幕間の物語106.公爵と国王はお忍びの計画を立てる
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ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランを治めているラグナ・フォン・ドランは、夕暮れ時の空を執務室から眺めていた。
眠たそうな青い目で夕日によって染められた空を見上げながら、ワイングラスに領地の特産品であるドラゴーニュワインを注ぐ。ドラゴンの血のように鮮やかな赤色のそのワインを入れ終わると、武骨な手でワイングラスを持ち上げた。
香りを楽しみ、一口だけ口に含んでは満足した様子で頷くラグナ。
仕事終わりの一杯をのんびりと飲んでいると、扉が開いてメイドに案内された男性が入ってきた。
どこかラグナと顔立ちが似ているその男性は、ツリ目がちな青い目でラグナを見ると眼光が和らいだ。肩のあたりまで伸ばされた金色の髪は毛先が外側にカールしている。
「リヴァイ、今日は何の用だ?」
「何、仕事が一段落したから久しぶりに顔を出しただけだ」
「国王がそんなにホイホイ王城を留守にして大丈夫なのか」
「大丈夫だ、問題ないように後進を育てておるからな。俺が一カ月くらい留守にしても全く問題ないだろうよ。流石に何の準備もせずにそれ以上留守にすると、バカな事を考える者も出てくるかもしれんがな」
ラグナと気安く話をするのはリヴァイ・フォン・ドラゴニア。この国の王だった。
彼は執務室にあったソファーに腰かけると長い足を組み、ソファーに身を預ける。
「俺にもくれ」
「仕方ない奴だな」
口ではそう言いつつも、ラグナの口元は綻んでいた。
ワイングラスを片手に持ち、もう片方の手でワインボトルを持つとリヴァイの正面に腰かけ、ラグナの前に置かれたグラスの中に並々と注ぐ。
注がれたグラスを手に取り、ワインを口に含んだリヴァイは思わず唸った。
「相変わらずうまいな、お前の所のワインは。シズト殿が来てからよりうまくなったのではないか?」
「シズト殿の魔道具で作ったたい肥の効果はまだ出ていないぞ。確かにブドウの成長が例年よりも良いと報告されているけどな。それがワインにどのような影響を与えるかは分からん」
「数年後が楽しみだな」
「まったくだ」
メイドが机に持ってきた燻製肉などをつまみに、ドラゴーニュワインを二人が楽しんでいると日が暮れていた。
魔動ランプが室内を明るく照らす。
それをじっと見ていたリヴァイが「それにしても」と口を開いた。
「魔力が切れるまで揺らぐ事なく室内を昼間のように明るく照らす魔道具を、同じ品質で量産できるのは流石神の力だな」
「おかげで夜中まで書類仕事が捗るというものだ」
「まったくだ。まあ、そのおかげでこうして時間を作りやすくなったともいえる」
「ただ、妻にはこのランプは不評でな。夜になっても仕事をしているのが気に入らないらしい」
「ハハハハッ! 良いではないか、可愛らしくて。パールなんぞむしろ愛用しておるぞ? 溜まりに溜まった書類仕事を俺が終えるまで寝かせてくれんのだ」
「自業自得だろう、それは」
「他にもレヴィ経由で新しい魔道具が送られてくるのだが、どれも便利で困るな。ダンジョン産と同レベルだから当然と言えば当然ではあるが」
「狙ったものを作れる、という点においてはダンジョンの物よりも上だなぁ。シズト殿の他の加護に埋もれておるが、気づかれるのも時間の問題だろう」
「極力、我が国内だけで止めるようにしていたが、本人が他国で作り始めたからなぁ。神々の力を知らしめるためだから仕方ないが……悪い虫が付かないといいのだが」
「ウェルズブラは問題なかったようだな。そもそもシズト殿の体型的に心配はしておらんかったが」
「むしろドーラはよく無事だったな。間違いなくモテるだろう、あの体型は」
「ずっと甲冑を着て黙っていたから、女とは思われなかったんだろうよ、きっと。シズト殿と一緒にいたいのであれば、万が一にも見初められぬ様に気を付けよと伝えておいたしな。……ん、ワインが切れたな」
ボトルの中が空になったが、壁際に控えていたメイドたちは動かない。
彼女たちはジトッと見るラグナから視線を逸らしてあらぬ方向を見ている。
「……妻から飲む量を制限されておってな。一日一本までなんだ」
「ではお開きだな」
「そうしよう」
その言葉を合図にそそくさと机の上に広がっていた皿やボトルを回収していくメイドたちをジトッと見送るラグナ。
室内から全員出て行った事を確認すると、リヴァイの方を見る。
「それで、今日来た本題はなんだ?」
「いやー、レヴィから報告を受けていると段々ファマリアに行ってみたくなってな。一人で行っても問題はないのだが、それだとつまらないだろう? どうせなら、お前も巻き込もうかと思ってな。まだお前の領地なんだろう?」
「一応な。シズト殿が望めばいつでもシズト殿の領地にするんだがな」
「で、あれば領地の視察に行こうではないか。何でも、シズト殿が自身に加護を授けた神々の教会を建てたらしいじゃないか」
「らしいな。ただ、魔道具以外の神はエルフやドワーフが作ったらしいが」
「だとしても、一目見たくてなぁ。各地から安値で売られていた奴隷たちを買い集めていてどのように扱われているのか不安視する者たちもおる。そいつらを安心させるためにも、是非シズト殿には知られず、抜き打ちで行くべきだと思うんだ。そうしないと大事に扱っていると取り繕われてしまうかもしれんだろう?」
「各地から奴隷商が売りに行ってる時点で、見ずとも大事に扱われていると分かるだろう。ただ一週間ほど気分転換をしたいだけじゃないのか?」
「そうともいう。転移陣で行くとすぐに行って帰って来れてしまうからなぁ」
「便利な転移陣にも思わぬ欠点があるのだな」
二人はそう言って笑い合い、その笑い声は明るい室内に響いた。
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