幕間の物語88.全身鎧は入り浸る
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それに気がついたのはドーラが一番最初だった。
シズトがジューンと風呂から上がった後、レヴィアとセシリアと一緒に浴室に入ってきたドーラは、見慣れない浴槽に泡が大量に溜まっている事に気づいた。
「興味深い」
「なにがですわ?」
「あれ」
「シズトがまた作ったのですわ? 気にはなるのですわ。ただ、お風呂に入る前に体を洗うべきですわ」
「……………………分かった」
小走りで走って二人を追い抜いたドーラは、普段はずっと魔道具で泡を作っては遊んでいるのに、ササッと髪と体を洗った。
セシリアがレヴィアの髪を手入れをしている間に、ドーラは体を洗い終えると小走りで泡風呂に向かって行く。
「なるほど」
泡の中に手を突っ込んだドーラは、確かにこれはお風呂だと納得した。
他の浴槽と異なり、低めの温度だった。
これならしばらく浸かっていても大丈夫そうだ、と浴槽の縁に腰かけて細くて白い両足を白くてもこもこな泡の中に突っ込んだ。
「シズト様が気持ちを紛らわせるためにお作りになったのでしょうか」
「分からないですけれど、シズトの好きなようにすればいいのですわー」
「あわあわ」
「そろそろ浴室のスペースがなくなってきたのですけど……」
「増築してもらうか、新しく浴室を作るのもありですわね」
「もこもこ」
「露天風呂、という物がニホン連合国にはあるそうですよ」
「勇者の世界の宿にある外のお風呂ですわね。警備の面でちょっと不安ですわ」
「そこら辺はシズト様が魔道具で何とかするんじゃないでしょうか」
「ふわふわ」
泡で遊んでいるドーラを気にした様子もなく、セシリアはレヴィアの体の手入れをしていた。
レヴィアはされるがままにされながらセシリアと会話を続けている。
一通り体の手入れが終わると、レヴィアはセシリアと別れて電気風呂に向かって行く。
その時、チラッと見るとドーラは浴槽の縁に腰かけていたが、泡まみれになっていたため、小さなお尻も華奢な背中も見えなかった。
セシリアはササッと自分の髪と体を洗い終えると、元々屋敷にあった浴槽に入る。
「レヴィア様、良く平気ですね」
「慣れれば平気なのですわ~」
「私には無理そうです」
「……! 集める」
短い手を懸命にのばして周囲の泡を集め始めたドーラを置いて、セシリアとレヴィアはある程度温まったら出て行ってしまった。
風呂上りにもするべき事があったからだが、ドーラは彼女たちを気にした様子もなく集めた泡を山のようにこんもりとさせていた。
浴槽に魔力を流せば集めて減ってしまった周囲の泡も補充される。
「何してんだ、あれ?」
「何かしら?」
ドーラが山を二つ作ったところで、ラオとルウが浴室に入ってきた。
鍛え上げられて引き締まった体を隠す事もなく堂々と歩く二人は、彼女たち用に少し高く作られた椅子に座って、二人並んで髪を洗い始めた。
髪が短いラオは一通りのケアも行うと、魔道具で作った泡を体につけていく。
「ラオちゃん、てっきりシズトくんが国の外に出るの反対すると思ってたわ。守り切れないかもしれないからって」
「アタシらだけだったらそうしてただろうよ。ただ、今はジュリウスがいるだろ?」
「そうねー。実力だけだったらSランクだと言われても不思議じゃないわよね」
「まあ、万が一の時のための魔道具は常に身に着けさせて、アタシもできる限りシズトの側にいるつもりだけどな。ジュリウスには守りに専念してもらって、敵はアタシが木っ端微塵にしちまえばいい」
「私はもしもの時のためにとっておきは使えないわねー。鍛錬の時間を増やそうかしら? でもそうするとシズトくんと関わる時間が減っちゃうし……」
「魔物相手だったらファマリアに行きゃゾンビ共がわんさかいるけどな。あー、でもアレはシズトが作った魔道具で簡単に倒せっから鍛錬にならんか」
体を洗い終わった二人が水風呂に入ろうと振り向いた先では、泡を胸に集めて二つのふくらみを作って遊んでいるドーラがいた。
「…………なに?」
「いや、別に」
「のぼせないように気を付けるのよ?」
「ん」
遊んでいるドーラを放っておいて水風呂に二人が入ると、脱衣所の方が騒がしくなる。
主に騒いでいるのは一人だけのようだ。
浴室に入ってきたのはホムラとユキ、そしてホムラに足首を持って引き摺られているノエルだった。
「自分で歩くから離してほしいっす!」
「最初からそう言えばいいのです」
「ある程度ほっとけばいいんじゃないかい?」
無表情のホムラと、呆れた様子のユキは椅子に座って体を洗い始める。
ノエルはというとササッと体にシャワーを浴びるとさっさと出て行ってしまった。
「…………連れ戻してきます」
「いつも飽きないねぇ」
気だるげに髪を洗うユキは、髪が濡れたままノエルを追いかけるホムラを見送った。
ユキが褐色の肌についた泡を洗い流す頃になると、ホムラに引きずられたノエルが戻ってきた。
また、その二人と一緒に奴隷たちも入ってくる。
「なんか面白そうなのあるデース!」
「あ、パメラ! 体を洗ってからにしなさい!」
「豪快に泡の山に突っ込みましたね。あれはあれで体を洗った事になるのではないでしょうか?」
翼をはためかせてドーラが作った泡の山の一つに突っ込んだパメラを、尻尾を逆立たせて怒るエミリーと首を傾げて考えるモニカ。
浴室内に人が増えては減ってを繰り返すが、ドーラは最後の一人になってもずっと泡で遊び続けたのだった。
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