177.事なかれ主義者はいろいろ気になる
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一階を一通り説明した後は、二階の説明をしていく。
まあ、ほとんど使われてないんだけどね。
応接室と、書斎と、遊戯室くらい?
他なんか作ったような気もするけど、忘れた。
応接室は高そうなソファー以外は木製で揃えた部屋だ。
王族か勇者の対応以外で僕は使っていないんだけど、パメラとアンジェラが時々かくれんぼで使っているらしい。
だいぶ前に作った埃吸い吸い箱のおかげで埃をかぶっている様子もなく、清潔に保たれていた。
扉が開く音に気付いて、こちらを振り返った奴隷のジュリーンと目が合う。
ジューンさんと違ってスレンダーな体型の彼女は、ジューンさんを一瞥しただけで特に反応を示すことなく、僕に視線を戻した。
「シズト様? 今から使われるのですか?」
「あ、ごめん。特に用はないんだ。ジュリーンは仕事続けてていいよ」
「分かりました」
ペコリ、と頭を下げて窓ふきを再開するジュリーン。
……名前が紛らわしい。
ジュリエッタさんやジューロさんはまだ覚えられるけど、一文字増えただけってのはちょっと呼び間違えちゃいそう。
「ジュリーンとジューンって名前似てるけど、何か関係あるの?」
「まあ、あると言えばありますけど、この地方ではありふれた名前ですよ」
「南の方のエルフたちはまた違う名前ですわ。ユグドラシル周辺に暮らしているエルフたちは名前の最初が『ジュ』から始まる事が多いのですわ」
「ユグドラシルの外の集落でも、それは変わらないですね。私は集落の出身なので、ジューン様とは何の関りもないかと」
「そうですねぇ」
なるほど、そういう物なのか。
………ん?
「ありふれた名前だったら、同じ名前の人がいたらどうするの?」
「その場合はどこどこのジュリーン、ってなりますね。住んでいる場所や仕事内容が名前の前に着きます。私の場合は、奴隷のジュリーンとかそんな感じです。略称で呼びあう方々もいますが、元が同じ名前だったら同じ略称になりがちですので」
「なるほど……?」
「勇者たちもぉ、似たような名前じゃないですかぁ。それと同じなんですよぉ」
「そうですわね。ユウト、アキト、カズトって最後にトがつく人もいれば、ファーストネームもファミリーネームも同じ勇者が同時期にいた時もあったらしいのですわ」
「いや、多分それ漢字が違うと思う」
けど、確かに人気な名前だと同じ学年に何人もユウキがいた時はあったなぁ。
それと比べたらマシ、なのか?
んー……まあ、どうでもいいか。
「間違えちゃったらごめんね」
「よくある事なので、気にしないでください」
「そうですねぇ」
「エルフでも間違えてるんかーい!」
それじゃあ僕が間違っても仕方ないよね!
……婚約者だし間違えないように頑張るけど。
魔道具の説明をしようかなぁ、とは思ったけどレヴィさんがぐいぐいと腕を引っ張るので、魔道具の説明をする事無く次の部屋へと移動する。
書斎に入るとロリエルフのジューロさんとアンジェラが仲良く本を読んでいた。
ただ、僕に気づくとアンジェラは読むのを止めて満面の笑顔で駆け寄ってきて、足に抱き着いてきた。
「シズトさま~。シズトさまもおべんきょう?」
「今日は違うよ。ジューンさんに部屋の案内をしてたの。アンジェラはジューロさんに説明し終わった?」
「うん、もうぜんぶおわった!」
「偉いねー」
レヴィさんに腕を組まれているので頭を撫で辛いけど、頭を撫でるとアンジェラはキャーッと言いながらジューロさんの所へ戻っていった。
ただ、ジューロさんは気づいた様子もなく、真剣に本を読んでいる。
ずっとプルプル震えていたのに、今は震えておらず、真剣な眼差しで静かに大きな本を机に広げて読み込んでいるようだ。
邪魔しても申し訳ないから、と料理に関する事が書かれた本がどこにあるのかだけジューンさんに伝えてお暇する。
最後の遊戯室に入ると、パメラが一人で卓球の壁当てをして遊んでいた。
「あ、シズト様デース! 遊びに来たデスか?」
「いや、案内をしてるだけだけど」
「案内だったらちょっと遊んでいくデス!」
「いやいや、まだ三階案内してないし」
ジューンさんの部屋に連れてくだけだけど、そこは黙っとく。
ただ、パメラは諦めずに駄々を捏ね始めた。
バタン、とうつ伏せに倒れるとバサバサと翼をはばたかせながら手足もバタバタさせる。
「暇デス! 遊びたいデス! 遊ぶデース!」
「あらあらぁ……シズト様ぁ、ちょっとくらいならぁ、いいんじゃないかしらぁ? 私は一人でも見て回れますしぃ」
あ、惜しい。『まあまあ』がない。やり直してもらいたい。
とかなんとかくだらない事を気にしていたら、いつの間にか遊ぶ事になっていて、卓球をする事になった。
チームを決めて試合形式でやっているんだけど……悉くレヴィさんに拾われる。
「レヴィさん! 魔法も駄目だけど加護も駄目!」
「楽しいデース!」
「あらぁ? すぐ近くは見辛いですぅ」
「とても分かるのですわー」
まあ、立派なものをお持ちですもんね……?
ってか足元って見えてるのかな。
「あんまり見えないのですわ」
「レヴィさん加護禁止!!」
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