133.事なかれ主義者は贋作を作ってみた
引き続き、朝に更新する事にしました。
先程までめちゃくちゃ迫ってきていたドフリックさんだったけど、レヴィさんの発言でピタッと止まった。
彼女をまじまじと見て、初めてレヴィさんを認識したのか目を瞬かせている。
「お主、誰じゃ?」
「もうボケ始めてるなんて、猶更任せる事は出来ないのですわ」
「レヴィア様、おそらくレヴィア様の見た目が激変しているのでお気づきになれないのかと」
「レヴィア……リヴァイの娘か! いやはや、ドワーフの男の様な体型だったのに、これは見事に人間になったな」
「元から人間だったのですわ!」
「見た目の話じゃ」
「パパン、女性に失礼」
「親方と呼べ。……そうじゃな、失礼した」
「謝る事はできるのですわね……許すのですわ。豚だとかオークだとかいろいろ思われた事はありましたけど、ドワーフと言われたのは初めてだったのですわ」
謝罪を受け入れた後も、レヴィさんは気にしているようでボソボソと独り言を呟いている。
最初の頃のレヴィさんは確かに丸々としていたけど、こんなずんぐりむっくりじゃなかったと思うけどなぁ。気にする事ないよ、とかなんとか思っていたらレヴィさんが何とも言えない表情でこちらを見た。
だが、僕がどうしたのか聞く前にドフリックさんが話を戻した。
「それより、この小僧が加工ができるじゃと?」
「そうなのですわ。鉄だろうと木だろうとミスリルだろうと自由自在なのですわ!」
「こんな細っこい奴がのう……?」
疑いの眼差しで僕をじろじろ上から下まで見るドフリックさん。
どれだけ見てもあなたと比べたら僕はひょろひょろっすよ。
「だから言ったろう、ドフリック。どのような方法か聞いておらんが、鉄や木で物を作っているんだ。最近はミスリルを使って何かを作ったみたいだしな」
「そうなのですわ! だから、必要ないのですわ~。分かったらとっととお父様と帰るのですわ!」
「レヴィア、久しぶりなんだしちょっとくらい話をしないか?」
「お断りするのですわ! お父様ってば、シズトの前で昔の話をするから嫌なのですわ!」
情けない顔のリヴァイさんを気にした様子もなく、ドフリックさんが僕を真っすぐに見据えてきた。
「であれば、勝負しようではないか。どちらがより質の良い武器を作れるか」
「え、いやです」
「ハッ、怖気づきおったか」
「んー、っていうか、それ僕にメリットないじゃないですか」
「パパン、負けた時の事提案して」
「親方と呼べ。そうじゃの、ワシが勝つとはいえ、何かしら用意せねばお主もやる気にはならんか」
「いや、そういうのあっても多分やらないと思います」
面倒だから。それに武器は作りたくないし。
そんな僕の思いを悟ったのか、それとも騒がしくてイライラしていたのか、部屋の端っこの方でだらだらしていたクーが立ち上がると、ドフリックさんへ近づいていく。
「おっさん、うるさい。ばいばーい」
「なにを――」
その小さな手の平でドフリックさんに触れる。
ドフリックさんが払いのけようとしたが遅かったようで、次の瞬間にはどこにも見当たらなかった。
クーは一仕事終えた様子で、僕に近づいてくると、座るように指示をしてくる。
言われた通り座ると、その上にクーが乗った。ちょっと今食べたばかりなんですけど……。そんな事なんてお構いなしに、クーはベストポジションを探しているのか、もぞもぞしていた。
「転移の魔法使いか。どこから連れてきたのだ?」
「ドランに入ってきたら俺の所に話が来ると思うのだが、記憶にないな」
「ユグドラシルに行った時に出会ったのですわ」
うん、嘘ではないね。大事な事を言ってないだけで。
翌日、再びやってきたドフリックさんに売り物の片手剣を渡した。
それをまじまじと見ているドフリックさん。
鉄製のそれをひとしきり眺めた後、ドフリックさんは帰って行った。
一緒に様子を見に来ていたレヴィさんと顔を見合わせる。
「なんだったんだろうね」
「知らないのですわー」
それから半日後、再び戻ってきたドフリックさんは鉄製の片手剣を持っていた。
「これは?」
「ワシが作った物だ。手早く作ったから直したいところはあるがな」
「なるほど……それで?」
「直接比べた方が、腕前の差が伝わるだろうと思ってな。お主の作った剣をくれ。金なら払う。ああ、それと剣の扱いが同じくらいの者たちがいるといいんだが」
「それなら私とラオちゃんが同じくらいだと思うわ。ほとんど使わないから素人だけど。何をするのかしら?」
「どっちが良い物か、剣同士をぶつければ分かるじゃろ」
話はトントン拍子に進んで、防具を身に付けた二人が向かい合っていた。
ラオさんは僕の作った片手剣を持ち、もう片方はルウさんが持っている。
「あら?」
「あ?」
打ち合わせ通りに、二人は剣同士をぶつけようとした。だけど、鍔迫り合いすら起きず、僕の造った剣が両断される。
………。
「ちょっとドフリックさんの剣見せて」
「構わん。仕掛けなんてしとらんからな」
腕を組んで鷹揚に頷くドフリックさん。
僕はラオさんが持っている片手剣を見る。
……正直よく分からない。
ただ、真似るくらいはできるだろう。
そう思って、側に控えていたセシリアさんに視線を向けると、彼女の隣でレヴィさんが既に鉄を持っていた。
考える事は同じなのだろう。
「【加工】」
「む?」
鉄のインゴットの形が変わり、ドフリックさんが作ったそれとそっくりなものが出来上がった。
もう一度、ラオさんとルウさんにしてもらったけれど、結果は変わらない。
ドフリックさんの片手剣は刃こぼれ一つない。
もう一度作って、今度はラオさんに僕の造った片手剣を持ってもらい、もう片方をルウさんに持って貰った。
それでも、やっぱり結果は変わらなかった。
「なるほど、加護の力か。お主は外側だけは完璧に真似る事ができるんじゃな」
ドフリックさんは、僕の両断された片手剣を見て、何か納得した様子で一人頷いていた。
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