幕間の物語90.中年冒険者たちは転職する
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ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地の中央に、世界樹を囲うように建設が続いているファマリア。
シズトによって作られたホムンクルスのホムラが買い集めた奴隷が徐々に増え、今日も幼い奴隷たちが元気に駆けまわる。
幼い奴隷に紛れて酷い火傷の痕や、四肢の欠損がある成人に近い男の子もいて、力仕事の補助をしていた。
ドラン公爵から派遣されている駐屯兵は、流れ者たちが主人が側にいない奴隷たちに危害を加えないか目を光らせ、商人たちは新参者の同業者にこの町の暗黙の了解について事前に説明をする。
同業者が奴隷に不利益を与えたら、彼らにも累が及ぶからだ。
そんな町で、冒険者ギルドのギルドマスターであるイザベラによってスカウトされた中年冒険者たちは、今日もファマリア周辺のアンデッド退治をしながら魔石を集めていた。
ドラン公爵領を中心に、どこかの誰かによって買い占められているため、魔石の買取価格が高騰していた。
それだけでなく、アンデッド退治の支給品として渡されている魔道具にも必要なため、自分たちが使う分を集めておく必要もあった。
「今日も十分すぎるほど拾えたな」
「この魔道具便利過ぎるだろ」
「ただ低ランクのアンデッドじゃねぇとすぐに倒せねぇけどな。フェンリルが率先して強い奴倒してくれるから何とかなってるけどよ」
「強い奴の魔石が落ちてねぇのは残念だけど、安全第一だろ」
「まーな」
足を引きずりながら歩く髭がモジャモジャの厳つい男と、左目に眼帯をしているスキンヘッドの男がファマリアをすっぽりと囲う聖域の外から町の中に戻ってくる。
聖域との境目には徐々に外壁が作られている最中で、浮遊台車に乗った子どもたちがレンガを運び、駐屯兵に納品していた。
「へいたいさーん。おとどけものでーす」
「チビ共、あんまり速度出すんじゃねぇぞ」
「はーい」
「返事だけは良いんだよなぁ」
幼女と若い兵士のやり取りには口を挟まず、冒険者たちは集めた魔石を買い取ってもらうために冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドは木造建築の大きな建物だ。
他の古傷がある冒険者たちも、ファマリアの外からぞろぞろと戻ってきているようで、開け放たれた扉から中を窺うとたくさんの冒険者たちがいた。
眼帯の男が、並んでいる冒険者たちの後ろに並び、受付に魔石を買い取ってもらい、報酬を受け取る際に受付嬢に呼び止められた。
「エドワード様に指名依頼が出されています」
「俺にか? 誰からだ?」
「ギルドマスターからです。三階のギルドマスター室へどうぞ」
「今からか?」
「はい」
眼帯の男エドワードは首をひねりながらも、カウンターの内側に入り、三階に続く階段に向かう。
丁度、先程一緒にいた足を引き摺って歩く髭がモジャモジャの男も階段に向かう所だった。
「ダンカールも呼ばれたのか?」
「ああ。……一緒に通されたって事は共通の依頼か」
「だろうな。ギルマスには感謝してっけどよ、俺たちみたいなやつらにできる事は限られてると思うんだけどなぁ」
「まったくだ。若い奴らに任せればいいのにな。気を利かせて仕事を回してくれてるってのは分かるけど、魔石集めるだけで貯金もできるし今の仕事で満足してんだけどな」
「危険もほぼほぼねえしな」
「ちげぇねぇ」
えっちらおっちら階段を上る髭もじゃの男ダンカールのスピードに合わせてエドワードはゆっくりと階段を上る。
三階まで上がると、彼らを氷の彫像が出迎えた。
ただ、彼らはまた余計な事を言ったのだな、と呆れた目で見るだけで、氷漬けのボビーを放置してギルドマスター室の扉を叩く。
「入っていいわよ」
部屋の主の返答を聞いて、エドワードが扉を開いて先に中に入り、ダンカールがその後に続く。
部屋の長机に積まれたたくさんの書類に目を通していた女が顔をあげた。
銀色の長い髪が窓から入ってくる光に照らされて輝き、彼女の赤い目が彼らを捉える。
「わざわざここまで来てもらって悪いわね、ダンカール」
「いや、別に大丈夫だ……です」
「無理して敬語を使おうとしないでいいわよ」
ギルドマスターである銀髪の女性イザベラは、書類の山から紙を数枚取り出すと、彼らを来客用の椅子に座らせて自身も彼らの正面に置かれた椅子に腰かけた。
イザベラは彼らとの間にある足の短い長机の上に、彼らの方に向けて資料を並べる。
そこに書かれている内容を見て二人の男は同時に眉を顰めた。
「教員?」
「俺たちにものを教えろって事か? 教えられるような事はねぇと思うけどなぁ。なあ、エドワード」
「教えるのは簡単な事だと聞いてるから、あなたたちで問題ないわよ。それよりも、あなたたち、奴隷の子たちと仲が良いんでしょう? だったら適任だわ」
「仲が良いって、食いものねだられるから買い与えてやってるだけだぞ?」
ダンカールが不思議そうに首を傾げると、エドワードも頷く。
そのくらいの事は他の同じ境遇の冒険者たちもこっそりしている。
この町の子どもたちは飢えとは無縁だが、今までの癖はなかなかやめられない。
「他にも代筆してるじゃない」
「代筆って言ったって『ありがとう』とかそんくらいだぞ」
「代筆しているなら十分よ。今回教師として教えて欲しいのは読み書きなんだから。奴隷相手にそういう事しても問題なさそうな人たちに声をかけているの。この町を治めている子が奴隷たちに教育を施そうと考えているみたいでね。教員の衣食住を保証し、なおかつ給金も出すって言ってるし、受けて損はないと思うわよ?」
「魔石拾いはどうすんだよ。ほっとくと魔石に釣られて魔物が湧くぞ」
「護衛依頼でやってきて暇を持て余している流れの冒険者が勝手にやるわよ。実際、今日もしてるじゃない」
「まあ、そうだけどよ……エドワード、どう思うよ」
「うまい話には裏があるって言うからなぁ」
「ちょっと考えてもいいか?」
「別にいいけど、この部屋から出たら別の冒険者に声をかけるから早めに答える事をオススメするわ」
にっこりと目を細めて笑うイザベラを、二人の中年男はジト目で見るのだった。
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