191.事なかれ主義者の命は一つだけ
誤字脱字報告ありがとうございます。
いつも助かります。
リヴァイさんに他国への根回しをお願いしてから一週間ほどが経った。
トネリコまでのルートに関する情報収集のために街を散策したり、エント様の教会の備品をせっせと魔道具化したり、教会の管理を任せるためにインスタントホムンクルスを作ったりした。
今日は何をしようか、と考えながら朝食を食べていると、レヴィさんが一通の手紙を僕に渡してきた。
「トネリコに行くまでに通る国への通達は終わった、とお父様から連絡が来ていたのですわ」
「じゃあ、準備ができたらいつでも出発できるんだね。っていうか、手紙って……その話をするためにリヴァイさん来そうなのに」
「ちょっとこの一週間でまた忙しくなってきたようなのですわ」
「なるほど?」
根回しとかで忙しくなってしまったのかな。それだったら申し訳ないけど、違う理由かも?
あんまり詳しい事は聞かない方がよさそうだ。変な事に巻き込まれたくないし。
手紙の中には首飾りが入っていた。
金色に輝くドラゴンの目の所に、綺麗な青い宝石のようなものが嵌めこまれている。
「なにこれ? ……ネックレス? くれるって事?」
「魔除けみたいなものですわ。他国でも偉い立場の者がみればシズトの後ろに控えている者が誰か分かる物なのですわ。私もついて行くのですけれど、知名度は高くないからちょっかいはかけて来る者も出てくるのですわ。それを首からぶら下げておけば、貴族関係のトラブルは減ると思うのですわ」
「なくなるわけじゃないんだ」
「バカはどこの国にもいるのですわ」
「なるほど」
とりあえず身に着けておこう。
……ドラゴニアの王族の一員みたいな感じに思われそうだけど、レヴィさんと婚約しているし今更か。
観光する時、ハニートラップとか気をつけよ。
ネックレスをつけようとしたらモニカが着けてくれた。
「ありがと」
「いえ、仕事ですので」
モニカは足音を立てる事もなくスッと壁際に戻っていった。
それと入れ替わるようにジュリウスが近くまで来て跪いた。
「今日にも出発させますか?」
「ユグドラシル側の準備はもうできてるの?」
「シズト様のお乗りになる馬車と共に大陸を一周する者の選定はすでに終わっております。不測の事態にも対応できるよう世界樹の番人の三分の一の人数になりました。残りの者たちはユグドラシルの禁足地周辺の警備や新人の育成に専念させます」
「ああ、だから最近視線を感じる事が少ねぇのか」
ラオさんがぽつりと興味なさそうに呟いて、魔力マシマシ飴を口の中でもごもごさせている。
ジュリウスさんはその呟きに反応して頷いた。
「シズト様の周辺の警護が手薄になってしまいますが、世界樹の素材を市場に流し始めた事もあり、不届き者も減っていくでしょう」
不届き者、いたの? いつ?
ぐっすりすやすや寝ている間にすべてが終わっている可能性……そう考えたら安眠カバーで寝るのはそろそろやめるべきかな?
便利だから強制的に眠らされる日以外も自分から魔力切れで倒れ込む先に置いておいて使うようにしてたんだけど。
首をひねって考えていると、ジュリウスさんは再度「問題ない」と言った。
「私一人でどうにでもなりますので、シズト様は気にする必要はないです」
朝食後、ファマリーのお世話をするためにラオさんと一緒にファマリーの根元に転移する。
ジュリウスさんは少し後ろから周囲を警戒している様だった。
「ジュリウスは問題ないって言うけど、ラオさんはどう思う? 警備ロボット……というかゴーレムとかホムンクルス作った方が良いかな」
「………」
ラオさんは腕を組んで首を傾げた。
眉を顰めて、目を瞑って真剣に悩んでいる様だった。
やっぱりやばいよね。
「護衛としては、安全を考えたらあればあるだけ良いだろうな。屋敷周辺は看破の魔法がかけられているから魔法や魔道具を使った隠密行動は、お前が作った魔道具ぐらい性能がおかしい物じゃない限り難しいだろ。ただ、その結界を上回るような輩が襲ってこないとは言い切れねぇから、護衛を多めに配置して警備してたんだろうしな」
「なるほど。じゃあ、やっぱりお世話が終わったらそこら辺の強化かなぁ」
「ただ、好きにさせるとやらかす未来しか見えねぇしなぁ」
「自分の身を守るためだったら自重する気はないっす」
命は一つしかないですし。
ただ、襲ってきた人が僕の魔道具で死んでしまわない程度に抑えるとなると難しい。それが理由で屋敷の防衛のための魔道具は最低限にしかできなかったわけだし。
「私レベルの者を専属で雇うか、フェンリルをシズト様の屋敷で寝泊まりさせれば問題は解決するかと。最低限、異変があったら私かフェンリルが気づいてシズト様を逃がすまでの時間稼ぎくらいはできますし」
……世界樹の根元のオブジェと化している白い毛玉だけど、フェンリルを流石に街中に持ってくるのはちょっと。
ジュリウスさんも本気でそう思っていたわけではないようだ。
「もしくは、拠点をこちらに移してしまってもいいかもしれませんね。世界樹を囲う結界内であれば侵入者はフェンリルやドライアドたちがだいたい対応してしまうでしょうし」
「…………なるほど?」
最後までお読みいただきありがとうございます。




