響で働かなくなってしまったらと思っちゃうのですわ」
「…………そうですか、レヴィア様のお考えはよくわかりました。じゃあもうここからここまでの水着は不要ですね」
「ああ! もうちょっと待つのですわ! 決心がつくかもしれないのですわ! シズトの視線を集めたいのですわ!!!」
「別にこれらじゃなくてもシズト様の視線は向けられるから大丈夫です」
止めようとするレヴィアをひょいっと避け、セシリアはアイテムバッグの中に不要だと判断した水着を突っ込んだ。
それから振り返ると、うずくまっていじけているレヴィアがいた。
「セシリアだけずるいのですわ……私も背中を見せるようなデザインの服を着てみたいのですわ……」
「だったら着ればいいじゃないですか」
「決心がつかないのですわ……」
「じゃあ諦めてください。シズト様が来る前に着替えないと好みも探れないでしょう?」
「………」
しゃがんだまま動こうとしないレヴィア。
セシリアは呆れた様子でその背中を見ていた。
それからしばし時間が過ぎて、静かに考え込んでいたセシリアはふと閃いた。
「周りに誰も人がいない状況で、背中がよく見えるタイプの水着を着てシズト様と一緒に遊ぶ方法はあるじゃないですか」
「……そんな方法あるのですわ?」
「お風呂の時に着ればいいんですよ。湯浴み着と大差ないじゃないですか。過去の勇者たちが水遊びをする時の正装だと伝えた水着ですが、お風呂も実質水遊びみたいなものです。ドーラの様子を思い浮かべてください。毎日長い時間お風呂場で遊んでいるじゃないですか」
「そうですわ……? そうですわね、確かに遊んでいるのですわ」
「見た目だけで言えば湯浴み着も若干水着に似ていますし、お風呂場でマイクロビキニとやらを着ても問題ないはずです」
「………そうですわね! じゃあ、しまった物は交互に着ていく事にするのですわ!」
「それがよろしいかと。という事で、しまった水着の使い道は決まりましたので、さっさと海で使用する水着の候補を決めますよ。この機会にシズト様を誘惑していかないと」
「……悩むのですわー!!!」
結局、悩む事には変わりはない。
だが、先程までと違ってその表情も声音も明るい。
その後、レヴィアはシズトが来るギリギリまで悩み続けるのだった。
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