幕間の物語73.観客たちは金色の物の正体を知って驚いた
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ファマリアに建てられた円形の闘技場に詰めかけた人々は、舞台上に立つ二人の人物を見ている。
上質な布で織られた肌触りも通気性も良い長ズボンに、白いTシャツ姿の黒髪の少年は、不毛の大地の土地の持ち主であるシズト。
王家から下賜されたその土地で、世界樹ファマリーを育てていると、集まった民衆は説明されて知っていた。
大きな宝石が付いた指輪や装飾品を大量に身に着けているが、防具の様な物は身に着けていなかった。
その少年と相対するのは黒髪の青年、ユウト・フォン・ドラコ。ドラコ侯爵の長男で、この勝負を申し込んだ人物だ。
シズトとは異なり、しっかりと防具を身に着けていた。
足を覆うのはシンプルなデザインのミスリル製のソルレット。
胴体もベスト状のアーマーでミスリル製だった。彼の加護の事も考え、特別に作られたそのアーマーの左胸には、家紋が刻まれている。
それぞれが自陣の守るべき卵の側にいる。両手で持つほど大きな楕円形の卵は、舞台の外で控える魔法使いによって生成される。一定の硬度のそれは、ある程度の衝撃で割れるように作られていた。
「試合、開始!」
主審であるジュリウスの合図とともに動いたのはユウトだった。
大きな手の平で自分が守るべき卵を鷲掴みにすると、空いている手から炎が噴射されて高く高く飛びあがった。
それを観客が見上げていると、突如としてシズトのすぐ近くに金色の塊がどこからともなく現れた。
シズトよりも大きな立方体のそれに彼が触れると、上の方からぐにゃりと形を変えて卵を包み込み、半円状のドームが出来上がった。
その様子を観客席よりも高い位置に建てられた櫓の上から魔動拡声器を使って実況をする大柄な男がいた。鎧を身に纏い、マイクを手にするその男は二人の動きを見ながら口を開く。
「さあ、始まりました加護持ち同士の勝負、龍の巣。実況は『お喋りタンク』のボビーが務めさせていただきます。どちらも最初の行動は防衛。ユウト様は自身で守るべき卵を持って高く飛びあがりました。飛竜の相手をした事もありますが、飛んでいる敵は厄介ですねー。あの時は仲間の魔法使いが翼を氷漬けにして落としてました。対するシズト様は何やら金色の物体で卵ごと自陣を包み込んでしまいました。何でしょうね、あれ。え? はいはい、なるほど。シズト様にも複数の加護が授けられており、あれはその内の一つである『加工』のようです。木や金属を自由自在に操り望む形にできるとか。いやー便利ですねー。あれは金でしょうか? 見た目が派手ですねー。どちらも相手の出方を窺う展開になりそうです」
シズトは金色のドームを見て、扇子を仰ぎながら首を傾げていた。が、突然頭上を見ると余っていた金色の物体をその場から消して大慌てで駆けだす。
「おっと、シズト様が舞台中央に向けて走り出した。だがその先には卵がない。狙うべき卵は貴方の頭上にあるぞ! おや? その頭上で様子を窺っていたユウト様、加護を使いながら詠唱をしているようだ。魔力のコントロールが難しい加護と魔法の同時発動を難なく行うのは流石、侯爵令息! 選んだのは上級魔法のメルトバーナーか!? 加護を持っているから詠唱の必要はないが、威力を出すためにわざわざ詠唱しているようです。それを察知してシズト様は守るべき陣地からどんどん遠ざかっているようだ! よほど自分の守りに自信があるみたいですねー!」
空中で静止していたユウトの詠唱と共に、彼の前方に長身の彼よりも大きな魔法陣が描かれていく。
シズトは長方形の巨大な舞台の真ん中まで走って移動できたようだ。ユウトはそれを視界の端で捕らえつつ、目標の金色の物体めがけて魔法を放った。
青白い火柱が熱気を周囲にまき散らしながらドームを包み込む。
魔法が発動されると同時に頭からダイブしたシズトが熱風に煽られてゴロゴロと転がっていく。
「すべてを溶かすと言われる上級魔法メルトバーナーが炸裂したーーー! これはドーム諸共卵が焼失したか! ユウト様、勝利を確信しているのか悠然と高みから火柱が消えてなくなるのを見届ける……って、あるーーー!? 健在! 金色の守りは傷一つなく、健在です! シズト様の陣地担当の魔法使いも卵が健在である事を丸印を頭上に掲げてアピールしています! っていうか、アレ食らって溶けてなくならねぇとか、金じゃねぇぞアレ!!! ……え? あー、今隣の王女殿下の方から紙が飛んできました……アダマンタイトォ!?」
観客席がざわめき、一部のずんぐりむっくりな男が手すりを乗り越えて観客席から下りようとするのをドラン兵が抑え込む中、シズトは起き上がった。だが、すぐにハッとして右手を地面に着く。
ユウトが巨大な火球を続けざまに放ち、その爆風と石の破片がシズトを襲うが、シズトの足元に刻まれた魔法陣が淡く輝いてそれらは彼に届かない。
魔法陣の外で爆風が吹き荒れている様を見て、それから頭上を見るシズト。彼は一つ頷くと、再度金色の物体を何もない所から出現させた。
「ユウト様の猛攻にも金色のドームは傷一つつかなーーーい! だって! アダマンタイトだもの!!! だが、守ってばっかではこの勝負、決着がつかないぞ!? 卵を保持しているユウト様からどうやって卵を奪うのか!」
龍の巣という勝負では、誓約によって殺す意図での攻撃を封じられている。
その他の直接的な攻撃も原則禁じられているが、卵を持っている者にのみ、攻撃をする事が許されていた。
卵を持っている相手を殺さない程度に攻撃して動けなくしてから卵を奪うなり壊すなりするのが普通だった。
だが、シズトは卵を覆うだけで距離を取ってしまった。
これではシズトを攻撃する事はできない。
攻撃の余波でダメージを与えるくらいだが、卵からとても離れてしまったシズトが巻き添えになるほどの攻撃はそれ相応の威力が伴うから使えない。
ドームだけを残して、火球などの爆発の影響でドーム周囲の床が吹き飛んでいるのを見てどうしたものか、とユウトは思考を巡らせた。
お読みいただきありがとうございます。
もしかしたら後日書き直すかもしれません。その時はまた告知します。




