193.事なかれ主義者はこだわりすぎた
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ファマリーとファマリアの間の建築予定地を下見した翌日。
パンに青色の謎ジャムをたくさん塗っていると、既に食事が終わって僕を見ていたルウさんが話しかけてきた。
「それで、シズトくんの今日のご予定は何かしら?」
「ユグドラシルのお世話」
心なしか、ルウさんの表情が暗くなった気がする。
まあ、今日のお世話係だからと朝から張り切って僕の部屋にやってきていたルウさんだから、何となく気持ちは察する事ができるけど。
「その後に、向こうでちょっと作りたい物があるから、戻るのはお昼過ぎか夕方頃かなぁ」
「そうなの……じゃあ、ファマリーでドライアドちゃんたちと遊んで待ってるわ!」
少ししょんぼりしていたルウさんだったが、気持ちを切り替えてニッコリ笑顔に戻った。
ごめんなさい。
視線をもぐもぐと収穫した野菜を美味しそうに食べているレヴィさんに移す。
今日はドレスを着ていない。
「レヴィさんはファマリアに行くの?」
「そうですわ! 昨日シズトが話していた場所を見てくるのですわー」
「魔法建築士たちは既に呼び出しております。今日はどの様な家を建てるのか打ち合わせになるかと」
仕事が早いセシリアさん。
夕食の時にはもう動き始めていたのだろうか。ただ、レヴィさんがその恰好でも大丈夫なんだろうか。
甘酸っぱいジャムを堪能しながらも首をひねっていると、ルウさんもそちらに意識が向いたようだ。
「じゃあお姉ちゃんもそっちに行ってみようかしら? ラオちゃんはどうする? 一緒におうちの要望伝えに行く?」
「まあ、そうだな」
「あ、お風呂場は広めでお願いしますって伝えて欲しい」
「分かったのですわー」
「あと、男湯と女湯も作って欲しいかなぁ」
「ドーラも一緒に行くのですわ」
「ん。準備しとく」
「あれれ、レヴィさん聞こえてます? ほら、僕の後に皆お風呂入っているようだからさ。いくつか必要でしょ?」
「なくても困っていないのですわ」
あ、そうですか。
お風呂の要望は通るとは思っていなかったので、別にいいんですけどね。
「今日も私は店番をしていればいいでしょうか、マスター」
「あ、うん。お願い。レヴィさんレヴィさん。じゃあ、僕の部屋は今のノエルくらいの小さな部屋にしておいて欲しいなって思うんすけど。ほら、その方が警備しやすいんじゃない?」
「そんな事したらシズト様の部屋、ベッドだけになるんじゃないっすか?」
「そんな事あるわけないじゃん。……ないよね?」
え、何でノエルと一緒にみんな目を逸らすの?
ベッドもぶっちゃけあんな大きなサイズ要らないんだけど。
アレって何サイズのベッドって言うのかな、とかどうでもいい事に思考が脱線しかけていると、ホムラの次はユキが話しかけてきた。
ホムラと違ってにっこりと微笑んでいる。
「私もそろそろ店番に戻ってもいいかしら、ご主人様?」
「研修所の方は問題ないの?」
「私がやるべき事は終わったわ、ご主人様。冒険者が数名と、エルフ数名でとりあえず奴隷たちに読み書きを教えていくそうよ。その後の教育はまた後日、話し合ってからご主人様に提案するかもしれないって言ってたわ」
「結局エルフは数名だけになったんだね。希望者がめちゃくちゃいるってジュリウスが言ってたから、てっきりもっといるかと思った」
「厳正に審査して選抜しました」
「頑張りましたぁ」
ジュリウスの方を見ると、ぺこりとその場でお辞儀をするジュリウス。
ジューンさんも僕の婚約者兼代理人として審査に協力したらしい。
どんな審査方法だったのかちょっと気になるけど、今はとりあえず蚊帳の外で進みそうな新しい家について話をしなければ!
「そんなに気になるなら、ユグドラシルのお世話と作りたいものはまた今度にして、お姉ちゃんと一緒にファマリアで話し合いをする?」
「んー…………悩みどころ」
結局、何だかんだで僕の部屋は今の広さとかになるだろうし、お風呂も二つ作ったところで今まで通りお世話係に洗われる事は変わらないだろうしな。
……せめて畳のお部屋作ってもらおっと。
最後の要望はサクッとオッケーが出たからまあ良しとしよう。
ユグドラシルのお世話のために、転移陣で転移すると、既に馬車が止められていた。
「今日はぁ、何を作るんですかぁ?」
「ちょっと色々試作してみようかなぁ、って」
「そうなんですねぇ」
「材料の準備は万全です、シズト様」
「わかった。じゃあとりあえずユグドラシルに加護を使ってから始めるね」
禁足地について来る事ができるジュリウスさんは僕の護衛に専念して、ジューンさんが僕のお手伝い兼お目付け役として付いてきた。
ジューンさんは真っ白な布で織られたドレスを着ていて、ちょっと目のやり場に困る。
今日は肩の部分から腕の部分は透けて見えるタイプの物を着ているみたいで、白くて柔らかそうな肌が目に毒だ。
白い手袋を身に着けたその手で、僕の手を握ってくるから思わずビクッと反応してしまうと、彼女もサッと手を引っ込めてしまった。
「嫌でしたかぁ? ごめんなさぁい」
「嫌、ではなくてびっくりしただけですので、はい」
「本当ですかぁ。嫌だったら遠慮なく仰っていいんですからねぇ」
そっと遠慮がち握られる右手から意識を遠ざけて、馬車を見る。
車体は結界の魔法を【付与】しており、ある程度の魔法攻撃や物理攻撃に耐性がある。アダマンタイトでメッキ加工してやろうか悩んだけど、金色の馬車はトラブルを引き寄せそうなのでやめた。
また、衝撃吸収も【付与】で思いついたのでとりあえずつけておいた。荒れた道を試しに走らせてないから正直分からない。元々しっかりとした作りになっていて揺れがだいぶ抑えられているらしい。
車内には転移陣を刻んでいる。
また、一定の温度と湿度を保つことができるように魔道具を設置してあるので、快適空間になっているはずだ。
基本的には移動式の転移陣として使うからそこまで車内に気を使う必要はなかったんだけど、誰も乗っていない状況だと不測の事態に対応できないかもしれないので、ホムンクルスのクーに伝令役として乗って過ごしてもらう事にした。
クーはやる事がないので、普段は寝て過ごしているがアンジェラに捕まって何かやらされている事が多い。
安息の地を得られる事と、僕が旅行中はクーを持ち運んでお世話をする、という条件で了承が得られた。
「それじゃあ、やる事も終わったし早速作るか」
「お手伝いしますぅ」
結局、その日は見た目で納得できる車を作る事ができなかったので、帰るのは夕方になってしまった。
旅はとりあえず馬車で行ってもらおう。魔動車で行ったらトラブル絶対起きるだろうから。
最後までお読みいただきありがとうございます。




