217.事なかれ主義者は作りすぎた
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ドライアドたちに解放されてから、転移陣でユグドラシルの根元に転移し、サクッとお世話を済ませた。
ファマリーもこれだけ楽になると行動の幅が広がるんだけどなぁ。
ファマリーの根元に転移して戻ると、当初の予定通りジューンさんに手を繋がれながらファマリアの西側の区域に向かう。僕の後ろにはラオさんとルウさんが並んで歩いていて、何か話をしている。
ファマリアの西区には、エント様の像と教会以外にもだんだんと建物が増えつつあった。
行商人や冒険者が泊まる宿がたくさん建てられていて宿場町みたいな感じだ。
冒険者や行商人が西区に集中するため、冒険者ギルドも商業ギルドもこちらに移転するらしい。まあ、近くにまとまっていた方が楽だよね。
ただ、まだ建設途中だからどちらのギルドも今ある場所で営業をしているんだとか。
宿に素泊まりしている人たちをターゲットに屋台をしている人たちもいる。
以前、ドランで利用していたマーケットも、とりあえず西区でやろうという事になって、行商人たちが露店で物を売っている。
流れ者の人たち以外にも、お休み中の駐屯兵や、奴隷たちの中でも成人している奴隷たちが買い物に来ていて賑わっていた。
「こっちの屋台は安い物が多いね」
「ここで稼いでいる冒険者相手じゃなくて、行商人とかの護衛をしている流れの冒険者たちを狙った商売だろうな」
「ここの人たちは魔石拾いで羽振りが良いけど、普通は武器や防具の手入れや必需品を買い揃えたりする事が優先だもの。ご飯はよほど余裕があるか盗賊を捕まえて得た臨時収入がないと切り詰めちゃうわよね」
「そうなんだ。防具とかは命に関わるから仕方ないけど、ご飯とか切り詰めるのはちょっとなぁ。泊まる場所も妥協できないだろうし……」
「護衛している方が用意してくれる場合もあるし、貴族の道楽で冒険者をしている方とか資金に余裕がある人もいるから、そういう人はちょっと贅沢する事もあるわ」
「お前も資金には余裕があるからそういうのとは無縁だわな」
「シズトちゃんは、冒険者だったんですかぁ? 毎日依頼を受けていないけど大丈夫なんでしょうかぁ……?」
「あ、そこら辺は大丈夫。納品依頼こなしてるし」
特殊技能があるから浮遊台車の納品だけで許してもらえてるっぽい。
思う所はまだあるけど、危険な冒険するよりは特別扱いの方がマシだなって思うようになってきた。
ただ、昇格試験は受けないと次のランクには上がれないらしい。
……もう昇格試験を受ける事ができるくらい依頼は達成しているけど、ぶっちゃけランクを上げてもメリットをあんまり感じないから放置している。試験を受けた時にまた何か起こるのが怖いし、必要にならない限りはもう上げなくてもいいかな。
高ランク冒険者になると爵位を貰う機会も増えるらしいけど、そういうの要らないし。
冒険者ギルドが管理している高難度ダンジョンに入れるようにもなるらしいけど、行きたいと思わないし。
身分証が欲しいから維持してるけど、最近身分証を提示する機会もないから、もう要らない気がする。
いろいろ考えながら歩いていると、エント様の教会に着いた。
教会の周囲には魔道具化した街灯があるが、まだ昼なので明かりは消えている。
教会の敷地に足を踏み入れると来訪を知らせる鐘が鳴り響く。
建物まで歩き、扉に刻まれた魔法陣にジュリウスが触れると、扉が自動で横に動いた。
「すごいですぅ」
「何度見ても慣れねぇな」
「そうですかぁ? 手がふさがっている時に便利ですのでぇ、洗濯室に欲しいですぅ。ワゴンを押している時も今みたいに勝手に開いてくれたら楽そうですぅ」
「んー、魔法陣の上に立ったら扉が開くとかそんな感じにすれば作れそうだし、帰ったら改良しようかな。ここもわざわざ手で触れなくてもいいような……」
「機能性を考えれば、来訪者が何もしなくても勝手に開けばいいかもしれません。ただ、祈りに来ているのであれば、来訪者が能動的に行動を起こした結果、扉が開いた方が良いかと」
「なるほど? まあ、新しく付与し直すの手間だし、このままで問題なければそのままにしちゃおう」
そうと決まれば、ここで働いている人に話を聞かねば。
建物の中に入ると、その人物は既に奥で待っていた。
エント様の像の前に立ち、こちらを見ている男性が新しく作ったホムンクルスだ。
名前はアッシュと名付けた。白髪交じりの黒髪に優し気な微笑を浮かべたお爺ちゃんだ。灰色の瞳は僕をしっかりと捉えていて、僕と視線が合うと目が細められた。
真っ白な布に金色の刺繍が施された服を着ている。
「これはこれは、遠い所からよく来てくれたね。今日はどうしたんだい?」
「ファマリアの町の見学をしてる所。問題とか起きてない?」
「特に何もないのう。熱心な幼子たちが朝から晩までひっきりなしにくるが、その程度の事問題ではないしのう」
「ふーん。居住スペースに行く時、階段が辛いとかはない?」
「こんな見た目じゃが、儂も魔法生物じゃから何も問題はないのう」
「あー、まあ、そうだよね。……じゃあ、魔道具の教会っぽくなるように魔道具化していくか」
「もう十分それっぽいけどな」
ラオさんがボソッと後ろで呟いていたけど、聞こえなかった振りをしてジューンさんに手を繋がれながら魔道具を作った。
魔力を流すとエント様が浮かび上がるように壁に魔法陣を【付与】したら「もっといろんな神様が見たい!」と、近くで僕の様子を見ていたちびっ子が言ったので、いろんな様子のエント様を作ったけど、ちょっと作りすぎたかもしれない。
まあ、子どもたちが魔法陣に触れてキラキラとした目で壁に映るエント様を見ているからヨシ!!
最後までお読みいただきありがとうございます。




