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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第13章 獣人の国を観光しながら生きていこう

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幕間の物語104.わんちゃんは周りの事を考えない

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 ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地に聳え立つのは世界樹ファマリー。

 日に日に成長を続けるその木の根元に、いつも丸まって眠っているのは真っ白な毛のフェンリルだ。

 世界樹から漏れ出る魔力を吸収しているため、フェンリルは食事の必要がない。

 日がな一日寝て過ごしているが、そんなフェンリルもたまには動く事もある。

 例えば、どこかの王女様が持ってきた肉や酒を受け取る代わりに、ファマリーの周辺に広がるファマリアを脅かすアンデッド共の殲滅をする時。もしくは、世界樹ファマリーを囲う結界の中に、何者かが侵入した時――。


 夜も更けて、ドライアドたちもそこら辺で地面に埋まって眠り、フェンリルも真っ白な毛玉となって気持ちよく寝ていた時に、それは起こった。

 突如として、フェンリルの頭上に何者かが現われて、フェンリルの上に落ちてきたのだ。

 だが、フェンリルは煩わしそうに、巨大な尻尾を動かして落下物をはたいた。


「グッ……ここは、どこだ……?」


 獣人特有の獣耳をピクピクと動かして、侵入者は周囲を見渡す。

 頭上を見上げれば、彼が見た事もないほどの巨大な木が聳え立っている。


「世界樹!? あのガキ、どういうつもりで――」

『うるさい』


 真っ黒な服装で夜の闇に紛れ込んでいた獣人を、巨大な尻尾が再度襲った。今度は苛立ちが混じっていたからか、魔力のオーラを纏った尻尾が目にも止まらぬ速さで弧を描き、獣人を弾き飛ばす。

 ボールのように吹き飛び、地面を弾んで作物に被害を与えながら転がっていく獣人を、伏せの姿勢でフェンリルが見ていた。


『……やりすぎたか? 極力殺すなとは言われておるが、……まあ良いだろう』


 フェンリルは、再び丸まって眠りにつく。

 それと入れ替わりで、ニョキッと頭を土の中から出したドライアドたちが騒ぎ始めた。


「どうしたのー?」

「何か飛んできたー」

「あっちから飛んできたー」

「レモン!!!」

「折れちゃったねー」

「畑荒らしだ!」

「レモーーーン!!!」

「捕まえろ~~~!!!」

「うわ!? な、なんだこいつら! どっから湧いて……」


 痛みに耐えながら立ち上がった獣人は、すぐにまた大地に横になった。

 後ろから足に蔦が絡みついて彼を思いきり引っ張ったからだ。

 倒れ込んだが最後、わらわらと集まってきたドライアドたちがその上にのしかかっていく。

 果たしてあれに何の意味があるのだろうかと、フェンリルは呆れながら見ている。


『どうでもいいから静かにしろ。……む?』

「――げろ!! って、遅かったか……?」


 自分がした事を棚に上げて、ドライアドたちに注意をするフェンリルだったが、その頭上に魔法陣が浮かび上がると、そこから十数人の獣人が降ってきた。

 先程の男と同様、夜の闇に紛れるために、真っ黒な服に身を包んだ集団だった。


『次から次へと……煩わしい』

「な!? フェ、フェンリル!?」

「どこだここ!」

「どこだっていいだろ、んな事! とにかく逃げるぞ!」

「全員散れ!!」

「また荒らしが来たよーー!!」


 散り散りになってフェンリルの前から逃走を図る獣人たちの存在を、青いバラが頭の上に咲いている、他の子よりも大きなドライアドが他のドライアドたちに伝える。


「侵入者ー」

「逃がすな~」

「捕まえろー」

「ぎゃあああああああ!!!」

「捕まえてどうするの?」

「どうしようね」

「捕まえてから考えればいいんじゃない?」

「は、離せ! 離してくれ~~~」

「人間さんにあげたらたい肥くれるかな!」

「きっとくれるよー」

「じゃあ頑張らないとね~」

「おー!」


 ドライアドたちが元気に騒ぎながら夜の闇の中、侵入者たちを捕らえていく。

 その様子を世界樹の根元でフェンリルが見ていた。




 朝日が昇る少し前には、侵入者の騒ぎは収まっていた。

 シズトが寝ている屋敷から、エルフのジュリウスが様子を見に飛んできた事や、シズトの眠りを妨げる可能性がある存在を消さんとばかりにホムラが突っ込んできた事を除けば、特に問題はなかった。

 いつも通り、シズトよりも早く起きたレヴィアは、いつもの作業着を着て外に出てきた。

 日課である世界樹への祈りを捧げるために、世界樹ファマリーを囲う結界の中に入って少しすると、彼女の後ろを歩いていたメイドのセシリアが異変に気付く。

 ドライアドたちがフェンリルの近くで世界樹を見上げていた。

 その視線を追うと、蔦にぐるぐる巻きにされた何者かが、世界樹の枝に吊るされている。

 だが、レヴィアはそんな事には気づかなかった。


「……誰が、こんな……ひどい事を……」


 レヴィアの視線の先には、何かによってへし折られた果物の木や、踏みつぶされた野菜が地面に散乱していた。

 わなわなと震えているレヴィアと、何が起こっているのかよく分かっていないセシリアに、青いバラのドライアドが気づいた。


「あ、人間さんおはよー」

「おはよー」

「おはようございます。……あの、世界樹に吊るされている方々は何ですか?」

「畑荒らしだよー。頑張って捕まえたのー」

「捕まえたー」

「ぐるぐるにした~」

「ギュギュッてしたのー」

「……畑荒らし……なるほど、分かったのですわ」

「それでね! お仕事したから、たい肥くださいな!」

「くださいなー」

『……我は酒と肉だ』

「構いませんわ。ただし……私の質問に正直に答えて、過失が何もなかった子だけですわ」


 フルフルと震える手で、指に嵌めていた加護の力を抑える『加護無しの指輪』を外したレヴィアが、口元をひくひくとさせながらフェンリルを見る。

 フェンリルはそっと視線を逸らして、丸まって二度寝するのだった。

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