114.事なかれ主義者は待ってただけ
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ユグドラシルで残って戦ってくれているエルフたちの手助けをお願いすると、ホムラはすぐに引き受けてくれた。
ただ、ちょっと釘を刺しとこ。
「前提条件として、ホムラが無事に戻って来なきゃだめだからね? やばそうだと思ったらすぐに帰還の指輪使ってね?」
「かしこまりました、マスター」
「あと、アイテムバッグの中に入ってるもの好きに使っていいから」
アイテムバッグの中には以前作ったエリクサーの余りや、ちょっと外に出せないだろうな、ってラオさんの顔を見て判断した魔道具が眠っている。ホムラならうまい事使ってくれるだろう。
「それでは、手早く処理してきます、マスター」
「ちょっと待て。お前一人で行かせたら何やらかすか分かったもんじゃねぇ。アタシも行く。さっきの速さで行かれたらついていけねぇから、台車で連れてけ」
「邪魔なので、お断りします。私一人で向かった方が早く着きますので」
「アタシは呪いの加護持ちとやった事があっから、その経験を活かして生存率上げれると思うぞ? シズトはお前の命優先で、って言ってただろ」
「………」
「私も行くわ。万が一の時は緊急回避で一度くらい助けられるわよ。ドーラちゃんはシズトくんの護衛をお願い」
「分かった」
ホムラは諦めたのか、浮遊台車を新たに取り出す。
浮遊台車に二人乗りした時の経験を踏まえ、少し大きめの物を作っていたのが、今役に立つようだ。
ラオさんとルウさんは大柄なので、どうしても今まで作った物だと二人同時には乗れないし。
ラオさんとルウさんが浮遊台車に座ると、ドライアドたちがわちゃわちゃと同乗する。
「それでは、ごゆっくりお休みください、マスター」
そう言うとホムラは浮遊台車を押して駆けだした。
あっという間に森の奥まで突き進む台車を見送り、しばらく立っていると、不意に袖がクイクイと引っ張られた。
「とりあえず、馬車に乗るのですわ」
「防御魔法が重ね掛けされてる。安全」
促される形で馬車に乗り込む間際、誰かに名前を呼ばれた気がして周りを見渡すけど、街の住人たちがこちらに手を振っているのが見えた。名前も知られてるのかな。何か使徒様ってめっちゃ言われてるけど、名前で呼ぶエルフもいるのかもしれない。
「早く乗るのですわ」
「ごめんごめん」
座席に腰かけると、後から乗り込んできたレヴィさんがすぐ隣に座り、正面にはドーラさんが座った。
体が触れ合うその距離に緊張しつつ、さっき気になった事を聞く。
「邪神の信奉者、っていうのは邪神の加護持ちの事を言うのですわ。ルウがずっと眠りから覚めなかったのも、邪神の加護持ちとの戦いのせいらしいですわ。有名なのは『呪い』の加護。命あるものすべてを蝕む加護ですわね。『呪い』の加護にも複数できる事があるようで、物語として有名なのは見ただけで相手を呪う『呪眼』や、言葉で相手を呪う『呪言』ですわね。あとは加護の力が強いと、遠く離れた場所から呪うとかいろいろできるみたいなのですわ」
「怖!?」
「魔力が少ない者や、弱っている者は特に呪いの影響が出やすいですわ。シズトも魔力を鍛える時は注意するのですわ! 貴族も社交界デビューするまでは子どもの本名を知るものをごく一部にしたり、子どもを外に出さなかったりした状態で魔力を鍛えるのですわ」
「貴族は狙われやすい。恨みを買ってるから」
「後は単純に名前を知られてたり、容姿を知られているのも理由の一つだろうと考えられているのですわ。加護持ちに直接聞いたわけじゃないから推測でしかないのですけれど、シズトも今回の事で多くの人に知られたから気を付けるのですわ」
そんな怖い相手をしにホムラたちを行かせてしまったけど、大丈夫かな。
……帰還の指輪もあるし、エリクサーだってあるけど、どうしても心配になる。
落ち着いてなんていられず、そわそわして貧乏ゆすりをしていると、その足を止めるように、レヴィさんがそっと手のひらを太ももに置いた。
「こういう時こそ、どっしりと構えて吉報を待つのですわ」
そうしてどのくらい待ったか分からない。
やっぱり時計がないと不便だな。
そんな事を考えられるくらいには心に余裕が生まれた。
セシリアさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、ホムラたちがこっちに向かってきていると、ジュリーニが教えてくれた。
禁足地の中の気配を精霊魔法で探知できるらしく、誰一人欠けてないと教えてくれた。
馬車から降りると彼が言った通り、禁足地の森からエルフたちが出てきていた。
そのエルフの集団の真ん中ら辺にラオさんとルウさん、そしてホムラがいた。
三人共どこにも怪我が見受けられない。
「終わったの?」
「ああ、私たちに大した怪我もなく、な」
「ジュリウスが頑張ってくれていたおかげで、特にやることがなかったわ」
「もう何も問題ありません、マスター」
「そっかそっか。それはよかった。……ところで、その背負ってる子は誰かな?」
何か見送った時より増えてるよね。
予備のローブを着ているホムラが、布にくるまれた小柄な人物を背負っていた。
布に包まれているからよく分からないけど、結構小さい。ドライアドたちより大きいから、彼女たちではないと思うけど……。
「魔法生物です、マスター。まだ名前はありません」
そっかー、魔法生物かー。
アイテムバッグの中の物は好きに扱っていいとは言ったけど、知らない間に増えてくなー。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
 




