206.事なかれ主義者はドラゴンの肉を食べたい
いいねとご指摘ありがとうございました。
ドゥイージ陛下との会食は何とか粗相をする事もなく無事に終わり、帰り際に贈り物を渡してからお暇した。
クーを背負って日が暮れた街中を歩いているけど、先程からクーがご機嫌斜めだ。
「お兄ちゃん、お腹空いたんですけどー」
「ごめんって。これからどこかお店行くから許して。ラオさんとルウさんもお腹空いてるでしょ?」
「まーな」
「お姉ちゃん、ワイバーンのステーキ食べたくなっちゃったなー」
「空腹」
同居人の中でも大食いの三人は、ずっと護衛として控えていたから何も食べていない。
ジュリウスさんもきっとお腹空いているだろうけど、何も言わずに周囲を警戒している。
穴倉の中の飲食店で食事をしようと思い、山の中腹に空いている横穴から穴倉へと入る。
横穴の中にはたくさんの発光苔が生えていて、明るかった。
階段を少し下りると、とても広い空間に出た。山の中をくり抜いて作られたこの場所は、天井も高い。天井にはびっしりと発光苔が植えられていて、空間内を照らしている。
空間の中心には天井を支えているとても太い柱のような建築物があった。柱の所々に空いている穴から光が漏れていた。
天井を支えるためか、他にも柱のような建物がいくつかあるが、他の建物は普通なようだ。
「これは、すごいね……いろんな意味で」
こんなくり抜いて大丈夫なんだろうか。上にお城とか諸々載ってるけど落ちて来ないか心配になる。
柱が支えているんだろうけど、補強とかもしているのかな。魔法で何とでもなるのかも。うーん、分からん。
山の麓から入る事もできるらしい。馬車をこの空間に入れて停めるためなんだとか。
とりあえずいつまでもここでこうしてみていても仕方ないので、中央の太い柱へと続く道をまっすぐ歩いて行く。この橋が崩れたらと思うとめちゃくちゃ怖い。
その感情を察したのか、レヴィさんがそっと手を握ってきた。
「大丈夫ですわ。落ちてもクーが何とかするのですわ」
「お兄ちゃん以外は助けないよ、面倒だもん」
「それは困りますねぇ」
反対の手をいつの間にかジューンさんが握っていた。
クーもギュッと首に回した手と腰に絡ませている足の力が増した。
二人の手の感触とクーの存在に意識が向かうと怖さも少し薄れた気がする。
サクサクと歩いて中央の建物の中に入って行くと、宿屋が密集している所だったらしい。
下りていくのが面倒だなぁと思っていたらエレベーターがあった。電気じゃなくて人力だけど。
一番下まで一気に下りて、建物から出ると、道の端に発光苔が生えていて、とても綺麗だ。
ちょっとだけ貰って向こうで育てられたらいいのに。加護を使って無理矢理すれば屋外でも育てられるかな。
「また変な事考えてんな」
「んー、まだよく分からないわ」
「ん」
「口の形とか色々あんだよ。なんかしでかした後に、その前の表情とか覚えておくと分かりやすいぞ」
何か前を歩いていた三人が僕の方を見て話している。
そんなに顔に出やすいかなぁ。
「出やすいですわ」
「心の声に返事しなくていいから」
しばらく穴倉の中にある街を歩いていると、そこかしこに屋台があった。
良い匂いを充満させているけど、入ってきた時はあまり感じなかったのはなんでだろ。広すぎるから?
それとも換気装置でもついているのかな。
考え事をしていると、ルウさんがくるっと振り向いた。その手には先程の屋台で買ったワイバーンの肉の串焼きが握られている。
「シズトくん、これも美味しいわよ? はい、あーん」
「自分で食べれもがっ!」
「クーちゃんも、あーん」
「んー、お兄ちゃんが良いんだけどなぁー。あーん」
確かにスパイスがきいていてとても美味しい。
オークやらミノタウロスやらいろいろな魔物の肉をちょっとずつルウさんに食べさせられているわけだけど、今まで食べた中だったらやっぱりワイバーンのお肉が好きかも。
「やっぱり魔物は強い方がお肉美味しいの?」
「そうですねぇ。やっぱり魔物のランクが高い方が美味しいと聞きますぅ。お肉に含まれている魔力が関係しているんじゃないかと言われていますぅ」
「なるほど。じゃあ野菜とかも魔力が含まれるように育てたら美味しいのかな」
「きっとそうですわ! だからいつも育てている野菜は特に美味しいと思うのですわ!」
「そうなの? たい肥とか生育の加護とかの影響かなって思ってたけど」
「それだけじゃないと思うのですわ。実験はドーラがしているのですけれど、魔道具で作った水やたい肥の方が美味しいのですわ」
「ん。でも、時々ドライアドが悪戯する。正確性に欠ける」
「ドライアドたちが世話をすると美味しい野菜が育つのもそれが理由なんだ?」
「たぶんそうなんじゃないかと思いますぅ。薬草とかも効果がしっかり出るんですよぉ」
んー、この世界では魔力も栄養の一種なのかも。よく分からん。
まあそこら辺はこれから少しずつ確認していけばいいや。
それよりも、食べてみたいものを思い出した。お腹の具合から考えて早めに言っとかないと見つけた時に入らなくなるかも。
「ラオさん、ドラゴンの肉出してる店見つけたら教えて! ドラゴンの肉食べてみたい!」
僕がそう言うと、周囲にいた通行人や、お店の人がピタッと止まった。
信じられない者を見たかのように僕の方を見てくる。
ラオさんが僕の方に近づいてきて、顔を寄せてくる。
前かがみになると大きなお胸が近くなるんですけど。
そんな事を思いつつ、視線をあちこちに動かしていると、ラオさんが小さな声で囁く。
「あー……シズト、この国ではドラゴンの肉は食べられねぇぞ」
「そうなの?」
「この街の北の方に山が続いてるだろ?」
「あるね。まあ、ここら辺見渡す限り山ばっかだけど」
「他の山は正直どうでもいい。ここから北の山にはドラゴンが住んでんだよ。そいつらを刺激しないように、ドラゴンの肉はもちろん禁止だし、素材を持ち込む事も良く思われねぇんだ。話題に出す事もな。だから、あんまり大きな声でドラゴンについて話すな」
「分かった」
話題に出しちゃいけないならそりゃ街の人にそのタブーを聞いても分かるわけないか。
ちょっと失敗しちゃったな、と思いつつ周囲の人に頭を下げておく。
あっさりと許してもらった。観光客で時々知らずにドラゴンの話をしてしまう人がいるらしい。
国ごとにいろんなタブーがあるんだな。別の方法で情報を集める事も考える必要がありそうだ。それこそ魔道具でその国のタブーについて知るとか……うん、できそう。
その内作っとこう。
それにしても……ドラゴンのお肉が食べてみたいな。
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