幕間の物語94.中年教師たちは話し合った
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ダンジョン都市ドランと都市国家ユグドラシルの中間地点にファマリアという町がある。
その町で、日に日に増えていく奴隷たちを見守りつつ、ちょっかいをかけそうな流れ者に釘を刺していたダンカールとエドワードという中年の冒険者は、イザベラに勧められて最近転職した。奴隷たちを教育する研修所の教員だった。
ダンカールとエドワードは、冒険者の歴が他の者よりも長い。
そのため、新人冒険者の教育係を何度もしてきた。その経験を買われて声をかけられた。
そんな彼らの新しい職場は木で造られた立派な建物だった。
敷地は広く、世界樹を中心に緑が広がったら花でも植える予定らしい。
ただ、今は何もない生えていない土地が広がっている。
「ガキども、めっちゃ集まってんな。どうするよ」
「とりあえず、勝手に入って来ないように言っとくか」
そうして玄関から出て、暇を持て余して建物の周囲に集まっていた奴隷たちに注意をして、建物の中に戻っていく二人。
その二人の後を、午前から勉強する事を義務付けられた奴隷たちがわらわらと追いかけていた。
奴隷たちの右腕には、赤色のリストバンドが身に着けられていた。
「みんなついて来てる?」
「はーい!」
「ちょっとレオ! 貴方はこっちでしょ!」
「あ!」
「はぐれないでついて来るのよー」
「はーい!」
奴隷たちの中で、小集団のリーダーを任せられている子たちが指示を出しながら、自分の班員を引き連れて指定された場所へと移動していく。
長い廊下を歩き、似たような部屋が並んでいて迷いそうになるが、部屋の入り口付近につけられた看板の模様を見て、どの部屋か見極めているようだ。
「俺の部屋はここだな」
「頑張れよ」
「そっちもな」
ダンカールは足を引きずりながら、自分に決められた部屋に入って行く。
エドワードはその隣の部屋に入った。
室内には木で作られた三人掛けの机が八つ並んでいる。
教員用の大きな椅子に座り、机に頬杖をついて今日やる事を思い返していると、どんどん騒がしくなってくる。
そばかすの女奴隷が指示に従って小集団のリーダーたちが連れてきた子たちを座らせていく。
だいぶ集団行動も慣れてきた様子で、エドワードが特に何も指示を出さなくともそばかすの女奴隷も含めて席に着いていた。
「……まだ時間にはだいぶ早いんだけどな」
どうしたものか、と思いながらため息をつくエドワード。
そんなエドワードの心情を察する事なく、一部の幼い奴隷たちは何やら窓の外に手を振っていた。
エドワードが不思議に思ってそちらを見ると、奴隷たちが窓の外から手を振っていた。
ただ、エドワードの視線に気づくと、みんな一斉にしゃがんでエドワードの視界から消える。
「……まあ、暇な奴らは好きにさせとくか」
窓の向こう側からみられてても困る事はないと判断した彼は、文字の読み方を教えるための準備に取り掛かる。
そんな彼をそーっと窓の向こう側から顔だけ出して様子を窺う奴隷たち。
結局、その日は代わる代わるその場所でのぞく奴隷たちがいた。
午前と午後に分けられた読み書きの授業も終えて、夕焼けに染まった廊下を歩くエドワード。
忘れ物がないか。また、戸締りがきちんとされているか一通り確認し終えた彼は、階段を下りて玄関に一番近い部屋に向かう。
その部屋の扉を開くと、真っ先に彼に反応したのはダンカールだった。モジャモジャの髭を弄りながら笑っている。
「お、任せちまってわりぃなエドワード。チビ共は全員帰ったか?」
「帰ってたぞ。研修の様子を見てると、どうも居残りしそうだったが、まとめ役のいう事をしっかり聞いて一人残らず帰っていたみてぇだな」
「だから言ったでしょう、建物の中には誰もいないと」
朱色の口紅が目を引くエルフの女性が、二人のやり取りを見て不服そうに眉を顰めていた。
彼女の名前はジュリエリカ。
エドワードやダンカールのように他者から推薦されてこの研修所で働いているのではなく、自分からこの仕事を望み、多数のライバルの中から選ばれたエルフだった。
以前はユグドラシルにある大図書館の司書として働いていた彼女は、黒縁の眼鏡を人差し指でクイッと押し上げる。
「奴隷になるような者たちの技量で、私の魔力探知を掻い潜る事は不可能です。明日からは無駄な事はせず、よりよい指導のための話し合いをするべきです」
「まあまあ、エリカっち落ち着いてー。エドっちは怪しい奴がいないかとか含めて確認しに行ってくれたんだよきっと。そうだよね、エドっち?」
「まあ、そんな感じだ」
エドワードはジュリエリカの発言に苛立ちを感じていたが、大きく息を吐き出すと、頷いた。
二人の仲裁をしたのはジュリオンというエルフの男性だ。
華奢な体格で、ニコニコしている彼は、とんがり帽子を被っていた。
元々は世界樹の番人として働いていた彼だったが、番人のリーダーであったジュリウスの命によってこの場所に派遣されていた。
教員として選ばれたエルフたちのまとめ役兼監視役であり、他種族との調整役でもあった。
やる気が空回りしている様子のジュリエリカの注意は後でする事にして、エドワードに座るように促して同じ机を囲むと、ジュリオンは口を開く。
「それじゃ、今日教えてみての感想と問題点、改善点がないか出し合おうか。とりあえず僕からだけど、ここの子たちはずいぶん素直だから教えやすくて拍子抜けしちゃった。まあ奴隷だから、反抗的な態度とかはないよなぁ、とは思ってたけどさー。役に立てるように早く覚えたい、って一生懸命でいいよね」
ジュリオンの言葉にモジャモジャの髭を摩りながら、ダンカールが何度も頷く。
「糞生意気な新人冒険者たちに爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだな」
「やっぱりやる気があるから物覚えもいいんだろうな。来週には読みは全てできるようになってそうで怖いくらいだ」
ダンカールの言葉に、エドワードも同意した。
彼が教えていた奴隷たちは、帰ってからも勉強できるように今日使った教材の絵本を全員持ち帰っていた。
ただ、教材の絵本がなくなる事はない。
オートトレースという魔道具で複写して作られた紙束の絵本は、まだまだ在庫はあった。
最初はこれだけあっても、誰も持って帰らないだろうから無駄だろうと思っていたエドワードは、もっと必要かもしれないと考えを改めていた。
その考えはジュリエリカも同じようだ。
「オートトレースの追加発注をお願いしましょう。シズト様のお手を煩わせるのは申し訳ないですが……」
「シズト様はそんな事気にしないって。むしろ奴隷たちのためにどんどん作りそうだから必要な物はどんどん上げてこー」
「頼りすぎるのはいけませんよ、リオン。私たちで揃えられる範囲の物で代用する事も考えた方が良いかと。そのために多額の予算が設けられているのです」
「かといって、本は高いし、同じ物はそんな大量には手に入らねぇぞ。なあ、エドワード?」
「だな。ダンジョン産の紙を大量に買い占めて、文字の一覧表を自分たちで作るくらいしか思いつかねぇな」
「人間にしてはいいアイデアですね。とりあえずそれで対応してみるのはどうでしょうか」
「まあ、午前と午後の間の時間やこの時間はあるけどよ……」
「今後の事を考えると現実的ではないよねー。……奴隷たちに練習として作ってもらおっか。ただ、お手本となる物はやっぱり作る必要はあるから、そこは字が綺麗なエリカっちお願い!」
「……まあ、貴方たちの字では間違えて覚えてしまうかもしれませんから、仕方ないですね。では、エドワードはダンジョン産の紙を仕入れてきてください。私は大きな紙がどこかにないか探してきます」
「分かった。ちょっくら商人ギルドにでも行ってくるわ」
ジュリエリカとエドワードが部屋から出て行くのを見送り、ジュリオンはダンカールと顔を見合わせた。
「じゃあ、ダンっちは引き続き僕と話し合いしようか」
「……まあ、他にする事ねぇしな」
二人の話し合いは、日が暮れるまで続けられた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
ポケモン発売が楽しみです。
最初のポケモン、進化しても立たないといいなぁ……。




