203.事なかれ主義者は今度はちゃんと投げた
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ウェルズブラの小さな町の近くで雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりして遊んだ翌日は、新しい新居を見て回りながら必要な魔道具をせっせと作って終わってしまった。
そのおかげで最低限、新居の手入れが楽になるように埃吸い吸い箱を大量に作ったり、屋敷の周囲に街灯を設置したり、浴槽のバリエーションをドランの屋敷と同じにしたりはできた。
ちょっと魔力が足りなかったから、たい肥を作る魔道具は一箱しかできなかった。それは昨日からずっとフル稼働中のようだ。
屋敷の裏手側に作ったらドライアドたちがわらわらと集まって、たい肥が出来上がるのを待っている。
もう一つくらい作るべきかな。
でも、今日はファマリーのお世話をした後は、レヴィさんたちと一緒にウェルズブラに行く予定だから、また今度だな。
今日の予定を考えながらベッドの上でのんびりとしていると、扉がノックされた。
扉の向こう側から声が聞こえてくる。
「シズトー、起きてるのですわ? 早く雪合戦しに行くのですわ!」
部屋にいきなり入って来ず、ドンドンドンと扉を叩くレヴィさん。
とりあえず待っていてもらって、着替えてから外に出ると、厚着をしてもこもこになったレヴィさんと、いつも通りメイド服姿のセシリアさんが扉の前で待っていた。
レヴィさんは既に防寒準備ばっちりだった。……汗かいてるし暑そうだけど。
耳当て付き帽子に、首からゴーグルを提げている。
熊系の魔物の毛皮を使って作られた黒いコートも、もこもこしていて着膨れしている。
「……そんな着込まなくても、魔道具化したコートあるよ?」
「もしもの時は使うのですわ! でも、寒さも楽しみたいのですわ!」
「……セシリアさん」
「命の危険がある場合は、問答無用で止めるのでご安心ください」
……なるほど。
どこか遠くを見ているようなセシリアさんに、適温コートと名付けた黒いロングコートを渡そうとしたが、彼女も受け取らなかった。
「いついかなる時も、私はレヴィア様の付き人ですので」
「これが本物のメイド……。でも風邪引いちゃったら困るから、とりあえず、メイド服の機能に追加しとくね」
「ありがとうございます。この代金は後でユキ様に渡しておきますね」
僕じゃ絶対受け取らない事を知ってるからそう言うんですね、分かります。
目立たないようにスカートの裏地に付与するようにお願いされたので、ササッと【付与】を済ませる。
「シズトも起きた事ですし、早速行くのですわ!」
「その前にファマリーのお世話をしなきゃいけないから無理だよ」
「お食事もまだです」
「う~~~、仕方ないのですわ……。早くシズトと一緒に雪景色とやらを見てみたいのですわー……」
しょんぼりとしつつ、食堂に向かってとぼとぼ歩くレヴィさん。
室内だったら暑いだろうし、着膨れして動き辛そうな彼女は、結局朝ご飯を食べるために防寒着を脱いでセシリアさんに渡していた。
「真っ白なのですわー!!」
「レヴィア様! お待ちください!」
もこもこのレヴィさんが元気に除雪雪だるまによって歩きやすくされた雪原を走り回り、それを追うようにメイド服のままのセシリアさんが追いかけている。
武装はせずに、皆とお揃いの適温コートを着ているドーラさんは、興味深げに雪を観察していて、僕の近くでしゃがみこんでいる。
ジュリウスさんは除雪雪だるまの上で周囲の警戒をしているようだ。
僕はホムンクルスのクーを背負い直して、振り返ると馬車の御者台に座っている小柄なエルフを見上げる。マスクをつけているけど、たぶんこの人は――。
「ジュリーニさん、だよね」
「そうだよ。やっぱこれしてても分かっちゃうか」
「まあ……」
何がとは言わないけど、小さいから……。
「なんでそんな仮面してるの?」
「まだお顔をお見せできる程お役に立ててはいないから、とかなんとか言ってたね。僕には分かんないけど」
なるほど、分からん。
むしろ隠す方が失礼になるんじゃないのかなぁ。
まあ、文化の違いとかそんな感じか。
「他のエルフさんたちは町にいるの?」
「そうだね。宿とか取らなきゃいけないし」
「そっか。無理させちゃったかなぁ。どうしてもレヴィさんが早く遊びたいって言ってたから、わざわざ馬車を町から出してもらったけど」
「気にしないでいいよ、そんな事。シズト様のやりたい事はどんどん言ってくれたらそれだけ張り切って働くからさ。先輩たちも、僕も」
「そっか……じゃあジュリーニさんも一緒に遊んでよ」
「え!? あー、それはちょっと……ここで見張りとか索敵とかしておかないとダメだから……」
「そっか、残念」
ジュリウスさんがいるから問題ないと思ったんだけどなぁ。
ジュリウスさんには遊びは断られちゃったし、仕方ない。今いるメンバーだけで遊ぶか。
「それで、何をするのかしら、ご主人様?」
それまで静かに僕の近くに控えていたホムンクルスのユキが聞いてくる。
ホムラと違って表情豊かな彼女は、黄色い目を輝かせて僕の返事を待っていた。
と言っても、雪が降ったらやる事ってだいたい決まってるからなぁ。
とりあえず、雪合戦を今日も楽しむのだった。
「ちょっとレヴィさん、加護使って避けてるでしょ!!」
「そんな事ないのですわ、目が良いだけですわ!」
「フェイントに引っかからないし、普通に投げ終わる前から動いてんじゃん!」
「気のせいなのですわー!」
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