188.事なかれ主義者は言い返せない
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微弱な治癒効果のある結界を作り、建物をぐるりと囲った。
外でできる事は他にもあるけど、とりあえず中に入る。
中に入るとすぐにお祈りをするスペースだった。
こぢんまりとした建物を作ってもらったので、他の教会のように大人数が一度に入れそうにはない。
入り口から部屋の奥まで木製の長いすが並んでいて、一番奥にはアダマンタイトでメッキ加工したエント様の像が輝きを放っている。天井は高く、二階分くらいあるように感じた。
ただ、どこかの大聖堂のように、外からの光を取り入れているわけではないので、薄暗い印象があった。
天窓でも作ってもらうのもありかな?
「とりあえず明るくするか」
「まあ、いいんじゃねぇか?」
「エント様がこう、ピカッて光ってたらまずい?」
「知らねぇよ」
「像が光るのは聞いた事がないですわ」
「シズトくんがしたいならしちゃえばいいと思うわ」
後ろからついて来ていたラオさんは特に何も言わないし、ルウさんもレヴィさんも反対はしないので、とりあえずエント様の像から後光が差しているようにしてみた。
……うん、まだ薄暗いね。
ただエント様の像に注目を集めるならこれでもいい気がしてきた。
ファマリーのお世話をしたから、魔力に限りもあるので今日はこれで良しとしておこう。
部屋の一番奥まで歩いて行くと、両側に奥へと続く扉があった。
とりあえず右側の扉を開けて奥へと進むと、天井が低くなった。
廊下を歩き、右手側にある扉を開けると、トイレがある。
注文通り、洋式タイプのそれを屋敷の物のように魔道具化しておく。
まだファマリアは居住区以外、上下水道が整備されていないから、水が溜まっていなかったが、レバーを引くと水が勢いよく流れた。
「このトイレはどんどん普及したいですわね」
「ん、便利」
「そうねー。スラム街とかだとどうしても臭いがきついから……」
「汚れが水で洗い流されるのは、手入れをする私たちにとってとてもありがたいです」
トイレ掃除要らずで便利だよね、分かる。
前世だとどうしてもこびりついたりした物はブラシで擦らないと取れなかったけど、便器自体を魔道具化してるから、水を流せば綺麗な状態に元通りになる。
流石にお尻に水を当てて綺麗にする機能は付けなかったけど、便座も季節に合わせて温かくなるようにしてあるし、だいぶ快適になっている。
トイレから出て廊下を進み、右手側にある扉を開くと、今度は普通の部屋だった。奥にもまだ扉があったのでそちらに行くと、調理場のようだ。
建物の端っこにあるからか、廊下もさっきの部屋も調理場も窓がある。
暗くはないからまあ、照明の魔道具を作るほどではないか。
廊下に出て進むと、廊下の突き当りの右手側に、二階へと続く階段があった。
二階は居住スペースのようだ。
「ここは特に弄らなくていいか」
「そう言えば、この建物を管理したり神の教えを広めたりする人はどうするのですわ?」
「んー、特に考えてないけど、いる?」
「そりゃいるんじゃねぇか?」
「そっか。……ファマ様はエルフの誰かが勝手にするよね?」
「シズト様の許可が頂ければ立候補者は大勢出るかと。ただ、ジューン様に任せるのがよろしいのではないかと愚考します」
「ジューンさんに? ……ジューンさんにお願いしてもいいけど、無理強いはしないでね?」
「心得ております」
「プロス様はドワーフの誰かがやってくれるかな。それこそドフリックさんやドロミーさんとか。ドロミーさん、最近プロス様の像の周りの掃除をしてくれてるらしいし」
「あれは父親のした事の後始末をしてるだけだな」
「………とりあえず聞いてみる」
最初はどんな神様か伝えるだけの簡単なお仕事から始めてもらって、教義とか諸々は追々考えていこう。
「ファマ様はエルフがいて、プロス様はドワーフがいるけど、エント様は特定の種族から信奉されてるわけじゃないからなぁ。あ、奴隷がそういう役割を担うのはどうなの?」
「トラブルの種になるだろうな。奴隷から解放しておくのが無難じゃねぇか?」
「やっぱそうだよね。エント様の像の手入れはファマリアに住んでる子たちや冒険者がやってくれてるみたいだし、その中からって思ったけど……」
これを機会に、役割にぴったりな子がいたら奴隷から解放してお願いするのもありかな。
いや、元奴隷だったら難癖付ける人も出てくるかもしれないか……。
ホムラとユキはホムンクルスだし、ある意味適任と言えば適任かもしれないけど、商売とか交渉事とか諸々丸投げしてるから忙しいだろうしなぁ。
…………新しく作るか。
そうなるとこの部屋はホムンクルスの誰かの部屋になるだろうし、転移陣でも設置しておこう。
ドライアドたちに管理を任せている転移陣のように、一部分を欠けた状態にして使えないようにしておく。
対になる物は戻ったら作っておこう。
この部屋でやる事は終わったので、皆でぞろぞろと部屋から出て、お祈りをする場所に戻る。
歩くの面倒だから転移陣で移動できるようにしちゃおうかなぁ……痛い!!
「まだ何も言ってないんだけど!?」
「言ってないだけで、変な事考えてはいるんだろ?」
「………」
実際、反対される事は予想して口に出さなかっただけなので、何とも言えない。
……ラオさんやっぱり、レヴィさんと同じ加護持ってるんじゃないかなぁ。
最後までお読みいただきありがとうございます。




