幕間の物語79.エルフたちは伝えるか悩む
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ドラゴニア王国の南に広がっている不毛の大地と、隣接する場所にあるのは都市国家ユグドラシル。
その国は、ユグドラシルと呼ばれている世界樹が有名なエルフたちの国だ。
一時期は観光名所であり特産品でもある世界樹に異変があったが、最近やってきた黒髪の少年によって、元通りになるまで回復していた。
その世界樹を目的に、周辺諸国から多くの旅人がやってきて、街中の人通りも以前と同じくらいに戻っていた。
今日も街は周辺諸国からやってきた人々と、その人々を相手に商いをするエルフたちで賑わっている。
ただ、すべてが元通りになったわけではなかった。
「世界樹の素材はまだ販売されないのですか?」
「ええ、まだ上が混乱しているようで……」
他国からやってきた商人が、困った様子で話を聞いていたエルフの商人から離れていく。
ユグドラシルにあるどこの店に行っても、世界樹の素材は手に入らない状況が続いていた。
以前までは世界樹の使徒が決めた量を街の店が対価と引き換えに受け取り、販売をしていたのだが、世界樹が元通りになっても未だに世界樹の素材が入荷する見込みがなかった。
世界樹の素材を欲する人がわざわざやってきたのに、どれだけ金を積んでも手に入れる事ができない。
エルフに悪態をつく者もいれば、エルフと殴り合いに発展する者もいた。その程度であれば問題はなかったが、禁足地に忍び込もうとする者や、不毛の大地に突如として生えたと噂の世界樹ファマリーに向かう者たちも出始めていた。
人間とエルフの商人同士のやり取りを眺めていた小柄なエルフのジュリーニは、見聞きした内容を紙に書くと、人ごみを縫うように進み、街の中央にある禁足地に向かった。
禁足地は、街の賑やかさが嘘のように静かだった。
鳥の囀りや、木々が風に揺られる音くらいしかない森の中を進んでいくジュリーニ。
幼さの残る顔とは裏腹に真剣な表情で黙々と歩いて行く。
道中でそんなジュリーニの様子を、木の陰や草むらの中から顔を出したドライアドたちが眺めていた。
ジュリーニが歩き続けていると、開けた場所に出た。円形上に切り開かれたように広い空間ができていて、その中央に世界樹ユグドラシルが聳え立っている。
ジュリーニは木漏れ日の中、世界樹の根本付近にあったウッドデッキの上に立つと、どこからともなく現れた赤い花を咲かせた小さなドライアドが彼に話しかけた。
「エルフさん、どうしたのー?」
「ジュリウスに直接会って報告したい。ドランまで転移させて」
「はーい」
手を挙げて元気よく返事をした赤い花のドライアドは、遠巻きで見ていたドライアドたちの方に駆けていき、何やら話し合っていたかと思えばその場から消えた。
しばらくジュリーニが待っていると、転移陣が淡く光り輝く。
そして、次の瞬間には世界樹ファマリーの根元に転移していた。
近くでは白くて巨大な毛の塊が丸まっていたが、ジュリーニは気にした様子もなく、もう一つ設置されていた転移陣の方に歩いて行く。
そちらの魔法陣も淡く輝いていて、ジュリーニがその上で立ち止まると、彼をシズトの住む屋敷の地下に転移させた。
転移した部屋では、ジュリウスが腕を組んで待っていた。その首には奴隷である証の首輪をつけている。
眉間に皺を寄せて、ジュリウスはジュリーニを睨んだ。
「わざわざこっちに来てまで報告する必要があったんだろうな」
「そんな怖い顔しないでよ、ジュリウス。早急に動いた方が良い気がしたからわざわざ来たんだから」
「さっさと報告をしろ。私の投げる番が回ってくる」
「投げる番?」
意味が分からずに首を傾げるジュリーニは、まあいいかと気持ちを切り替えて街の様子をまとめた紙の束を渡す。
それをパラパラと速読したジュリウスは、ジュリーニを見る。
「いい加減、上に立つ人を決めないと、この屋敷まで馬鹿が押しかけてくるかもしれないよ。世界樹の素材を売るにも、他の事をするにも、使徒様は必要でしょ?」
「分かっている。が、やはりシズト様はそのような立場になる事は望まれていないようだ」
「じゃあ飾りでもいいから誰か使徒に祭り上げる?」
「……周辺諸国の目もあるが、それも一つの手か。候補を数人あげておいてくれ」
「条件は?」
「シズト様に害意を持たない事は当然だな。後は……私の一存で決めるのは問題があるだろう。古株のエルフ共にも話をして候補を選別しておけ。候補の中から選ぶかどうかも含めて、どうするかはシズト様にしっかりと説明をした後、選んでもらおう」
「分かった」
ジュリウスは話が終わったと思い、まとめられた資料をジュリーニに渡し、踵を返した。
だが、ジュリーニがその背中に声をかけた。
「後もう一つあるんだけど」
「まとめて言え。シズト様をお待たせする訳にはいかんだろ」
「せっかちだなぁ。ほら、これ。他国のエルフたちが使徒様に、って」
ジュリーニがそう言って差し出したのは、手紙だ。
封がされていて、その封蝋を見てジュリウスは形の良い眉を盛大に顰めたのだった。
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