幕間の物語68.そばかすの少女たちはお風呂に入った
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不毛の大地を進み、そばかすの少女たちが連れて行かれた場所には、雲に届くかと思うほど巨大な木が聳え立っていた。
荷馬車に揺られながら少女たちがそれを見上げていると、御者の男が口を開く。
「今日から嬢ちゃんたちが暮らす町の近くにアレが生えてるんだが、近づくんじゃねぇぞ。おっかねぇ魔物が根元で寝てっからな」
「魔物!?」
「そんなとこに暮らすの!?」
「町から出なけりゃ問題ねぇよ。その他のアンデッドも、魔道具の力で町中には出ないらしいしな。町の外に出たとしても魔道具で簡単に退治できるらしいし」
疑わし気な子どもたちの視線に気づいた御者の男は、それ以上は何も言わなかった。町に着けば理解するだろうから。
子どもたちを揺らしながら荷馬車は進み、町の中に入って行く。
レンガで舗装された道を進む荷馬車から顔を出して、子どもたちが町中の様子を見ると、どこにでもありそうな町だった。
冒険者が行き交い、商人たちは露店で商売をしている。
普通の町と異なるのは、冒険者たちが謎の筒の様な物を持っている事と建物が全て真新しい事だろうか。
そばかすの少女は、冒険者に付いてよく知らなかったが、他の町では、全く同じものを大勢が持っている姿なんて見た記憶がなかった。
少女たちが外の景色を物珍しげに見ていると、荷馬車が止まる。いつの間にか彼女たちの後ろをついてきていた荷馬車がいなくなっていた。
「他の区域に送られたんだ。新人ばかり一カ所に集めても統制取れないから、とかなんとか言ってたな。ほらほら、全員起きろー。寝坊助はいないよな?」
小さな子たちを抱き上げて荷馬車から下ろしながら、子どもたちの様子を見ていく御者の男。
「よし、怪我とかもねぇな。ほんとに、なんであんなに眠ってたんだろうなぁ……分からん。お、来たな」
首を傾げていた男の視線を追ってそばかすの少女もそちらを見ると、自分と同じような身なりの女の子がこちらに向かって歩いてきていた。
首には奴隷である事を示す首輪をつけているが、自分たちとは異なり、清潔感がある。
髪も肌も、手入れをしっかりされているのか奴隷とは思えないほど綺麗だった。服も似たような服だったが、汚れ一つない。
「俺の仕事はここまでだな? それじゃ、次の奴ら運んでくるから」
「はい、お願いします」
荷馬車が進んでいくのを見送ると、身綺麗な奴隷の女の子はそばかすの少女たちをじろじろと見た。頭の上から足の先までじっくりと。
そして何かに納得したかのように頷くと、彼女は口を開く。
「とりあえず、お風呂行こ」
リオノーラと名乗った女の子に連れられて、そばかすの少女たちはファマリアに唯一ある公衆浴場にやってきた。
数少ない男の子たちは、新たに合流した顔に傷のある男の子が連れて行ってしまった。
「ここで服を脱いで、この籠に入れて」
リオノーラは説明をしながら一枚しか着ていなかった衣服を脱ぎ捨て、小さな子たちの脱衣の手伝いをする。
そばかすの少女も何のためらいもなく脱ぐと、木製の籠の中に入れた。
貸し出し用のタオルをそれぞれが借りて、脱衣所から浴室へとぞろぞろと歩いて行く。
浴室には誰もおらず、貸しきり状態だった。
「良い香り……」
「あ、気づいた? 魔道具で作り出されたお湯は良い香りがするんだよ。ただ、飲んじゃダメ。のどが乾いたらそこの魔道具に魔力を流すと水が吹き出すから、そこから飲んで。ほらほら、ちっちゃい子は私のとこに来て。ホムラ様に会う前に体を綺麗にするよ! ちょっとそこ! 体を洗ってから浴槽に入って! ほら、ヘレンも洗うの手伝って!」
「あ、ごめんなさい!」
ボーッと突っ立っていたそばかすの少女ヘレンが、慌ててリオノーラの側に駆け寄る。
「浴室内は走っちゃダメ! こけたら危ないでしょ!」
「ごめんなさい」
「そこの子たちも! 自分で体を洗えるでしょ、こっちで使い方説明するから早く来なさい!」
リオノーラは、注意をしながらも手を動かす。
「え、ここにある物使っていいの?」
「いいのいいの。私たちはシズト様の奴隷だから、無駄遣いしなければ使っていい事になってんの。ほら、一回だけじゃ綺麗にならないから何回か洗う!」
「いいのかなぁ」
ヘレンは、幼い女の子の髪の毛を洗いながら首を傾げた。
奴隷となってから体を拭いて清める事すらあまりさせてもらえなかったのに、扱いが違い過ぎて不安になる。
ただ、そうは言っても先にこの町で生活しているリオノーラの言う事だから、とせっせと小さい子たちの髪と体を洗っていった。
「このくらい慣れておかないと、毎回びっくりする事になって大変よ」
「そんなに?」
「来る時もいきなり三食温かいご飯が出されてびっくりしたでしょ。服も新しい物にされてる頃だと思うけど、ちゃんと着るのよ。真っ白で綺麗だから着れない、って気持ちは分かるけど。あと、寝る時もちゃんとベッドで寝なきゃだめよ。一人一つ用意されてるけど、そのうち慣れて眠れるようになるわ」
「………」
「別に嘘なんてついてないわよ? 私たちのご主人様、異世界転移者らしいのよ」
「え、それって勇者様って事!?」
「いや、勇者じゃないらしいわ。それでも、勇者様たちの世界から来た御方よ。私たちの扱いがこんなのになるのも納得でしょ」
勇者たちの中にも、奴隷を奴隷として扱う者もいたが、多くが同じ人として扱う者が多かった。その事が原因でトラブルや事件も良く起きていて、それは今でも絵本や吟遊詩人によって語り継がれている。
リオノーラがチラッと隣に座って最後の一人の体を洗い終わったヘレンを見るが、彼女はまだ現実として受け止める事ができていなさそうだった。
ただ、そのうち嫌でも実感するだろうから、とそれ以上は主については言わずに自分の体を洗う。
「ちょっとヘレン! もっとしっかり石鹸を使いなさい!」
「わわわ……そんな石鹸使ったらもったいないってぇ~~~」
石鹸がもったいないからと、自分の体をちまちまと洗っていたヘレンは、リオノーラに丸洗いされたのだった。
ちょっと体調がすぐれないので、明日の更新お休みするかもしれません。




