196.事なかれ主義者は雪だるま(?)を作った
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せっせと寒さ対策の魔道具を作っていると数日が経ち、クーを護衛しているエルフから手紙が届いた。
どうやら無事、ドワーフの国の町に着いたらしい。
今は町に入らず、少し離れたところで待機してもらっている。
朝ご飯を食べ終わってから、早速観光する事にした。
初日という事もあり、ラオさんとルウさん、ジュリウスさんがついてくる事になった。
非戦闘員のジューンさんやレヴィさんはお留守番だ。
二人とも仲良く農作業をしに行くそうだ。ドーラさんはそちらの護衛をするらしい。
中継地点であるファマリーまでは皆で転移して、二手に分かれる。
クーが乗っている馬車に通じている魔法陣が淡く光り輝いていた。
向こうの準備は万全みたいだ。
馬車の中だから大丈夫だと思うけど、身だしなみを今一度確認する。
羊系の魔物の毛を使ったもこもこのコートのフードをすっぽりと被って、魔力を試しに流すとしっかり温かかった。
寒い地域に生息しているらしい魔物の皮を使って作られた黒いレザーブーツもきちんと機能しているようだ。靴の裏に刻まれた魔法陣が輝いている。
「それじゃ、行ってみよー!」
「ウェルズブラ、お姉ちゃんも初めてだから楽しみね」
「はしゃぎすぎんなよ」
一人ずつ転移陣の上に乗って馬車へと転移していく。
念のため、最初はルウさんが転移して、その後に僕とラオさんが一緒に転移し、最後にジュリウスが転移してた。
馬車の中はベッドが置かれていたはずだったが、今は何もなくて折り畳み式の椅子の上で寝転がっているクーがいた。
「遅いよー、お兄ちゃん」
「これでも急いで準備したんだけど」
「ふーん。そんな事より、約束覚えてるよね?」
「はいはい。馬車から出る時におんぶするから」
クーを制して、車窓から見える外の景色を見ると、真っ白な世界だった。
……これはやばそうだ。
車内は快適な室温が維持されるようになってるけど、外はやばいでしょ。
エルフたち大丈夫かな、と思っていたら馬車の近くで小集団に分かれて暖を取っていた。
「火の精霊と契約している者が温めているようですね」
「ジューンさんの時も思ったけど、精霊魔法って便利だね」
「何事も使い方次第でしょうね。シズト様を見ていて触発された者たちがいろんな使い方を考えているようです。今までも日常生活で多少精霊の力を借りる事はありましたが、いつ戦闘になるか分からない状況で魔力の無駄遣いをしないようにしてましたから。そう言った意味では、護衛であるのに今魔力を使ってしまっている状況は良くない事なのかもしれないです。ただ、彼らは命の危険を感じているからこそ使っているのだと思いますが」
「みんなの分のコートも作った方がよさそう」
まだ車内だから使う必要がなくて使ってないけど。
クーに魔道具化したコートを着せて、おんぶして馬車を下りる事にした。
馬車を下りると、見渡す限りの銀世界が広がっていた。
「高くなっただけでこんなに気候が変わっちゃうのほんとファンタジーって感じ」
「勇者様の世界ではここまで顕著じゃないそうですね。過去の勇者様がどうしてこういう気候なのか調べようとした事があるみたいですけど、結局大気中の魔力が影響している可能性がある、というだけで証明する事はできませんでした」
「ふーん。あ、あっちが町なんだ?」
馬車の向こう側に何やら明かりが見える。
それだけではなく、町の周辺は雪が解けてレンガの様な路面が見えていた。
「鍛冶をする時に発生する熱を町全体に広がるように設計されているそうです」
「へー……面白そう」
なんか見たら思いつくかもしれない。
その仕組みを簡単に見る事ができたらいいんだけどな。
そう思っていたけど、町長さんに相談しても見せてもらえなかった。
まあ、そうだよね。社会科見学をしているわけでもないし、見せてもらえるとは思ってなかった。ただ、もしかしたら見せてくれるかも? と思ったので聞いてみただけだ。
町の中央に穴倉と呼ばれる場所があって、そこにお店などが集まっているらしい。
そこを目指してジュリウスさんを先頭にずんずん進んでいく。
「モジャモジャの人がいっぱいだねぇ、お兄ちゃん」
「そうだね。女の人見かけないね」
ずんぐりむっくりなドワーフとは対照的に小柄で幼児体型の女の子は見当たらない。
不思議に思っていると、ジュリウスさんが理由を教えてくれた。
「基本的に、女性は穴倉の中の自分の家を守って生活してますね。男性のドワーフはこのくらいの寒さであれば平気ですし、町の外でも気にせず作業をする事ができます。ただ、女性のドワーフには脂肪も筋肉も少ないため、寒さに弱いんです。だから昔から穴倉で生活しているみたいですよ」
「なるほど、役割分担って事だね」
あの筋肉だるまみたいなフォルムは鉱石を掘る時にしか意味がないと思っていたけど、そうでもないんだな。
「ドワーフがお酒好きなのは国がとても寒いからとかかな」
「いえ、アレは昔から好きなようなので、そういう訳ではないでしょう」
ジュリウスさんがそう言うならそうなのかなぁ。
「……ところでよ、シズトは何してんだ?」
「え、何って雪だるまづくりだよ」
「雪だるま?」
「え、知らない? 雪だるま作った事ないの? 雪が降ったらいつも作ってたんだけど」
「ユグドラシルは世界樹に守られて気候が安定しているので、雪は降らないですね。ドラゴニアもダンジョンが大量にある影響か、比較的気候が安定してますので、雪を見る事が初めて、という方もいるでしょう」
「へー……地球にも魔力があったら砂漠問題とか解決すんのかな。ああ、でもそうなると大量の魔石と魔力が必要になるだろうし……」
「それで、ずっと小さな雪玉を転がしてるけど、その後はどうするのかしら?」
「え? 大きさが違う二つの雪玉をこういう感じで乗っけるんだよ」
小さな見本として手のひらサイズの雪だるまを作る。
……後頭部に魔法陣を刻んで魔石で動くタイプにすれば、雪だるまのゴーレム作れそうだな。
ああ、でも溶けたら使い物にならないか。
「どのくらいの大きさの物を作るのかしら?」
「特に決めてないけど、大きければ大きい方が良いかなぁ」
ゴーレムになるなら尚更そう思う。
ルウさんが雪だるまづくりを手伝ってくれたおかげで、僕の身長よりも少し大きな雪だるまができた。
魔法陣を【付与】で刻んでゴーレム化する。
魔石を背中に嵌め込んで様子を見守っていると、雪だるまが動き始めた。
ピョンピョン跳ねながら。
「このゴーレム、足がないからこんな移動の仕方なのね」
「……っで、これを作りたかっただけか? 終わったんだったら、さっさと中心部行くぞ。エルフたちが泊まる場所も探さねぇといけねぇだろ」
「あ、そっか。じゃあ、この雪だるまも一緒に――」
「行かねぇからな?」
「あ、はい」
しょうがない、ここで待機させておこっと。明日一緒に遊ぶか。
雪だるまの背中に埋め込んだ魔石を回収して、動かない事を確認してからクーを背負ってラオさんたちについて行く。
とりあえず、穴倉で宿屋を確保したら美味しい物を探そう。
小さな町みたいだし、家庭料理とか食べられるかなぁ。
まともに雪だるま作ったり雪遊びしたりした経験がほとんどないから想像で書くしかない……。
変なとことかあったら教えていただけると助かります!
ファンタジーだから変なとこばかりかもですけど。




