幕間の物語112.用心棒は邪魔な物を外に出した
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獣人の国アクスファースの首都スプリングフィルドにユグドラシルの代表者が訪れてから二週間が経った。
二週間の間に大勢の建設業者が動員されて三つの教会が作り上げられた。
農耕民族が管理している区画の端っこの方に建てられた小さな教会は、どれも似たような見た目で仲良く三軒並んでいる。
その通りの向かい側にぽつんと立っている小さな小屋は、三軒の教会と一緒に改装されたようで、他の掘立小屋の様なあばら家とは異なり、しっかりとした作りの小屋だった。
そこが新しく開店した魔道具店『サイレンス』だ。しっかりと立て看板も出されている。
早朝になると、小さな教会の一つから巨漢が出てきた。
縦にも横にも大きなその男は、何かがたくさん入っているかのように大きく膨らんだ大きな白い袋を肩に担いで、ノッシノッシとゆっくりと歩いている。
教会の周囲に住居はほとんどなく、収穫物を一時的に保管しておいたり農具をしまっておいたりするための小屋や畑が多い事もあり、通りには人影がない。
巨漢は、ぼりぼりと大きな手の平で頭をかきながら眠たそうに欠伸をすると、小屋の様な店の小さな扉をくぐって入って行った。
室内にはほとんど何もない。
部屋の一番奥にある特注品のロッキングチェアくらいだ。
天井からぶら下がる魔道具化された明かりに頭をぶつけないように気を付けつつ、椅子に座ると、どさっと袋を床に置く。
彼の巨体をしっかりと支える椅子を心配する様子もなく、最近ライデンと名付けられたその男は、しばらくの間椅子に揺られながらのんびりとしていた。
変化があったのは日が昇ってしばらくしてからの事だった。
そっと扉が開けられて中に入ってきたのは小柄な鼠人族だ。キョロキョロとしながら店内に入ってくると、眠っているライデンに気付く。また、その近くに置いてある大きな袋にも。
周囲を確認して、抜き足差し足忍び足と言った感じでそろそろと近づく鼠人族が袋に手を伸ばし――ふとライデンの方を見ると、冷ややかな黒い目が鼠人族を捉えていた。
「ち、違います!! 落ちてあって誰かに取られたら大変だから……えっと、膝に乗せようと!」
「そうかぁ? オイラには盗ろうとしているように思えるがなぁ」
「そんな! 滅相もないです!」
「別にいいぞ?」
「……………はい?」
「別に盗って行ってもいいぞ、と言ったんだ。盗れる物ならな」
鼠人族は自分が侮られていると感じ、袋をギュッと掴む。
それからエイッと持ち上げようとして、まったく持ち上がる事なく、鼠人族はその場に倒れ込んだ。ピクピクと痙攣しているように見える。
その鼠人族を呆れた様子で見降ろして、それから感心した様子で袋を見る。
「流石、シズト様だ。しっかりと身動きを封じているな。さて、外に放り出しておくか」
ライデンは勢いをつけて立ち上がるとむんずと鼠人族の襟首を掴み、外に放り投げた。
それと入れ替わりで店内に入ってきた兎人族の男性がいた。
冒険者をしているのか、魔物の皮で作った防具を身に着け、腰には剣を差していた。
「ああ、やっとついた。って、何もないな。本当にここが魔道具を売っている店なのか? あ、店主! 丁度良かった。ここはユグドラシルの者が作った場所でよかったかな? シズトとかいう人間の子どもなんだが……」
「間違ってないぞ。何の用だ」
「俺の村に水が湧き出る魔道具を作ってくれただろ? それを他の村でも作ってもらいたいんだ」
「……残念ながら魔道具師はもうここにいない。転移陣の設置も色々面倒そうだから作ってないらしいから、いつ来るかは分からんぞ」
「そうか……まあ、仕方ないか。力づくで言う事を聞かせようと思っても、お前さん相手じゃ勝てる未来が見えねぇしな」
「賢明な判断だな。そんなお前にこれをプレゼントしよう」
ライデンは袋の口を開いて手を突っ込むと、中から小さな棒付きの鉄球のような見た目の『魔力マシマシ飴』を渡した。
「なんだこれ?」
「それは舐めると甘味を感じる特殊な魔道具らしいぜ。舐め過ぎは魔力切れになりやすいから気をつけろだとよ」
「それよりも水が出る魔道具はないか? 水筒代わりに使いたいんだが……。ここ最近雨がなかなか降らなくて水が高くってなぁ」
「水が出る魔道具か……ちょっと待て」
ライデンは近くに置いておいた大きな白い袋の口の中に太い腕を突っ込んで中を漁る。
そうして取り出したのは、鉄製のコップだった。内側の底には魔法陣が描かれている。
「魔道具師の助手の弟子が作ったやつだ。安定性には欠けるが、まあしっかりと魔力を流せば少量の水で満たされるだろう」
シズトが作る物よりもはるかに多くの魔力を使用してコップ一杯の水しか溜まらない。
実際に手に取って使って見たが、魔力を流している途中で魔力切れになった兎人族の男性はその場に倒れ込んだ。
ライデンは兎人族の男性を店の前にポイッと投げ捨てて店内に戻ると、頭をかく。
「満たされるまで魔力を強制的に奪うのは大きな欠点だな」
ライデンは『速達箱』と呼ばれる魔道具を使って彼の主人に向けた手紙を書くのだった。
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