185.事なかれ主義者はご機嫌を取るために作った
誤字脱字報告ありがとうございます。
独楽が回るのをジューロさんとジーッと眺めながら考える。
物を回転させる魔法陣であれば、扇風機とか作れるかも?
ああ、でも回転が遅いから意味がないのかな。
魔動耕耘機を参考に作ったって言ってたけど、その劣化版だからこんなにゆっくり回る感じなのか?
回転が遅くても問題ないものって何があるかな……。
んー、水車みたいなの作って流れるプールみたいなの作るとか?
できるか分かんないけど……水車?
「これ、車も作れるんじゃ……? エンジンとか諸々の内部構造分かんないから作れないって思ってたけど、要はタイヤが回れば前に進むわけだし……たぶん?」
試しにちゃぶ台の上に転がっている他の独楽の一つを、魔法陣はそのままで加工して少し厚みのある円盤状の物を作ってみた。
魔力を流してタイヤのように転がるように立てて、手を離すと思った通り転がっていく。
亀の歩みのようにゆっくりと平らな床の上を転がっていくのをじっと目で追う。
それは壁にぶつかると止まった。
「なるほどなるほど? 浮遊台車の廉価版は作れないけど、工夫次第では自動車……じゃなくて魔法で動くから魔動車? とか作れそうじゃん。街中なら路面電車みたいなの作るのも面白そうだし、ファマリアで実験してみようかなぁ。どう思う? ジュリウス」
「よく分かりませんが、シズト様のお好きなようにされるのがよろしいかと」
「……ま~たシズト様が新しい魔道具を作ろうとしてる気がするっす。実験はジュリウスに任せればいいんじゃないっすかね」
ノエルは作業をするために背を向けているのに、話は聞いていたようだ。
作業を続けたまま独り言を呟いたノエルに視線を向ける。
「……ノエルは新しい魔道具興味ないの?」
「興味はあるっすけど、人体実験の被験者じゃなくて魔道具の解析をしたいっす。だから実験はジュリウスやジューロがすればいいと思うっす」
「シズト様がお望みであれば、最善を尽くします。ジューロもきっとそう言うでしょう」
「いや、流石にジューロさんに危険な事はさせないよ?」
見た目が小学生くらいの女の子だし、そういうのむしろさせないよ?
ノエルが振り向いて、何か言いたそうな目で僕の方を見てくるけど無視して、ジュリウスさんに出してもらった木材を加工する。
朧げな記憶を頼りに、木材でミニカーを作ってみる。タイヤを後から嵌めて、回るようにしようと思う。ただ、そのままだと取れちゃうだろうから、タイヤを嵌めるために作った四つの短い棒の先端を太くして抜けないようにしようかな。
「こんな感じか。あとは……ジューロさん」
「………」
「おーい」
「………」
めちゃくちゃジッと自分の作った独楽を目で追っている幼女エルフの肩を、優しく叩くジュリウスさん。
ハッとして叩いたジュリウスさんの方を見たジューロさんは、僕に視線を移した。
「この二つに独楽に刻んだ魔法陣描ける?」
「えっと……その……小さすぎて、無理です……ごめんなさい」
ああ、なるほど。ミニカーサイズだもんね。じゃあ自分でやればいいか。
独楽を一つ手に取って、しっかりと見てから【付与】を使う。
ジューロさんが目を丸くして僕の方を見ていたけど、加護を使うの見せるのはじめてだったっけ?
まあいいや。
ミニカーの後輪部分に付与を施した物を嵌めて、前輪は何もしていないタイヤを嵌める。
「あの……それ、なんですか?」
「ミニカーだよ。回転する魔法陣を車輪につけたら勝手に動く馬車が作れるんじゃないかなって思って、ちっちゃいので試してみようと思ってね」
魔力を十分注いでから床に置くと、亀のような速度でのろのろと勝手に進んでいくミニカー。
無事上手くできたみたいでよかったよかった。
ジューロさんが目を輝かせて転がっていくそれを四つん這いで追いかけていく。
あ、壁にぶつかって止まった。
どうするのかな、と見ていたらジューロさんはミニカーを手に取ると、向きを反対にしてまた走らせ始めた。
「ただ、あれじゃ使い物にならないかなぁ」
「そうでしょうか?」
「あんなに遅かったら歩いた方が良いじゃん? もっと早く作らないと……あ、できそう」
もう馬車を改造して勝手に走るようにしちゃおうかな?
……まあ、その実験はまた明日でいいや。
とりあえず、今日はジューロさんが解析して作り出したゆっくり回る魔法陣の活用方法を考えよう。
「回転を利用する道具って何かあったかなぁ……ねじ? 電動ドリルとかあるけど、ゆっくり回るし、何かにぶつかったら止まっちゃうから穴をあけるためには難しいか。丸太にこれ刻んでその場でぐるぐる回るようにさせたらベルトコンベアみたいな感じになるか……? 何かに使う人いるかなぁ。回転寿司……? あ! 動く歩道はできるかも? ジューロさんは何か思いつく?」
「え、……と……、特に思いつかないです、ごめんなさい」
謝る事じゃないんだけどなぁ。
ジューロさんがしゅんとしてしまったので、また魔道具に夢中になってもらおう。
木材でちっちゃなレールを作ってジューロさんの周囲に敷き、ミニチュアトロッコを走らせるためにせっせと加工と付与を使いまくった。
限界近くまで魔力を使ってしまったので、結構だるい。
けどまあ、そのおかげでぐるぐると自分の周りを動き回るトロッコに夢中になったジューロさんが見れたから良し!
最後までお読みいただきありがとうございます。




