幕間の物語97.ショタエルフは御者をする
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ドワーフの国ウェルズブラは、一年中雪が降る国だ。
山で囲まれた国で、標高が高い事も理由の一つだったが、魔力の影響でユグドラシルやドラゴニア王国と気候が違うと考えられていた。
そんなウェルズブラは国の都を中心に、山に沿って縦長に小さな町が広がっている。
町から町へ移動する際に、危険が伴うため、一日で移動しきる事ができるようにと考えられて作られていた。
街道は早朝にドワーフたちが雪かきを行い、昼頃に行商人たちが馬車を走らせるのが普通だった。
だが、そんな事を気にせずに早朝から街道を進む馬車が一台あった。
真っ白に塗装されたその馬車の周囲には、揃いのローブを羽織ったエルフの集団がいて、警戒しながら歩いていた。
そのエルフたちの中で一際小さいのは御者台に座っているエルフのジュリーニだ。
集団の中で一番索敵能力の高い彼は、魔物の血が混じっている馬を操りながら、精霊魔法を使って周囲の状況を探知していた。
ただ、その探知に魔物たちが引っかかる事はなかった。
やる事がなくてついつい欠伸をしてしまうジュリーニを見咎めて、周囲を警戒していたエルフが苦言を呈した。
「おい、ジュリーニ。もっとしっかり警戒しろ! お前が見落として万が一、使徒様の馬車に何かがあったらどうするんだ!」
「そんなカリカリしなくても大丈夫だよ、たいちょー。全力全開で探知してるけどさ、まったくこれっぽっちも反応ないし。あのデカブツに驚いて逃げてんじゃない?」
ジュリーニの視線の先には、馬車よりもだいぶ先をズシン、ズシンと一定の速度で跳ねて進むアイスゴーレムがいた。
普通のアイスゴーレムと異なり、巨大な球が二つくっついただけの簡易的なそれは、跳ねる度に着地点にあった雪をどこかに吸収して除雪するゴーレムだ。
作成者であり、エルフたちが守るべき人間であるシズト以外は「真っすぐ進め」「止まれ」などの簡単な命令しか出せず、魔物に対しては攻撃手段を持たないが、それでもこの豪雪地帯ではとても便利なゴーレムだった。
時々ポコポコと大量の雪の球体を量産するのは困るが、エルフたちには精霊魔法がある。その程度の障害物はすぐさま道の外側に放り捨てる事ができるため、大した問題になっていない。
「兎系は特に警戒心が強いからねぇ、なんか見た事のないデカブツが振動を立てながら進んでたらそりゃ逃げるよね」
苦言を呈したエルフも、それは感じていたようだ。何せ出発してから次の町まで残り半分になったのに全く魔物と遭遇しないのだ。
その様な状況が起きるのは冒険者が狩りつくしたか、よそから強力な魔物がやってきて食い荒らしたかのどちらかだろう。
ただ、冒険者に関してはまずありえない。
そんな事をすれば町のドワーフたちが黙っておらず、夜中に町から放り出される事もあり得るからだ。
狐や兎系の魔物は、この国では数少ない肉の供給源なので、乱獲しないように法律で決まっている。
では、後者の強力な魔物がやってきた可能性がないかと考えるが、その場合はジュリーニでなくても探知できる者が複数人出てくるはずだ。
だから、この見慣れないデカブツに恐れをなして逃げている、と解釈するのが妥当だろう。
ただ、そうではなく魔物が狩りつくされていようが食い散らかされていようが、どちらにしてもエルフたちにとっては大した問題にはならないのだが。
「それにしても、このローブやばくない? 快適過ぎて眠くなってくるよ」
「寒すぎて眠くなるのとは別の意味で危険だな。気を引き締めねば」
「たいちょーは大変だねぇ」
「そう思うんだったらちょっとは真面目に警戒しろ」
「そうは言われてもねぇ……ん、またか」
「ドワーフか。何度目だ?」
「今度のドワーフは向こうの町のドワーフかな。たいちょー、除雪雪だるまにドワーフが踏みつぶされる前に先触れ出した方が良いんじゃない?」
「そうだな」
隊長と呼ばれたエルフが視線を向けた先にいたエルフは、隊長が何も言わずとも空を飛んでいく。
除雪雪だるまを追い越して向こう側に消えたエルフは、しばらくすると戻ってきた。
「話は通してきました。武装していたので、忠告も併せて終えております」
「ご苦労。ジュリーニも探知ご苦労だった。その調子でキビキビ働け」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はーい」
「伸ばすな!」
そんな二人のやり取りを見て、周囲のエルフが仮面越しに口元を抑えていた。
ただ、エルフたちの隊長が自分たちの方を向く頃には姿勢を正して周囲を警戒している。
エルフの隊長はそんな彼らを見てため息をつくと、向こうの町から来たドワーフに意識を向けた。
結局、その後も除雪雪だるまを前で跳ねさせながら進み続けて、予定よりもかなり早く三つ先の町まで着いてしまった。
ジュリーニは御者台でその旨を書いた手紙をしたためると、速達箱に入れてジュリウスに知らせるのだった。
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