幕間の物語100.酒乱奴隷は深呼吸した
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夜勤明けでぐっすりと寝ていたシンシーラは、昼過ぎ頃に起きた。いや、起こされた。
彼女の部屋に突如来襲した、黒い翼が背中から生えている鳥人の少女パメラが、布団に包まって眠っているシンシーラを揺さぶる。
「シーラ、遊ぶデス!」
「……屋敷の探検してくればいいじゃん」
「だいぶ前に終わっちゃったデスよ。遊ぶデス!」
「じゃあ、町の様子でも見てきたらどうじゃん」
「もう一通り見てきたデス! 新しく建設してる所は毎日朝に確認してるから知らない所はないデスよ。遊ぶデス!」
「それじゃあ、アンジェラと遊んできたらいいじゃん」
「んー、さっき断られたデスよ。でも、勉強が終わってるかもしれないデスね? ちょっと行ってくるデース!」
元気なパメラを追い返す事に成功したシンシーラは、さらに丸くなって再び寝付く。
だが、少しするとまたパメラが飛んで戻ってきた。両腕で、ピンク色の髪に真ん丸の目が可愛らしいアンジェラを抱えて。
「シーラ、遊ぶデース!」
「……アンジェラと一緒に遊べばいいじゃん」
「二人より三人の方が良いデース! 遊ぶデス!」
「はあ……じゃあ、ドライアドたち誘えばいいじゃん」
「そうだよ、パメラちゃん。シーラちゃんはおしごとのあとだから、ゆっくりしたいとおもうよ?」
「パメラは仕事の後でも遊ぶデスよ?」
きょとんとした様子で首を傾げるパメラを、アンジェラは半ば強引に部屋から追い出して扉を閉めて行った。
きっと連れて来られるまでにも言っていたが、パメラが納得しなかったのだろう。
パメラはアンジェラを見習うべきだと最近思うシンシーラだった。
二人が出ていった後、しばらくベッドの上で丸まっていた彼女は、空腹を感じてやっと起き上がる。
「お腹が空いたから何か食べたいじゃん」
シンシーラはそう呟くと、ベッドから出て立ち上がる。
黒い下着姿の彼女の見事な体型を見るものは誰もいない。
筋肉質で引き締まった手足に、大きな膨らみがある胸部。きゅっと絞られたくびれに綺麗に割れた腹筋。モフモフの尻尾に、張りがあって形の良い臀部。
冒険者時代から注目を集めていた容姿だったが、奴隷になってもそれは変わらず、戦闘用かつ愛玩用の奴隷として高値がついていた。
だが、最近彼女は自信がなくなりつつある。
全身が映るほど大きな姿見の前でいろんなポーズを取り始めたシンシーラだったが、どうもしっくりこない様子だ。
「胸も腰もお尻もレヴィ様の圧勝じゃん。っていうか、あの人は例外として考えた方が良いじゃん」
胸を持ち上げながら、シンシーラの呟きは続く。
「レヴィア様を除いたとしても、胸はラオ様やルウ様に負けてるし、最近新しく入ったジューン様にも負けてるじゃん」
キュッと引き締まった腰に手を当ててポーズを取るシンシーラ。
「腰は……ドーラ様が一番細いじゃん。でも、その次くらいには細い気がするじゃん。それに腹筋もしっかり割れてるじゃん」
ただ、これは好みがより分かれるだろうと、冒険者だった頃の事を思い出すシンシーラ。無遠慮な視線は、だいたい胸か尻に集まっていて、お腹はほとんどいなかったはずだ。
「お尻はルウ様に負けるじゃん。でも、こっちには必殺の武器があるから勝ちだと考えても問題ないと思うじゃん」
モフモフと自分の尻尾をモフりながらぶつぶつと呟いていると、不意に彼女の耳がピクピクと動いた。
「分かってるじゃん。すぐに着替えていくじゃん」
ここにはいない誰かに向けてそう言うと、彼女は着替えるために衣装棚を開くのだった。
狐人族のエミリーが用意していた昼食を食べ終えると、彼女は奴隷仲間であるエルフのジュリーンとダーリアの手伝いをしていた。
本来他の奴隷の仕事を奪うような事はしないようにしている彼女だったが、どうしても我慢できない時は手伝いをしている。
そんな彼女は、洗濯物が集められている部屋で、しゃがんでそわそわと周囲を警戒していた。
彼女の五感をフル動員して、誰も近くにいない事を確認すると、洗濯物を漁る。
そして、目的の物を見つけると、周囲を再度確認してから手に持った洗濯物を見る。
それはシズトが着ていた肌着だった。
それをおもむろに鼻に近づけると、スン、と匂いを嗅ぐ。
シンシーラの尻尾がパタパタと揺れた。
今度は、息をしっかりと吐いた後、顔に思い切り肌着を押し付け、大きく息を吸い込む。
「……スー、ハー、スー、ハー」
何回かそれを繰り返した彼女は、スッと洗濯物を元の場所に戻して、真面目な顔で呟く。
「そろそろ仕事をしないとダメじゃん」
洗濯籠の中に入っていた洗濯物を、不思議な箱の中に突っ込む。
シズトが作った洗濯機という魔道具だ。
魔道具の箱を閉じて、魔石をセットすると中の衣類に『消臭』と『浄化』の魔法をかける代物だ。
箱の中に入れる必要があるのだろうかといつも疑問に思う奴隷たちだったが、シズトのする事だからと深く考えるのをやめている。
「あー、こんな所に誰のか分からないパンツが落ちてるじゃん」
棒読みでそう言いながら手に取ったのは、男物のパンツだ。
その衣服が誰の物なのかすぐに分かるよう、籠を分けていたのだが、床に落ちてしまっていたので、持ち主が分からない。
「こうなったら匂いで確認するしかないじゃん。これは仕方ない事じゃん。万が一にもシズト様の物を間違える訳には行かないから必要な仕事じゃん」
早口でそういう彼女は、周囲をきょろきょろと警戒してから、肺の中にある空気がなくなるまで、しっかりと息を吐いた。
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