幕間の物語85.代理人はとりあえず頭を撫でる
誤字報告ありがとうございます。
なかなか自分では気づけないので、助かってます。
ドラゴニアの南を治めているドラン公爵の領都、ダンジョン都市ドランにあるシズトの屋敷に、新しい同居人がやってきた。
世界樹の使徒の代理人として選ばれたエルフのジューンだ。
自信なさげに垂れた眉と、優しそうな雰囲気を漂わせる緑色のたれ目。癖のある金色の髪の毛は波打ち、腰まで伸ばされていた。
エルフには珍しく豊満な胸部にくびれた腰、柔らかそうな大きなお尻が女性らしさを強調している。
透き通るように白い肌が、紅潮した頬をより際立たせていた。
シズトがルウに風呂場へ連れて行かれた後、彼女もまた彼女の手を引くドラゴニアの第一王女であるレヴィアに手を引かれてある部屋へと連れて来られていた。
大きな円卓を囲むように、ホムンクルスのホムラとユキ、冒険者であるラオとドーラが座っていた。
談話室と便宜上呼ばれているその部屋は、厚いカーテンが窓も入り口も覆っていて、室内は暗い。
円卓の上に置かれた廉価版の浮遊ランプが淡く周囲を照らしている。
「あ、あのぉ……今からぁ、何をするのですかぁ」
「世話係会議をするのですわ」
「なんですかぁ、それぇ」
「世話係をしている人たちで情報交換をしたり、話し合いをしたりしているのですわ!」
レヴィアは空いていた席に座ると、きょとんとしているジューンを隣の席に座るように促す。
レヴィアの背後にはセシリアが静かに綺麗な姿勢で立っていた。
「レヴィア様、まずは世話係について説明した方がよろしいのではないかと」
「そうですわね。ざっくり言うと、シズトの事が好きでお世話をしたい人が身の回りの世話をしているのですわ。目的はシズトと仲良くなる事もあるのですけれど、シズトに私たちに慣れてもらうのもあるのですわ」
「慣れてもらう、ですかぁ……」
「まあ、そこら辺はそのうち分かると思うのですわ。まずは自己紹介をしようと思って来てもらったのですわ」
「あぁ、なるほどぉー。私からぁ、すればいいですかぁ?」
「お願いするのですわ」
レヴィアの返事を聞くと、ジューンは立ち上がった。
プルンと揺れる大きなモノを見て、ドーラはそっと自分の胸を見下ろす。
それからレヴィアとラオ、ユキを順番に見た後、立っているセシリアの胸を見た。
「私はぁ、ユグドラシルでぇ、孤児院のお手伝いをしていましたぁ。こんな見た目なのでぇ、嫁に行く事もできずぅ、歳を重ねてしまいましたぁ。シズト様にはぁ、もっとふさわしい人がいると思いますがぁ、選ばれた以上私にできる事をぉ、精一杯頑張ろうと思いますぅ。エルフの私がぁ、シズト様の婚約者になる事を快く思わない人もいるとは思いますがぁ、いつの日か仲良くなってくださるとぉ、嬉しいですぅ」
ペコリ、と腰を90度以上曲げて頭を下げると必然的に胸の谷間が強調される。
無表情のままドーラはそれを凝視して、自分の胸を触りつつ首を傾げた。
「初めに言っとくけどよ。別にアンタの事を悪く思ってる奴はいねぇからな。シズトにちょっかいかけたのはユグドラシルの前の使徒がやった事だし、一人の国民だったアンタに罪はねぇよ。それに、アタシらはアンタには感謝してんだよ。これで二人目だしな」
「ん、順調。名目でも問題ない」
足を組んで椅子の背にもたれかかっていたラオに視線を向けられたドーラは、胸を触るのをやめてこくりと頷いた。
「ただ、ラオには申し訳ない事をしたのですわ。予定では次は関りが一番深いラオの番でしたのに」
「別に順番なんて気にしねぇよ、アタシは。それにシズトが無理って言うんだったら結婚しなくてもいい。恩を返せりゃなんだっていい」
「でもシズトの事は好きですわ?」
「……まあ、否定はしねぇよ」
懐から魔力マシマシ飴を取り出したラオは、それを口に含むとレヴィアから視線を逸らした。
「レヴィア様、一先ず自己紹介を続けてはいかがでしょうか」
「そうですわね。じゃあ、次は私がするのですわ!」
フンス、と鼻息荒く立ち上がったレヴィアの後を追うように、その場にいる者が一通り自己紹介を済ませると、ジューンに対して世話係について説明を行い、明日からそれをしてもらうと伝えたところで部屋の扉がノックされた。
「そろそろシズトがお風呂から上がるようですわ。食堂に移動するのですわー」
「分かりましたぁ」
ぞろぞろと部屋から出て行く面々の後ろからジューンはついて歩く。
一先ず好意的に受け入れられているようだ、とホッと胸を撫で下ろすが、何かやらかして嫌われては元も子もない。
ジューンは顔色を窺いながらいろいろな話をして過ごすのだった。
翌朝、自分に与えられた部屋で身支度を整えた後、シズトの部屋だと紹介された場所の前で、ジューンは立っていた。
身だしなみを今一度確認し、胸はやっぱり何とかして少しでも小さく見えるように努力するべきだっただろうか、と悩みつつも扉をノックした。
寝ている時間だと知らされているが、念のため返事を待つが何もない。
「話ではぁ、起きるまで室内で待っている人しかいなかったしぃ、それがこの家でのルールなのかしらぁ」
であれば、ここで待っていてはいけない。
起こすところから自分の役目なのだと思って室内に入る。
自室よりも倍以上広い室内に置いてある、エルフが何人も横になれるくらい大きなベッドの真ん中で、すやすやと姿勢よく眠っている黒髪の少年がいた。
ジューンが近づいても彼は起きる気配もなく、静かに眠っている。
静かすぎて本当に生きているのだろうか、と慌ててベッドの上を四つん這いで移動してそっとシズトの口元に手を当てた。
「息はしてるわねぇ」
ホッと一息つくと、彼女は四つん這いの姿勢のまま、シズトの前髪をそっと分けて、まだあどけなさが残るその寝顔を見る。
「こうやって見るとぉ、普通の子どもって感じねぇ。……婚約者として何かするべきかしらぁ? 人間の男の子はどんな事をしてもらったら嬉しいのかしらぁ」
エルフの子どもたちにすら体型を揶揄われていたので、あまり他者と関わらず過ごしていたため、考え込んでもジューンは思いつかなかった。
だからとりあえず、幼かった頃にされて嬉しかった事をして過ごそう、とシズトの近くに横座りすると、そっと頭や顔を撫で続けた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




