164.事なかれ主義者は食べる事に集中した
「幕間の物語75.ちびっこ神様ズはたまに見ている」の一部分を修正しました。
短い間だけだったが、エントの体から葉っぱが生え、肌がカサカサになり木の皮のようになった――
↑
エントではなく、ファマでした。
キャラ間違え申し訳ありませんでした。
該当箇所は修正済みです。よろしくお願いします。
レヴィさんのお母様がドランに来ていると聞いた翌日のお昼。
僕はドレス姿のレヴィさんの近くに立って、小さな声で彼女を呼んだ。
レヴィさんは、今日は目の色と同じ青いドレスを着ていてとても綺麗だった。
「レヴィさんレヴィさん」
「なんですわ?」
「挨拶しなくても大丈夫って言ったよね?」
「言ったのですわ」
「じゃあ何でレヴィさんのお母様がいらっしゃっているのでしょうか」
「私に会いに来たのですわ。朝、連絡が来た時にシズトにも伝えていたはずなのですわ」
「それにどうして僕が同席する事になっているんですかね」
「お母様が会いたいと思っていたからですわ。そうなるかもしれないとちゃんとお話ししたと思うのですわ」
されましたよ?
されましたけど、そうならないといいなぁ、って思ってましたけどね!
「随分と仲がよろしいんですね」
「え、いや、そんな事は……ないわけじゃないんですけどね?」
アハハハッ、と愛想笑いを振りまきながら、姿勢正しく椅子に座っている女性を見る。
彼女はパール・フォン・ドラゴニア。レヴィさんのお母様だそうだ。
スラッとした体形で、カッコいい系の美人さんだ。男装が似合いそう。
レヴィさんのお姉さんだと言われても不思議じゃないくらい若々しい肌で、皺ひとつない。あ、嘘。眉間に皺がありましたね。怖いです。
視線をちょっと顔の横に逸らす。
レヴィさん以外で初めて見たツインドリルは、やっぱりどうやってセットしているのか謎だ。
レヴィさんとは色違いで赤色だけど、あのドリルも伸びるんだろうか。レヴィさんのは、この前引っ張って見たら伸びてちょっと面白かったなぁ。
「シズト様?」
「ハイ!!」
「そんな硬くならないでほしいわ。甘い物が好きとこの人に聞いて、持ってきたのよ。こちらに座って一緒に食べましょう」
王妃様? のつり目がちな赤い目が僕を鋭く睨んでいるように感じるのは、僕の被害妄想でしょうか。
「被害妄想ですわ。お母様、目つきが鋭くて誤解されやすいのですわ」
指輪を嵌めていないレヴィさんが、僕の心の声に答えてくれた。
信じていいんすよね! 眉間にめちゃくちゃ皺が寄ってるんですけど、大丈夫なんすよね!
そう思っていても、レヴィさんは特に答える事無くスタスタと歩いて行き、顔がなぜか腫れているドラゴニア国王のリヴァイさんの前に座った。
え、そこ僕が座ろうと思っていた場所なんですけど……。
レヴィさんが僕の方を見て、ポンポンと彼女の隣の椅子を叩く。
……そこだと貴方のお母様の前に座る事になるんですけど。
「シズト様の世界では、客人は立って対応するのが礼儀なのかしら」
「ワカラナイデス!!」
分かんないけど、じろりと赤い目で睨まれたら怖いので、すぐに座った。
いや、たぶん礼儀的には座って対応すると思うんだけどね? そういうマナー習ってないけど、たぶんそうでしょ。たぶん。
「……これは、時間がかかりそうだわ」
「そうですわね。でも、お母様の事を嫌いだとか思ってないのですわ。ただただ緊張と混乱をしているだけですわ」
「先触れも出していたはずだけど、届いていなかったのかしら?」
レヴィさんと王妃様がお話をしている最中に、近くまでティーセットを持ってきた王妃様の侍女が、僕の目の前で紅茶の準備をし始めた。
テレビでめっちゃ高くから紅茶を淹れる人を見た事があるけど、この人は普通なんだなぁ。
「ちゃんと届いていたのですわ。みんな大慌てになったのですわ」
「それは申し訳ない事をしたわ」
「これからも高位貴族や王族が訪れる可能性はゼロではないのですわ。だから、使用人たちにも慣れて欲しいのですけれど、モニカ以外は元々平民でしたし、仕方ないと思うのですわ」
「そこら辺の対応のために、なにか準備はしているのかしら?」
「今の所、していないのですわ。シズトがあまり使用人が多いと落ち着かないと感じているようですし、少しずつ慣れてもらって行こうかと思っているのですわ」
「そうね。最悪、ドラン公爵を頼るのもありだと思うわ。この人とバカな事をする人だけど、使用人は優秀ですもの」
「そうですわね。状況に応じてそうする事にするのですわ」
紅茶がそっと僕の前に置かれた。砂糖や牛乳はない。そのまま飲めという事なんでしょうね、きっと。
美味しそうなクッキーやケーキも並べられている。
小腹が空いているけど、これ全部は食べきれないかも。
「ところで、シズトがさっきから気にしているのですけれど、お父様はどうしてそんな顔が腫れているのですわ?」
「殴ったわ、グーで」
「だそうですわ」
ピタッとフォークに刺したケーキを口に淹れようとしていた動きを止めて、チラッとリヴァイさんを見ると、彼は何とも言えない表情をしていた。悟りでも開いているんすか。
「誰でも殴るわけじゃないわ、安心しなさい。……でも、レヴィを泣かせたら殴るわ、グーで」
王妃様、目つきが怖いっす……。
「もしそんな事をしたら、たとえお母様だとしても、怒るのですわ!」
「子に嫌われたとしても、親にはしなきゃいけない事があるのよ」
「それっぽい事言っても、ダメなものはダメなのですわ!」
母と娘で何やら言い争いが始まった。
割って入る勇気はない。
肩身が狭い思いをしながら、顔が腫れたリヴァイさんと一緒に、甘い物を食べてやり過ごすのだった。
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