幕間の物語98.魔女と侍女と汚れない服
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ドラゴニア王国の最南端にあるダンジョン都市ドラン。
その街にはダンジョンがすぐ近くに二つもあるため、多くの冒険者が一獲千金を夢見て行き交う。
その街の片隅に、ひっそりと営業している魔道具店サイレンスは今日も賑やかだった。
その店では二人の女性が働いている。
一人は口元にうっすらと笑みを浮かべて、接客に慣れてきた様子のホムラ。
とても長く、美しい黒髪に、アメシストのように輝く紫色の瞳、雪のように白い肌が特徴的なホムンクルスだ。
最近板についてきた営業スマイルで、今日もニコニコと情報を持ってきた者たちの相手を店の片隅でしている。
ただ、最近は飴ではなく、彼女と話す事を目的に情報を持ってくる男たちが増えてきていた。今も、必死に彼女の気を引こうとしている身なりの良いお坊ちゃんがいる。
もう一人は気だるそうな雰囲気を隠そうともしないユキだ。
褐色の肌に、短く切り揃えられた白い髪と黄色の瞳が特徴的なホムンクルスだ。
面倒臭そうにカウンターに頬杖をつきながら、魔道具を求める者たちの相手をしていた。
二人ともお揃いの体をすっぽりと覆い隠すローブにとんがり帽子を被っている。
ただ、ユキの方は一部分が隠しきれていなかったが。
ローブの下を想像しながら、彼女の顔の下に視線を向ける男は多い。
「ユキちゃんもホムラちゃんを見習って、もう少し愛想よくした方が良いんじゃないかい?」
「別に必要だとは思わないからねぇ。それに、ご主人様にそう望まれているわけじゃないから」
「勿体ないねぇ、こんなに別嬪さんなのに」
ユキと話をしていた恰幅の良い近所のおばさんがため息をつく。
愛想がよければもっと人気が出るのにと残念に思いつつも、彼女は購入した魔道具を大事に持って店から出て行った。
「次の方、どうぞー」
「こんにちは」
「おや、セシリア様がこんな所に何の用かしら」
頬杖をつくのをやめて姿勢を正すユキを、並んでいる客は物珍しそうに見ている。
その正面に立っているのは、露出の少ないメイド服を着た、王女付きの侍女であるセシリアだ。
薄い水色のショートヘアに、切れ長の水色の目の彼女は、困った様に眉を下げてユキに事情を話す。
「ユキ様もご承知の通り、私がお仕えしている御方は少々……いえ、だいぶ……ものすごくお転婆でして。ある作業をする時は汚れても問題がなく、なおかつ動きやすい服をわざわざ取り寄せているのです。ただ、私は侍女ですので、いついかなる時もそれ相応の服装が求められます」
「そう、大変ね」
「はい、大変です。この前は、あの御方と一緒に小さな子たちが暴走しまして、それに私も巻き込まれてしまって大惨事でした。気兼ねなくお転婆な御方を捕え……補佐するために汚れない服が欲しいのです」
「なるほどねぇ……汚れない服については、以前大量に作られた物のストックがまだあるんだけど、それは子ども用サイズだからねぇ。それに、今の話だと既製品じゃあダメなんだろう?」
「そうですね、できればこの中に入っている服を数着、魔道具化してほしいです」
セシリアは背負っていたリュックをカウンターの上に置く。
たくさんの服が入っているような見た目ではなかったが、ユキは特に反応する事はなく頷いた。
「分かったよ。ただ、いつ頃になったらできるとかは保証出来ない事は分かっているんだろうね?」
「もちろんです。あれば楽なのに程度ですから、急いでません」
「前金は一応貰っとこうかね。ご主人様の身内のようなものだけれど、そこら辺はしっかりしておくべきだろうからね」
「心得ております。それでは、後はよろしくお願いします」
懐から取り出した巾着袋の中には十分すぎる量の金貨が入っていた。
それだけ預けられた鞄の中に大量のメイド服が入っているのだろう。
ユキは特に何も言わずに一礼して去っていたセシリアを見送ると、並んでいる客に視線を戻す。
「次の方どうぞー」
頬杖をつきながら、彼女はその後も接客を続けるのだった。
数日と経たず、セシリアの元にメイド服が届けられた。
一緒に住んでいる仲なのだからもっと気軽に頼って欲しいと、魔道具師であるシズトが言っていたが、セシリアは曖昧に微笑んで恭しくメイド服を受け取った。
それから早速自室に戻って着替えを済ませる。
見える範囲に魔法陣があると見栄えが悪いのではないかと考えたシズトによって、普通のメイド服のような見栄えのそれに袖を通したセシリアは、シズトの所に戻ってにっこりと笑みを浮かべた。
「それでは、少々おいたが過ぎる子たちを懲らしめてまいります」
後にシズトは語る。
セシリアさんだけは怒らせないようにしよう、と。
ユキはホムラと一緒に、シズトからセシリアの言う事もちゃんと聞く様に命じられるのだった。
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