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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第2章 露天商をさせて生きていこう

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幕間の物語7.訳アリ冒険者と妹

 ドラゴニア王国の南に位置するドランには、ドラゴニア王国の中でも有名な修道院がある。

 そこには心に傷を負ったものや、四肢欠損によって生活が難しい元冒険者、素行に問題があった貴族の子ども等々――訳アリの者たちが集められ生活をしている。

 排他的な環境で、唯一外との交流があるのは、外から来た面会者のみ。

 素行に問題があって手に負えなくなった貴族の関係者が来ることはほとんどないし、心に傷を負った者たちには昔の知人と会って辛い思いをする事もありうるのでほぼない。

 四肢欠損によって生活が難しくなった元冒険者たちにたまに面会者が来るくらいだ。

 その中の一人に、大柄な女性がいた。

 真っ赤に燃えるような赤い髪に、赤い瞳。鍛えられた四肢は長く、タンクトップにぴったりのズボンを身につけているため、豊満な胸と一緒に強調されている。

『鉄拳』と二つ名がつけられたBランク冒険者のラオが、そこにいた。

 彼女はある部屋にノックをした。

 ただ、そんな事をしても中から応答があるわけではない。

 彼女は深呼吸をしてから部屋に入った。

 部屋の中には大きなベッドとその近くにある椅子以外は何もなかった。

 窓を開け、空気の入れ替えをし、ベッドの上に横たわっている女性を見る。

 ラオにとても似ているその女性は、少しも動くことはなく、その場に横になっていた。


「久しぶりだな、ルウ。ちょっと長期間の護衛の仕事が入っちまってなぁ――」


 ラオは最近会った事を話しながら、自分の妹であるルウの体をタオルで拭いたり、服を着替えさせたりする。

 普段は修道院にいるものがやってくれているが、ラオが来たときは自分でやるようにしていた。


「――んで、この前たまたまダンジョンに入ったら活発期だったみたいだ。まあ、アタシにとっては大したことなかったんだけど、シズトが雑魚を一気に縛り付けちまってなぁ。めっちゃ楽だったが、それができるなら最初からしろよとか、なんでそんなびくびくしてんだよとかいろいろ思う所はあったわけ」


 一通り世話が終わったらラオは椅子に座って、妹に話をし続けた。

 ただ、妹は反応を示さない。


「その時に嫌なもん見せちまって、それ以来街の外に出たがらなくなっちまった。アタシにゃ、正直どう扱ったもんかわからんよ。こういった時、お前がいてくれたらって思っちまうよ、ルウ」




 妹への一方的な話をし終わり、ラオは部屋を出て修道院の責任者の元へ向かった。

 法服を身にまとい、穏やかな笑みを浮かべたご老人が庭でのんびり日向ぼっこっをしていた。


「今月の分だ」


 そう言ってその人物に向けて、小袋を放り投げる。

 その人物は難なくそれをキャッチして受け取ると中を確認した。

 金貨が数枚入っている。


「確かに。……まだ、世界樹の素材は手に入らないようですね。謎の加護を使ったと思われる呪いには、もう世界樹を使ったものしか効き目がないとは思いますが……」

「そうだな。特級ポーションを使っても駄目だったんだから、何とか手に入れたいんだがオークションすら行われねぇ。もう正直アタシから行った方がいいような気がしてきたわ」

「1年ほど前から向こうからの交易商がやってきませんからね。何かしらトラブルが起きてるのでは、という話です。貴女が向こうへ行くというなら、その間の世話はしっかりと勤めさせていただきます」

「ああ、そん時はよろしく頼むわ。まあ、しばらくは割の良い仕事が入ってっから、もう少しだけこっちで働くつもりだけどな。……それじゃ、アタシはそろそろ帰るわ」

「そうですか。貴女とルウ様に神のご加護を」


 ラオは鼻で笑ってその場を立ち去った。

 神様が与えた加護のせいで妹がああなったというのに、今更神に祈る気がなかった。

 妹をあんな状態にした加護持ちは彼女がきっちりと、自力で落とし前を付けた。

 ここに来るまでの治療方法を模索するのも自力でやった。

 使える手を使い尽くして、正直お手上げ状態だ。


「シズトが治せる魔道具を作れたらいいんだけどな」


 そんな都合のいい事が起きるわけもない。

 そう彼女は自分の中で結論付けて、猫の目の宿へと帰っていった。

 宿に戻ると、宿のそばにいた代理の冒険者に礼を言って、帰ってもらう。

 シズトはまだ部屋の中でなんかしているようだ。

 最近は浮遊台車の納品以外は部屋の中で過ごすことが多く、護衛の役割はほぼない。

 彼女は自分の泊っている部屋で、隣の部屋の気配を気にしつつ、その場でできる筋トレをして過ごした。




 シズトが領主からの指名依頼を受けて1週間が経った。

 ラオは暇を持て余し、今日も魔力マシマシ飴を舐めながら筋トレに励む。

 シズトが部屋から出てきた気配を感じたので、自分も出るか、と廊下に出ると浮遊台車の上に2台積んで押していた。

 階段では落ちそうだったので代わりに持ち、ラオはシズトと一緒に冒険者ギルドへと向かう。

 中央通りではたくさんの人が往来し、その中には浮遊台車を押して進む子どもたちの姿もある。

 魔力の増やし方や、拡張工事の中でラオの中で以前から感じていた疑問が膨れ上がっていく。

 シズトは、世間一般の常識に疎すぎた。

 

(もしかしたら、勇者か?……そんなわけないか)


 ラオの中で一つの可能性が生まれ、すぐに消された。

 勇者は戦闘に特化した存在で、シズトとは似ても似つかない。

 ラオは、シズトから「勇者なんです」と言われても信じることが出来るか不安を感じた。

 冒険者ギルドでちょっかいをかけそうな連中はだんだん減ってきたが、ラオに集まる視線が増えている事に彼女は気づいた。


(まあ、護衛といいつつほとんど外に出ない楽な護衛対象だしな。それに、今はやりの魔道具を作ってるし、そういった意味で取り込みたいんだろうな)


 ただ、声をかける前に受付の方から感じるプレッシャーに心が折られて話しかけることができない者しかその場にはいなかった。

 冒険者ギルドでの納品を終わらせ、猫の目の宿に戻ると真っ先にホムラが二人を出迎えた。

 そして、彼女の案内で部屋に入る。

 ほとんど何もないその部屋は、ベッドも誰も使ってないかのようだ。

 魔法生物だし、眠気はないのかもしれないとくだらないことを考えていたら話が進んでいて、贋作についての話になっていた。


(魔道具師なんていたか?)


 ラオは、少し前に別の場所で贋作が出回っている事を聞いていたからそれ自体には驚くことはなかった。

 ただ、魔道具師がいれば自分が真っ先に訪ねているはず、とだれが作ったかわからない浮遊ランプを見ながら頭の中で考えた。

 ただ、考えるのは元々彼女の仕事ではない。

 特に思いつくことはなかったので。イザベラに後で報告しようと、頭の片隅に残しておく。


「贋作のようです、マスター」

「ああ、それならアタシも聞いてんな。歓楽街の方で銀貨2枚で売られてるんだとか」

「へー。そんな事より、ホムラ、嫌な事言われたの?」

「そんな事って……まあ、お前がいいならいいけどよ」

「『銀貨2枚の物を買い貯めて金貨2枚で売るな』というようなニュアンスの事でした、マスター。少し静かになってもらった後、比較用として購入しようと思い聞いたところ、親切に教えてくれました」


 ホムラが無表情で話をしていたが、ラオは彼女の実力を知っているため相手の事が気になった。

 こんな姿をしているが、ホムラは魔法生物だ。

 人間離れした力を持っているので、ただ殴られただけでも、チンピラ相手だと結構やばいことになりうる。


「……そいつ、生きてんだよな」

「………」


 返答がなく、ただシズトの方を見ているホムラ。

 ラオは、この反応は想定の範囲内だったが、シズトはめちゃくちゃ慌てていた。


「え、殺したの!?」

「いいえ、殺してません、マスター」

(無言だったのは、アタシが聞いたからだよ)


 そんな事を思いながら呆れていると、シズトは「なんだ、じゃあいいか」なんて結論付けた。


「いや、よくねぇからな?いい加減、こいつに加減を教えたらどうなんだよ。そのうちほんとに死人が出ても知らねぇぞ?って、聞いてねぇし」


 ラオが忠告をするも、魔道具を興味深そうに弄り回している。

 一度こいつにホムラの本性を見せた方がいいかもしれない、なんて事を思ってはいるのだが、なかなかホムラはシズトの前で尻尾を出さない。


「なんか光弱いねぇ」

「光が弱いだけでなく、魔力効率も悪いようでスライムの魔石ではつきませんでした、マスター」

「そうなんだ。じゃあなに使ってるの?」

「最低限の光がつくのはワンランク上のゴブリンの魔石です。ただ、マスターの作られた浮遊ランプくらいの光だともっと上のランクが必要です、マスター」

「それで、結局どうすんだ?殴り込みでもかけるか?」

「なんでそんな事をしなきゃいけないのさ」

「腕が鈍っちまいそうだ」


 ラオは本気で室内トレーニングを考えねぇといけねぇな、なんてことを考えながら魔力マシマシ飴を舐め続けた。

読んで頂きありがとうございます。

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