205.事なかれ主義者は価値がまだ分からない
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山の上にあるお城まで歩いて行くと、だいぶ時間がかかってしまった。
相手を待たせているのなら馬車で行った方がよかったかもしれないと思ったけど、問題なかったようだ。
王様はお昼からずっと他の訪問者たちの対応をしているらしく、待合室らしき場所に通されて夕食の時間まで待つように言われた。
ソファーに座ってのんびり外を見ていると、隣にジューンさんが座った。
彼女はお揃いの適温コートは脱いでいて、真っ白な布に金色の蔦のような刺繍を施されたドレスを着ている。露出は少なめなはずだけど、体のラインがはっきりと分かるデザインだから、エルフらしからぬ体型が強調されていてヤバイ。
僕も王城に入る時には適温コートを脱いでいて、真っ白なスーツを着ている。ズボンの裾から金色の蔦が足に絡みつくかのような感じで刺繍されている。並んで座っているとお揃いの服を着ている気がしてさらにヤバイ。
「やっぱり私も白のドレスにすればよかったのですわ」
「今回の主役はお二人ですよ」
「分かっているのですわー」
先程から僕の隣に座っているレヴィさんはちょっとご機嫌斜めなようだ。
青いドレスは珍しく胸元が開いていて、とても大きな二つのアレが作り出す部分に目が行かないようにまっすぐ前を向く。
他の事を考えてないといろいろヤバイ。
「テーブルマナー、まだ怪しいんだけど大丈夫かな……」
「大丈夫ですよ。ある程度の粗相は目を瞑って頂けますから。お飲み物でも飲んで落ち着いてください」
「ありがと、セシリアさん」
「シズトちゃんが失敗しちゃってもぉ、フォローするから大丈夫ですよぉ」
……ジューンさんに悪気はないんだろうけど、僕の太腿を撫でるの今は止めて欲しい。
「交渉があったら私がするから大丈夫なのですわ!」
「……うん、お願い」
レヴィさんも僕の太ももを撫で始めた。
チラッと見ると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべているレヴィさん。
僕があげた加護無しの指輪は今は嵌めていないようだ。
…………助けて、ジュリウス!
僕は結局、壁際に控えていたジュリウスの元へ前屈みになりながら逃げ込んだ。
夕食の時間になり、通された部屋で出迎えてくれたのは、モジャモジャの立派な赤髭に、王冠を頭の上に乗せたドワーフだった。
顔には歳相応の皺が刻まれていて、聞いていた通り結構お年を召された方のようだ。眉毛もモジャモジャしていて、目が見えない。それって前見えてるんすか?
その隣には小柄な女の子のような女性もいるけど、たぶんドワーフなのだろう。
落ち着いたデザインのドレスだが、首元や耳には大きな赤い宝石が付いたアクセサリーを付けている。切れ長の黒い目に、腰まで伸びた黒い髪は後ろで結われていた。
「待たせたな、エルフの長と龍の長の娘よ。儂はドゥイージ・アダマント・ウェルズブラ。このウェルズブラの長じゃ」
「妻のドロラータよ。仲良くしてくれると嬉しいわ?」
あ、やっぱり孫娘とかじゃなくて妻なんだ。歳の差婚なのか、それともドワーフの女性は不老なのか……。
どうでもいい事を考え込んでいると、レヴィさんの咳払いでハッとする。
「世界樹の使徒のシズトです。こちら、代理人かつ婚約者のジューンさん」
「よろしくおねがいしますぅ」
「私はレヴィア・フォン・ドラゴニアですわ。私もシズトの婚約者なのですわ」
「楽にしてくれ。親しい者しかこの部屋にはおらんのでな。王侯貴族相手は慣れておらんのだろう?」
「ありがとうございます」
「挨拶はこのくらいで、とりあえず食事にするか」
侍女らしき女の子に案内されて、ドゥイージ陛下の正面に座る。
両隣にレヴィさんとジューンさんが座ると、料理が並べられていく。
……どれも味の濃そうな物ばかりだ。
「お主は酒を嗜むか?」
「え? あ、ごめんなさい。まだ未成年ですので」
「ふむ、そうか。龍の長の娘とエルフの代理人は?」
「頂くのですわ」
「頂戴いたしますぅ」
ジューンさんはドゥイージ陛下と同じ酒を注いでもらっていたが、レヴィさんは果実酒を用意してもらっていた。
レヴィさんがお酒飲むの見た事ないかも。
じっと見ていると、レヴィさんがちょっと困った様に笑う。
「あまり強くないのですわ」
「私は慣れましたぁ」
「なるほど、慣れるものなんだ」
「百年以上飲んでいたら慣れますけど、シズトちゃんは人間だから分からないですぅ」
食事の準備が終わると、ドゥイージ陛下との会食が始まった。
ジューンさんとレヴィさんの様子を窺いつつ参考にして、食事を進めていく。
ワイバーンのステーキはとても美味しい。
魔物の肉って普通に美味しいから不思議だよね。
ドラゴンのお肉も美味しいのかなぁ。
せっせとナイフで肉を切りながら考え込んでいると、ドゥイージさんが口を開いた。
「エルフの長よ。予定よりもだいぶ早く着いた秘訣について教えてくれるか?」
「秘訣、というか除雪しながら進んだら早く着いたらしいです」
「その除雪の仕方が特殊だと報告が来ておる。巨大な跳ねるゴーレムを用いたらしいな?」
「ゴーレムじゃなくて雪だるまですけど……魔道具化したからゴーレムみたいなものなのかな?」
どうなんだろう。ゴーレムのイメージは巨大な人型だけど、アレはほんとにただの大きな雪だるまだからな。同列にしてもいいのか……。
うーん、と考え込んでいるとレヴィさんがボソッと僕の名前を呼ぶ。
「……シズト」
「ハッ! 失礼しました」
「よい、気にするな」
「除雪雪だるまっていう名前の魔道具です。ご所望であればいくつか作ります」
「それは有難いのぅ。じゃが、どれくらいの対価が必要かにもよる。大量のオリハルコンやミスリルとの交換も断ったそうじゃないか。国の在り方を大きく変える可能性を秘めた魔道具じゃ。いったいどれくらいの値打ちか、見当もつかぬわ」
髭を撫でながら思案している様子のドゥイージ陛下。
僕も正直分かんないっす。
最後までお読みいただきありがとうございます。




