130.事なかれ主義者は見送った
今日はお休みなので早めに更新します。
陽太たちは夕暮れ前に帰った。
僕はそれを自室の窓から見送る。
今後、彼らがどうするのか知らないし興味もないけど、同じ異世界から来た知り合いだし無事にうまくいくように祈っとこ。
彼らが出ていった後もしばらく窓の外をぼんやりと眺めていたら、レヴィさんがそっと側に寄り添ってきた。
「シズトは優しいですわね」
「え、どこが?」
「彼らの事を嫌がってる割には助けるような事を言ったり、今も彼らの無事を祈ったりしたりしてる所ですわ」
レヴィさんが扇子を返してきた。
『読心』の魔法を付与したその魔道具を間違って使ってしまわないように、アイテムバッグにしまう。
「知り合いが酷い目にあったら寝覚めが悪いだけだよ。前の世界での事を向こうは謝るつもりはないだろうし、別に僕も謝って欲しいとは思ってないけど、謝罪の代わりに魔道具をちょーっと高めで買ってもらおうかなって思ってお店紹介しただけ」
陽太たちからいじめを受けていたわけじゃない。
虐められないようにパシリに自分からなっていったから、自分にも落ち度はあると思う。
もっと別の方法で仲良くなって、虐められないようにする事も挑戦できたはずだけど、それまでそうして生きてきたから楽な道を選んじゃったんだな、って今なら少し思う。
まあ、今も楽な道を選んでるわけですけどね。
恨まれたら面倒だから、少しでも楽できるように穏便に済ませただけだし。少しでも恩義を感じてこっちに面倒事を持ってこないようにしてくれればそれだけで御の字。
「そういう事にしておきますわ」
「シズト様。彼らが話していた内容をお聞きしますか?」
モニカがダンジョン産の紙を持って部屋に入ってきた。
応接室の中に置いておいたフクロウの置物は、電話の様な魔道具だ。
対となる物を別の部屋に置いておいて、念のためモニカに聞いてまとめておいてもらった。
「僕に面倒事が来そうな感じの話あった?」
「特には御座いませんでした。これからの事を話し合っているだけの様でしたね。伝達系の魔法を使われたり、筆談をされていたら分かりませんが……」
「まあ、そこら辺は気にしなくていいよ。向こうの話を盗聴する事が目的じゃなくて、うまく使えるかのテストをしたかっただけだから。応接室の結界に邪魔されずに聞けたってだけで十分。記録してくれた物は処分しておいて」
「彼らの今後についての話など出ていましたが、よろしいのですか?」
「うん、興味ないから」
「かしこまりました」
深く礼をして、モニカは部屋を出て行った。
静かに控えていたセシリアさんも、モニカの後について出て行く。
夜ご飯まではもう少し時間があった。
万が一に備えて、今日は魔力を温存するために世界樹の世話をしてなかったんだけど、蓋を開けてみれば何事もなく終わったし、ユグドラシルの世話でもしてくるか。
「それなら私は、ファマリーの農園を見に行くのですわー」
「え、流石にドレスで行くのは止めた方がいいんじゃない?」
「大丈夫なのですわ!」
大丈夫じゃない気がする。めっちゃ高そうじゃん、その服。
ただ、今日の服は一人では着脱できないらしいので、そのまま部屋を出て行ってしまった。
ユグドラシルのお世話をパパッと済ませて、転移陣で戻るとドライアドたちと一緒にお祈りをしているレヴィさんがいた。その近くにはドーラさんもいて、同じように祠の神様の像に向けてお祈りをしている。
「帰るよー! ドーラさん。ラオさんとルウさんは?」
「周辺の様子見てる。先戻れって」
視線を着々と建物ができている方に向けてドーラさんがそう言った。
もうほとんどドラン方面の建物はできていた。
職人たち向けに商売をしている屋台の食べ歩きでもしているのかもしれない。
それか、冒険者ギルドに顔を出しているのかも。
ギルドマスターと副ギルドマスターが決まったら本格的に動き出すらしいけど、今は暫定的にイザベラさんとクルスさんが頑張っているらしい。まあ、仕事は街の警備くらいしか今はないらしいけど。
「じゃあ戻っちゃおうか。ほら、レヴィさん。いつまでも遊んでないでドライアドたちにバイバイして」
「分かったのですわー」
バイバーイ、とドライアドたちに見送られながら転移陣で戻る。
転移した先では、セシリアさんが静かに待っていた。
「お待ちしておりました、シズト様。お食事になさいますか? お風呂になさいますか?」
「ご飯で。お腹空いたし。ラオさんとルウさんはちょっと帰りが遅くなるかも」
「かしこまりました。エミリーに伝えておきます」
「セシリア、脱ぐの手伝ってほしいのですわ!」
「かしこまりました。それではシズト様、失礼します」
「ご飯先に食べてていいのですわー」
「私も着替える」
あ、そう? じゃあ食堂に行って先に食べようかな。
皆いないから静かな食事になるかな、と思って食堂に入ると――。
「おお、我らが友よ。先に頂いておるぞ」
「ドラゴーニュのぶどうジュースも持ってきたぞ。これなら飲めるだろう?」
リヴァイさんとラグナさんが椅子に座って食事をしていた。
ラグナさんがボトルを掲げてにぃっと笑っている。
二人と一緒にずんぐりむっくりで髭もじゃの人と、小柄な女の子もいるけど、問題はそこじゃないよね。
エミリーを見ると、尻尾も耳もボワッとしていて固まっていた。
……僕も知らなかったんだよ、ごめん。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
 




