幕間の物語77.お母様が動くようです
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ドラゴニア王国の中央にある王都には、荘厳な白亜の城がある。
その城に住んでいる一人の女性は、姿勢よく椅子に座って何やら作業をしていた。
顔の両サイドに赤色の縦ロールがある彼女は、ため息をついた。
「まったく、あの人はいつまでここを留守にするつもりなのかしら?」
この国の王が、王城を留守にしてからもう4カ月以上経ってしまっていた。他国へ訪問しているわけではないのに、長い間帰って来ない事に彼女は苛立ちを覚えていた。
王が不在だったとしても国が回っているのは、王から送られてきた魔道具で遠方からでも書類仕事を任せられる事と、憂鬱そうに再度ため息をついたパール・フォン・ドラゴニアが第一王子の補佐をしながらできる事をしていたからだった。
彼女の髪と同色の目は、気の強さを表すかのようにつり目がちで、きつい印象を人々に与える。今は眉間に皺が寄っていたためそれに拍車をかけていた。
王妃である彼女は、今日も夫の代わりに仕事をこなしていたが、その合間に彼女の息子であるガント・フォン・ドラゴニアに愚痴を言いがちになっていた。
愚痴の相手になっている息子のガントも気の強そうな見た目の青年だ。
母親譲りのつり目がちな淡く赤い目で、パールの方を見る。
長身の母親よりもさらに背が高く、鍛え上げられた体は引き締まっていた。
髪は短く刈り上げられていて、太い眉がさらに気の強そうな雰囲気を醸し出していた。
「一カ月ほどで戻るって言っていたのは誰だったかしら? 次会った時にはお灸を据えないとダメかもしれないわね」
「時期が悪かった、というのもあるかもしれないと思いますが……。レヴィアに会うためにドランに行ったかと思えば戦争ですから。ただ、ユグドラシルや周辺諸国との戦争状態も終わったのですが、未だに戻ってくる様子もありませんし、父上は何をなさっているのでしょうね。僕が北から戻ってくる頃にはいるだろうと思っていたのですが……」
「ラグナ公爵とくだらない話でもしながらのんびり過ごしているのかもしれないわ。まったく、あの人を止める人がいないとすぐだらけるのだから……」
「僕だけでドランに向かい、連れ戻してきましょうか? それなら数日とかからないかと思いますが」
「あの人を連れ出すのは、貴方には荷が重すぎるわ。もう少し様子を見ましょう。幸い、この魔道具のおかげで連絡を取るのは簡単ですもの。とりあえず、ここら辺の書類を送って目を通してもらわなきゃいけないわね」
パールがそう言った時には既に侍女は動いていて、机に置かれていた紙を手分けして運び始めた。
そして、速達箱の中に詰め込めるだけ詰め込んでいく。
「ガント、少し休憩にしましょう」
「分かりました。紅茶でよろしかったですか?」
「ええ、お願い」
ガントの指示で、壁に控えていた侍女の一人が部屋を出て行き、しばらくしてから戻ってきた。
いくつもの焼き菓子を二人が座っている席の前に並べていく。
その間に、他の侍女が紅茶を淹れていた。
その様子をパールが見ている。
「魔道具は便利だけど、やっぱりきちんと最初から最後まで誰かに淹れてもらうのもいいわね」
「そうですか? 僕としては飲めればどちらでもいいのですが……」
「まあ、そういう考え方をする人がいる事も知っているわ。そして、誰でも簡単に美味しい紅茶を淹れられたらいいのに、と思う人がいる事も。あの紅茶を簡単に淹れられる魔道具も、そういう風に考える人がいるからこそ作られたのでしょうし。ただ、私はこうやってのんびりと待つのも嫌いじゃないわ」
不思議そうに首を傾げるガントを気にした様子もなく、パールはのんびりと紅茶が用意されるのを待ち続けた。
ティータイムを終えた後、集中して書類仕事をしていたパールは、同じ部屋で仕事を続けていたガントから話しかけられた。
「母上、父上から手紙が届いたようです」
不思議な箱型の魔道具の速達箱から取り出され、メイドから渡された手紙をパールにそのまま渡すガント。
それを受け取って、封を開けて中を読んで固まる母、パール。
不思議そうにガントが彼女を見ていると、パールはわなわなと震えだした。
ガタッと椅子が倒れそうになるほど勢いよく立ち上がると、パールはガントに背を向けて歩き始める。
そうして足早に歩きながら、彼女は背後でポカンと彼女を見ていたガントに指示を出した。
「ガント……後の事は任せました」
「母上!? どこに行くのですか!」
「レヴィの所よ! 婚約をするって一大事を、手紙だけで済ますどこかの誰かにちょっと小言を言うついでに、相手を見てきます! 戻ってくる時は、国王陛下を引き摺ってでもここに戻るので安心して待ってなさい」
「戦争に加担した国の方たちがいらっしゃったらどうするのですか!」
「いい機会よ、次期国王である貴方が対応しなさい。どのような結果になろうと許すわ」
言いたい事だけ息子に伝えると、パールは部屋を飛び出して急ぎ身支度をするためにメイドを引き連れて私室へと戻っていった。
残されたガントは、少しの間、口をポカンと開けて、開け放たれた扉を見続けていた。
だが、そうしていても仕方ない、と諦めてため息をつくと、仕事を続けるのだった。
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