229.事なかれ主義者はトロッコに乗った
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景色がゆっくりと動いて行く。
右手に見えるのは地平線までずーっと続く不毛の大地。ゾンビやレイスなどの低ランクのアンデッド系の魔物が、冒険者が持っている魔道具『神聖ライト』の光に当てられて倒されていく。
左手に見えるのはファマリアの町の建物と大きな世界樹。もうずっとこっちを見ていよう。面白いし。
ボーッと左手側を見ていると、後方から話し声が聞こえてくる。
そちらの方を見ると、筋骨隆々の大男が、トロッコにすっぽりと収まり、彼の後ろにいる女性と話をしている。彼はガント・フォン・ドラゴニア。次期国王であり、レヴィさんのお兄様であり、僕の義兄でもある人だ。
その後ろにいる赤毛の女性はパール・フォン・ドラゴニア。この国の王妃様、つまりレヴィさんのお母様で僕の義母でもある人だ。レヴィさんとそっくりな髪型だが、その赤いツインドリルはトロッコに運ばれているからか揺れている。
「ふむ、確かにゆっくりとしか動きませんが面白いですね、母上」
「そうね。これだけ乗っているのに動くのならば、何かしらで使えるわね」
王妃様の後ろにはたくさんの奴隷の子どもたちがトロッコにぎゅうぎゅう詰めで乗っているが、大人しい。
皆、口を押えてジッとしている。なんかごめん。
ガントさんにトロッコに乗せてくれと頼まれた時は身に覚えがなくて困ったけど、事情はモニカが把握していた。
どうやら別館に住んでいるエルフのジューロさんとドワーフ親子が協力してファマリアをぐるりと囲むように線路を敷き、魔力で動くトロッコを作ったようだ。土地の使用に関してはホムラが許可を出していた。
モニカの案内でトロッコの停車位置まで移動すると奴隷の子たちが順番待ちをしていて、その後ろに並ぼうとしたんだけど、僕に気付いた奴隷の子たちが譲ってくれたので大人しく譲ってもらった。
そうしてトロッコに乗り込んで今に至るわけだけど……。
「どうして僕も乗る事になったんだろう」
「シズト様の意見を聞きたいとジューロ様から聞いておりましたので試乗してもらおうと考えました。乗り心地はいかがでしょうか?」
「……ゆっくりだから歩いた方が速そう」
「そのように伝えておきます」
「いや、これはこれで使い道あると思うからこれでいいと思うよ! 安全だし飛び出してきた子たちを轢く事はないだろうし!」
飛びこまれても急停車できるだろうし何も問題はないよ!
僕が慌ててフォローしてもモニカは先程の発言はしっかりと伝えるようで、「その事も伝えておきますね」とだけ言って屋敷に戻っていく。
「平坦な所であるのに関わらず、魔力だけで勝手に進むのはとても便利よ。町中では走らせていないみたいだけれど、何か理由があるのかしら?」
「さあ……僕が作ったわけではないので分からないです」
「母上、実際に町中で走らせるとしたら馬車などの問題が出てくると思いますよ」
「トロッコ用の通路を整備する事も考える必要があるわね」
「……路面電車みたいですね」
「路面電車とはなんだ?」
先程まで後ろを見ていたガントさんが僕の方を見て尋ねてきた。王妃様も僕の方を見て目を細めている。なんか二人とも視線が鋭くなった感じがする。ちょっと怖い。
「僕も乗った事がないので上手く言えないんですけど、道路を走る電車ですね。電車は……このトロッコみたいにレールの上を電気で走る馬車みたいなものです」
「なるほど……?」
「それは魔法じゃないのよね? 不思議ねぇ」
「僕の前の世界だと、魔法で物が動く方が不思議っすけどね」
ぐるりと一周したところでトロッコを下りる。
それと入れ替わりで子どもたちが乗り込み、すし詰め状態でキャーキャー騒ぎながらトロッコは離れて行った。
それを見送ると、ガントさんが屋敷の方へと向かって歩き出した。
「さあ、次は約束通りボウリングの試合をするぞ!」
「約束って……ああ、以前遊びにいらしたときの事ですか。魔法無しでお願いしますよ?」
何でもありのボウリングで勝てと言われても勝てる気しないので。
ズンズンと進んでいくガントさんの後ろをついて歩いていると、隣を歩いていた王妃様が勝気に笑う。
「あの後、似たような物を作らせて練習したわ。今度はしっかり的に当てることができると思うわ」
「魔法無しですよ?」
「あら、身体強化は魔法に含まれるのかしら?」
「含まれます。魔力使うやつ全般無しです」
「そう……ちょっと勝手が違うかもしれないわね」
「私も暇な時に練習していたのですわ! 今度こそストライクを取ってやるのですわ~」
後ろを歩いていたレヴィさんが僕たちを追い抜いて走っていく。その後をセシリアさんが追いかけていく。
それをガントさんが「抜け駆けはずるいぞ!」と言って走って追いかけて行ってしまった。
三人とも身体強化を使っているのかとても速い。
「………」
「………」
隣を歩いている王妃様と話す事がなくてちょっとピンチなんですけど! レヴィさん戻ってきて!
そう心の中で叫んでみたけれどレヴィさんには届かず、その代わりにジューンさんが王妃様の反対側に並ぶ。
「あのぉ、ぼうりんぐってなんですかぁ?」
「あれ、ジューンさんってした事なかったっけ? 実際に見た方が分かると思うけど、歩きながら説明するね!」
ジューンさん、狙ってないと思うけど助け舟めちゃくちゃ有難い!
隣に並んだ際に、さりげなく手を繋いできたけど、さっきの空気より全然ましっす!
沈黙が続かないように、屋敷に着くまでルールやらコツやらをひたすらしゃべり続けた。
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