153.事なかれ主義者は心に直接語り掛けてみた
すみません、更新遅れました。
精霊に飛び回られている間に、ジュリウスさんは十分加熱したと判断したのだろう。火柱がなくなっていた。
クーを背負ったラオさんと一緒にジュリウスさんの所まで行くと、彼は金色のドームをぺたぺたと触っていた。
「熱くありませんね。おそらく中身も無事でしょう。シズト様、触っても大丈夫です」
「ありがと」
加工の加護は対象に触って魔力を流さないと使えないから、火傷をしないように確認してくれていたのだろう。
先程まで炎に包まれていたとは思えない程何も変化がない金色のドームに触れる。
「【加工】」
「……中の水も問題ねぇな」
「ほんと不思議金属だね」
これは食器はいいけど、鍋とかフライパンには出来ないな。
……保温とかに使えるかな? 分からん。もうちょっとしっかり勉強しとけばよかった。まあ、そこら辺は実験してみればいいし、最悪付与で何とかなるからいいや。
ラオさんも心を読む加護を持っているのだろうか。ジトッとした感じで見てくるのでちょっと考える事を変えよう。
「火の対策には十分かな?」
「相手がどれだけ加護を扱えるかは分かりませんが、素早く防衛の準備をしてしまえば問題ないでしょう」
「火の力でアダマンタイト諸共持ち上げられたらあれだけど……」
「無理だな。できたとしても、そんな事しようとしたら隙だらけになるだろうさ」
「じゃあ、守りはこれを使って、余ったら攻撃に回そうかな」
「足りないのであれば、宝物庫から持ってきましょうか?」
「いいですー」
少なくとも今は要らないし、勝手に拝借したら怒られそうだ。
それよりも、戦いの経験がないから稽古をつけて欲しいです。魔道具でがちがちに固めるつもりだけど、自分でも動けるようにしときたいし、魔道具を封じる手段を相手が持っていたら大変な事になるし。
「分かりました。では、始めますか?」
「お手柔らかにお願いしますー」
ジュリウスさんに弄ばれた結果、帰る時間がだいぶ遅くなってしまった。
屋敷の地下室に転移すると、モニカが控えていた。黒い髪に黒い目の人間の少女だ。どこかの貴族令息と違って、この見た目だけど加護は貰えなかったらしい。
ドラコ侯爵の息子については以前から知っていたらしい。元貴族令嬢だからだろうか。詳しい事は聞かなかったからか、彼女は話さなかった。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お食事になさいますか? お風呂になさいますか?」
それともわ・た・し? とか言ってこない。言われても困るんですけどね。貴族令嬢だった事もあって、モニカも美少女だし。
「お腹ペコペコだからご飯かなぁ」
「かしこまりました」
モニカの後について食堂に向かうと、すでにみんな座って食事をしていた。
僕がいつもの席に座ると、右斜め前の席にクーが座らされる。彼女を置いたラオさんはクーの正面に座った。
エミリーが配膳してくれた料理を食べつつ、クーの食事の手伝いをしていると、ラオさんの左に座っていたルウさんがラオさんに話しかけていた。既に食事を終えているのか、彼女の目の前のお皿は空っぽだった。
「ラオちゃんたち、遅かったわね。心配だからお迎えに行こうか考えていたところよ」
「ユグドラシルのジュリウスってやつにシズトが稽古をつけてもらってたんだよ。思いのほかシズトの魔力が回復してたみたいで、長い事シズトが粘ってな。鉄やミスリルでも想定以上にやり合えそうだ」
「それは良かったわ」
「お兄ちゃん、あーし、次はそこのお魚食べたいなー」
「はいはい。クーは魚好きだよね」
「だってお兄ちゃんが骨を取り除いてくれるじゃん?」
「確かにこれ面倒だけど……エミリーに頼んで今度から骨を取り除いてから出してもらう?」
「分かってないなぁ、やってもらえるから好きなんだよ。味とか別にどれ食べても変わんないしー」
「ご馳走様っす~~」
「ちょっとノエル! シズト様が食事中なんだから走らないで!」
「ごめんなさいっすー」
ルウさんの正面に座っていたノエルが椅子が倒れそうになるほどの勢いで立ち上がったかと思ったら、走って食堂から出て行ってしまった。尻尾を膨らませて怒っているエミリーを気にした様子もない。あれは今日のノルマが終わってるな。魔道具の研究でもするのだろう。
自分の食事をしつつ、雛鳥のように口をカパッと開けて待っているクーの口に、丸めたパンを弾いて入れていると、ノエルの席の隣で食事をしていたユキが僕に視線を向けてきた。
「明日の予定はどうなっているのかしら、ご主人様?」
「青いバラのドライアドにユグドラシルのお世話の頻度を下げても大丈夫って言われたから、明日からは朝からジュリウスさんに稽古をつけてもらおうかなぁ、って。後は魔道具作りかなぁ。何か作った方が良い物とかある?」
「特にないわ、ご主人様」
「勝負まではご自身の事に専念していただいて構いません、マスター。ノエルにその分、廉価版の魔道具を生産してもらう事にしますので、伝えてきます」
「ほ、ほどほどにね?」
ユキの前に座っていたホムラが席を立ってスタスタと食堂から出て行った。
……こっそり手伝ってやるか。いや、ノエルの作る魔道具と同じ物を作ってもホムラにバレるか。そしたらノエルが折檻される可能性あるし、やめといた方が良いかな。
ちょっと魔道具を作る事ができる奴隷を奴隷商の人にでも探してもらおうかな?
あ~、でもコネがないから難しいかも~。
チラッと机の端の方でこちらの様子を窺いつつ、ちまちまと食事をしていたレヴィさんに視線を向けると、ガバッとこっちを見てきた彼女と目が合った。話し合いが終わってそのまま食堂に来たのか、まだドレス姿のままで指輪を嵌めていなかった。
「!! 今から奴隷商に行ってくるのですわ!」
「ちょ、レヴィア様! 準備が整うまでお待ちください! レヴィア様!!」
口の中一杯に残りの食事を詰め込むとレヴィさんは走って食堂から出て行ってしまった。
それを慌てた様子でセシリアさんが追いかけていく。
これで見つかるといいんだけど……見つからなかったらごめんね、ノエル。
心の中で謝りながら最後のパンの欠片を丸めて指で弾いた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
 




